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プラスネジ締付けで気を付けなければいけないカムアウト
「カムアウト」と言う現象をご存知でしょうか、名前は聞いたことなくても、インパクトドライバーを使う方なら誰しも経験がある締付け中にビットがネジ山が外れるあの現象です。
ネジ山のプラス形状は、ビットがネジ頭から逃げやすい構造になっており、締め付け時にビットが外れるとネジ頭を削ってしまったり、材料に傷をつけてしまったりとカムアウト1つで大きな手間が発生します。
一般的には「押し付けが弱いから」とか「先端がブレるから」といった理由が挙げられ、作業の方法やビットの相性などが原因と言われています。しかし、近年のインパクトドライバーの「小型化」「高性能化」のデメリットとも言うべき、最近のインパクトドライバー自体構造に潜む原因については見過ごされているように感じています。
電動のインパクトドライバーに潜むハンマーの上下運動
インパクトドライバーの締め付け力はハンマーがアンビルを叩いて発生する打撃力が元になっています。電動のインパクトドライバーの打撃機構はアンビル・ハンマー・ハンマスプリングの3つの部品から構成されています。
インパクトレンチなどで径の大きなボルトを打撃している時、締め付けているのにインパクトレンチがボルトから浮き上がる感覚に覚えがある方もいる思います。電動インパクトの打撃機構には、打撃している時に浮き上がる力が発生しています。
この上下運動は非常に短い時間の運動であり、打撃とほぼ同タイミングで発生しているため、注意深く作業しないと気づくことはありませんが、この浮き上がる力を上手く抑えないとプラスネジではカムアウトの原因となってしまいます。
※参考|インパクトドライバー打撃時のハンマケース内の動き|How An Impact Wrench Works
高性能化・小型化・軽量化・の知られざるデメリット
最近のインパクトドライバーは180N・mと非常に大きな締付けトルクのカタログスペックを持っています。しかし、小さくパワフルになることのデメリットも存在してます。それこそが、カムアウトしやすいというデメリットです。
モーターのパワーを上げることでインパクトドライバーの締め付けトルクも上昇しました。ブラシレスモータ―の開発によりモーターパワーが上がると、ハンマーが後退する力も増えたため、後退したハンマーをタイミングよく叩くためのハンマースプリングも強くなりました。
ハンマスプリングが強いと言うことは、強い力で後退したハンマがアンビル側に戻るということです。つまり、ハンマーの戻る力の反作用により、インパクトドライバー本体はネジの締め付け方向に対して浮く力が働きます。
現在のインパクトドライバーは、モーターの小型化が進んだことで小さく・軽くなりました。パワーが上がった事も重なり、このハンマーの上下運動による影響は昔のインパクトより大きくなってきています。
まとめ|インパクトドライバーに含まれる上下運動を意識してネジ締めしよう
最近のインパクトドライバーはパワーがあるため「ネジ締めが外れないよう」にする程度の押し付け力では足りない場合があります。そのため、内部のハンマーの上下運動によって「浮き上がるインパクトを押し付ける」ような力を加えなければいけません。
インパクトドライバーに使う作業と言えばプラス木ねじの締め付け作業がほとんどでしたが、現在では単管の組み立てやコーチボルト締め付けなど、高いトルクを必要とする作業にも使われています。この先もインパクトドライバーの小型化・高性能化は続いていくと考えられますが、ハンマーの上下運動の影響は更に強くなっていくのかもしれません。
ちなみに、上下運動の発生しないドライバドリルはカムアウトしないのか、ということはありません。例え180N・mのドライバドリルがあったとしても長い木ねじの締め付けは非常に難しく、プラスネジはビットが逃げやすい構造になっているため、180N・mもの継続的な締付けによる逃げを人の力で押さえつけることは難しいでしょう。それに比べればインパクトドライバのネジ締めの作業性は素晴らしいものです。