VOLTECHNO(ボルテクノ)

ガジェットとモノづくりのニッチな情報を伝えるメディア

2022年11月6日

HiKOKIが開発中の次世代工具 バッテリーアシストコンプレッサ

HiKOKIが開発中の次世代工具 バッテリーアシストコンプレッサ

工機ホールディングス株式会社は空気工具用の新たな方式として、バッテリーアシスト機能を搭載する釘打ち機用コンプレッサの特許を出願しました。AC電源とバッテリー電源を合わせたモーター駆動を行うことで圧縮エアの汲み上げ速度を向上させ、数多くのエア工具の同時動作に対応できるようになります。

本記事は工機ホールディングス株式会社が保有する産業財産権の情報を解説・紹介するものであり、新製品の開発動向を保証するものではありません。

AC電源+バッテリーで汲み上げ速度を向上する特許

電動工具ブランド HiKOKIを展開する工機HDは、2020年5月にバッテリーアシスト機能を備えた新型コンプレッサの基礎特許を出願しました。

AC電源で動作するコンプレッサーに電動工具用バッテリーを装着できるようにし、エア汲み上げをAC電源+バッテリーアシストによって圧縮エアの汲み上げ速度を上昇させるものです。

アシスト動作時はAC電源+バッテリー電源を加えた強力なモータ出力でエア汲み上げを行い、モータ停止時はバッテリー充電を行う構造を特徴としています。

一般的な釘打ち機用コンプレッサはAC100V電源の容量(1,500W)がモータ出力の限界ですが、本特許を使用すればバッテリー出力分を加えた高出力動作を可能にします。原理上の最大出力はAC100V(1,500W)にBSL36B18バッテリー(1,440W)×2を加えた4,380Wに達します。

コンプレッサをバッテリーアシストする利点

AC電源動作のコンプレッサにバッテリー電源を加えるアイデアは、単純ながらも有効な特許です。

釘打ち機の稼働台数を増やせる

建築作業用のコンプレッサのエア汲み取りスピードは、モータ出力に依存しています。そのモータ出力もAC電源で動く以上供給電力の制限を受けており、一般的な100V機器においては1,500Wのモータ出力が限界でした。

モータ出力が上がれば圧縮エアの汲み取りスピードも大きく向上するため、1台のコンプレッサで複数台のエア工具の駆動が可能になり、大規模な現場でのコンプレッサ稼働台数を減らすことが可能になります。

余らせているバッテリーを有効活用できる

電動工具用バッテリーを余らせている方にはハイブリッドコンプレッサ運用がピッタリです。バッテリーはそのまま長期保管していると劣化が進んでしまうので、劣化させるよりはコンプレッサで運用した方が良いでしょう。

HiKOKIは定期的にバッテリーを配るキャンペーンを行っているので、マルチボルトバッテリーが余っている方も有効活用できます。

欠点や課題も山積み、全てにおいて優れる訳でもない

単純なアイデアとして評価するなら魅力的な特許に見えますが、もちろん欠点や課題もあります。

電源容量の問題を根本的な解決するわけではない

バッテリーのハイブリッド化によってモータ出力を上げることは可能になりますが、AC電源そのものの供給電力が上がるわけではないので、アシスト動作を続けていれば必ず電力不足になります。

本特許は「エア消費のピーク負荷」の許容量を増やすことを目的としたものであり、AC電源の供給電力を常に超えるエアを消費する作業においてはバッテリーアシストの利点を活かせません。

本質的なコンセプトは、タンク搭載数の増加や補助タンクを接続するのと違いは無く、電気エネルギーをバッテリーの化学エネルギーとして貯めるかエアタンクの圧縮空気エネルギーに貯めているかの違いでしかありません。

騒音・振動が増加

エア汲み上げのモータ出力が上がると、その分動作時の騒音・振動は大きくなります。

昨今はリフォーム需要などの住宅地密集地や集合住宅での作業も多く、騒音があまりにも大きいコンプレッサは避けられる傾向があります。

本体価格と盗難リスクの増加

バッテリーのアシスト動作の搭載は本体価格の増加要因になると予想されます。上の図はバッテリーアシストコンプレッサーに搭載する回路のブロック図ですが、従来のコンプレッサなら下半分の青い部分の制御回路だけで済んでいたものがハイブリッド化によって倍以上の制御回路が必要になります。

