本記事は工機ホールディングス株式会社及び関連会社が保有する産業財産権の情報を解説・紹介するものであり、新製品発売や経営動向を保証するものではありません。工機ホールディングス株式会社及びHiKOKI(ハイコーキ)取扱店へのお問い合わせはお控えください。
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36Vモデル専用のHiKOKI次世代バッテリー
電動工具ブランド HiKOKI(ハイコーキ)を展開する工機ホールディングス株式会社は、2021年10月に電動工具用の新しいバッテリー意匠図を含む特許を出願しました。
本意匠図は、マルチボルト機能を排して高出力化を実現する新型バッテリーと予想されるものです。
バッテリーセルのタブ接続形状から、36V構成の10S1Pセル構成になっているものと見られ、HiKOKIの現行バッテリーが備える18Vコードレス製品と共用できる「マルチボルト」には非対応と予想されます。
18Vコードレス製品にも装着できた「マルチボルト」機能は排除
本バッテリーは36V専用のバッテリーパックになると予想されます。
従来のマルチボルトバッテリーでは、5直列×2本をそれぞれバッテリー端子に備えることで、工具側の配線で18Vと36Vを任意に切替できる機能を持っていました。しかし特許内の新バッテリーは36Vの10S1Pタブ配線であり、バッテリー接点も18V切替に必要な端子も確認できません。
このバッテリー構造と対応電圧から、互換対応としては下記のような関係性になると予想されます。
特許自体はバッテリホルダーでセルを冷却する構造
今回の特許には新バッテリーの意匠図を記載していますが、特許の内容そのものはバッテリー放熱に関する特許です。
特許それ自体は、セルホルダを外部に露出する構造にすることで、効率的にバッテリーセルを冷却するための構造に関する内容になっています。バッテリーセルの温度上昇を抑えられれば、その分だけ高出力を得ることができるので、より性能の高いバッテリーを作ることができるようになります。
ちなみに、同じような構造を持つ電動工具用バッテリーは既にボッシュがProCore18Vとして展開を行っており、セルホルダでバッテリーで冷やす今回のコンセプトはボッシュの後追いとも考えられます。
特許そのものは、今回の新バッテリーだけを対象とするものではなく、既存の18Vバッテリーも想定しているようで、5S3P(15S1P?)や5S1Pバッテリーなどへの適応例も記載されていました。
本当にできるのか?HiKOKI次世代バッテリー構想
マルチボルトバッテリーによる36V対応を行いながらも、今回のような新36Vバッテリーを展開した理由の背景には、電動工具用バッテリーにおける技術的負債の概念が関係しているのではないか?と筆者は考えています。
HiKOKIの現行のマルチボルトシリーズは、2007年からの14.4Vシリーズを母体とするバッテリープラットフォームです。そのため、大電流放電やレシプロソーによる振動など当時想定していなかった製品を許容できる構造とは言い難く、その構造が技術的負債として限界が近づいているものと予想しています。
また、マルチボルトバッテリーが持つ18Vと36Vを共用できる機能に関しては、実質的にそこまで優位性を確保しているものではありません。むしろ中途半端に18V互換機能を残してしまったために、これ以上性能向上できる余地が妨げられてしまったとも捉えられます。
とは言え、現在のHiKOKIブランドにおける最大の強みは、マルチボルトバッテリーによる従来18Vコードレス製品と36Vコードレス製品が共用できる点にあります。その最大の利点を失うことは、競合マキタに対して明確なユーザー好感を得られている部分を自ら削ぎ落すことでしかありません。
正直なところ、このHiKOKI36V専用新バッテリーは、評価が難しい製品になると考えています。
競合マキタに関しては、18Vバッテリーの諸問題を40Vmaxへの一新によって解決を図りましたが、今回のHiKOKI新バッテリーに関しては、結局従来18Vバッテリーとの互換性を切る仕様としながらも、互換機能を中途半端に残さざるを得ないために、構造的な強度や端子接点の問題などは解決されないのではないかと考えています。
バッテリーとしては36V高出力仕様となり、類似する製品としてはマキタ40VmaxのF仕様バッテリーやボッシュProCORE18Vがあります。今回のHiKOKIバッテリーに関しては、既存の18V充電器が使えない関係上、ユーザーの使い勝手として若干劣ると考えられ、互換性と言うには中途半端な製品になってしまう可能性があります。
ユーザーのことを考えれば互換機能を持たせるのは必須ではあるものの、企業として市場拡大や新製品創成を繋げるためにはそれに応じたプラットフォームを用意しなければありません。「ユーザーを考えて互換機能を持たせたハイコーキ」と「新プラットフォームで市場拡大を狙うマキタ」で企業方針は見事に分かれた訳ですが、結果的にどちらの選択が正しかったかを知るためには、もう少し時が流れるのを待つ必要があるのかもしれません。