電源+バッテリーアシスト電源供給+バッテリー充電を制御するソフトウェアの開発も複雑なものになると予想され、その開発コストは売価に反映されることになり、従来コンプレッサと同じ価格で販売するのはまず不可能と考えられます。

価格設定はバッテリー込みで1.5倍~2.5倍程度になると予想しており、実際に販売されたとしてもコストに見合う作業性を実現できるのかよく検討する必要があるでしょう。

運用コストの上昇

釘打ち機用のコンプレッサは消耗品のような製品であり、一定の動作時間ごとに定期的なメンテナンスが必要です。

ハイブリッドコンプレッサでは、1,000時間前後の定期メンテナンスに加えバッテリーの消耗買替費用も加わるため、エア釘打ち機を使用する運用コストは倍近いものになると予想されます。

バッテリーアシストを加えた高出力の汲み上げはメカ部品にも高い負荷が加わるものと予想され、機械部品としての全体的な寿命は更に短くなるでしょう。

別の懸念としては、盗難時にバッテリー一式で持ってかれてしまう可能性が高い点や、バッテリー搭載による発火リスク・発火点の近くに高圧縮エアがある影響など、被害リスクも高くなります。

投入する技術開発リソースの割に採算性が悪い

これは製品的な問題ではなく、工機HDの製品開発方針や採算性に対する懸念です。

本特許が有効活用できる国は、AC100V(1,500W)と銃刀法による規制があり、高圧エア工具が普及している国、つまり日本しかありません。特許では「コンプレッサ以外にも幅広くバッテリーアシストを活用できる」とも記述がありますが、バッテリー技術そのものとしては容量増加・出力向上の方針に進んでおり、技術としての旬がいつまで保てるのかは大いに疑問です。

技術的には意欲的な特許ではあるものの、工機HD全体から見れば全体売上比率20%以下の日本市場限定の商材であり、その中のさらに市場規模の小さい空気工具市場に向けた製品でしかありません。

グローバル展開の望みの薄さが見えている技術にリソースを投入することは、経営方針として研究開発の方向性が良いとは言えず、「実用化しても技術開発リソースの投入量に対して採算を合わせるのは難しいのではないか?」と推測しています。

期待の製品だが不安点も多い、実製品の完成度に期待

ハイブリッドコンプレッサはAC電源の限界を超える期待の製品であり、実際に販売が開始されれば話題の製品になり注目を集めそうではありますが、不安な点も多い製品です。

技術的な課題は解決可能なので実用化に問題は無さそうですが、製品としての実態や企業としての採算性の考え方に対しては少なからず疑問が浮かびます。

筆者としては、ガラパゴスになりやすい日本限定製品を作るよりは、Metabo HPTブランドで強みを持つ釘打ち機としてのブランドを発展させ、ロール釘巻き上げ機構の開発や軽量化を実現する積層セルバッテリー開発を進めた方が業界内で有意義に立ち回れるのでは?と考えており、経営戦略的な面も含めこのコンプレッサの特許の存在には若干懐疑的です。

例え日本市場の市場拡大や開発技術のアピールが目的だとしても、電動釘打ち機を規制対象外にするための法解釈や新技術の発見やロビイングに努めてもらった方が良い、とさえ思います。

もちろん、これは特許を眺めただけの一方的な印象を述べているだけなので、実際に製品化した時の完成度次第ではここで上げた懸念全て吹き飛んでしまう可能性も十分にあります。実際にバッテリーアシストコンプレッサの販売が開始されたときに、どのような製品になるのか楽しみです。

工機HDの北米ブランド metaboHPTの充電式電動釘打ち機NR3665DA
正直なところ高出力コンプレッサを作るよりは、電動釘打ち機の国内展開を模索してくれた方が嬉しいと思ってしまうところ。
画像引用:36V Cordless Metal Connector Nailer | Metabo HPT NR3665DA
Return Top