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マキタへのパナソニック電動工具事業移管、そして今後マキタに何が起こるか【電動工具業界コラム】

マキタへのパナソニック電動工具事業移管、そして今後マキタに何が起こるか【電動工具業界コラム】

ここからは下記の内容は編集部による考察によって構成しており、今後の企業方針や動向予測を保証するものではありません。当記事の内容を元にした企業や取扱店へのお問い合わせはお控えください。

電材とのシナジーよりも事業売却を選択したパナソニックHD

2026年3月31日、パナソニックは同社の電動工具事業をマキタに移管することを発表し、国内の電動工具ユーザーを驚かせました。

パナソニックは1979年の日本初の充電式電動工具の発売以来、45年以上にわたって同事業を展開してきた実績を持ち、国内の電動工具市場ではマキタの存在感が大きい一方で、パナソニック電動工具もインパクトドライバーやドリルドライバーをはじめとする主要製品を継続展開してきた電動工具ブランドです。

特にパナソニック電動工具は、公式WEBカタログ、製品ページ、価格改定資料のいずれもが電設資材の体系の中で運用されており、電設資材ルートとの結び付きが強い点に特徴があります。こうした販売体制を踏まえると、同ブランドは電気工事・設備工事の現場と極めて高い親和性を持つ高い存在だったといえます。

画像引用:パナソニック エアコンアクセサリーカタログ2026

一方、近年の電動工具業界では、リチウムイオン電池やモーター技術の進歩を背景にコードレス化が進み、大手メーカーは建設向け工具にとどまらず、園芸機器や清掃機器へと製品領域を広げています。そのなかで、パナソニック電動工具は電設資材ルートとの親和性が高い事業として展開してきた反面、電動工具市場カテゴリ自体の拡大に対しては保守的であり、充電式電動工具の製品展開に対しても遅れが目立っていた印象です。

そうは言いつつも、パナソニック電動工具の製品展開に明確な遅れが見えつつあった昨今であっても、パナソニック電動工具は電設資材とのシナジーを前提として成立しているブランドであっただけに、外部への事業移管にまでは至らないと考えていた方も多かったと思います。少なくとも、筆者もその中の一人でした。

移管に至るまで、パナソニック電動工具に何があったか

これはあくまで筆者の憶測ですが、今回のパナソニック電動工具の移管には、パナソニック本体の事業再編が大きく影響していたのではないかと考えています。

この点を考えるうえで、4年前の2022年に行われたパナソニックの企業体制改革まで遡って見る必要があります。

パナソニック電動工具は「パナソニック」ブランドを掲げていますが、その事業の位置付けは決して単純ではありません。2021年まではライフソリューションズ社(LS社)が電動工具事業を担っていましたが、2022年の事業再編によって、その事業はエレクトリックワークス社(EW社)へ継承されています。

画像引用:持株会社制移行に向けた吸収分割概要および持株会社制移行後の事業体制概要のお知らせ|Panasonic

2019年のLS社と2022年のEW社の中期経営計画を見比べると、数値目標や戦略に極端な差があるわけではありません。しかし、2022年のEW社は単なる増収ではなく、電気設備メーカーからソリューション企業への転換を前提に収益性や資本効率、キャッシュ創出まで同時に求める厳しい経営課題を背負う形になっています。

画像引用:ライフソリューションズ2019年下期および中期的な取り組み|Panasonic
画像引用:中期事業戦略 エレクトリックワークス社 2022年6月|Panasonic

筆者は、こうしたパナソニックの企業再編の流れの中で、これまで電設資材とのシナジーを前提に位置付けられてきた電動工具事業についても、従来以上に事業単体での成長性や収益性が厳しく問われるようになったのではないかと見ています。

言い換えれば、電設資材との親和性だけでは事業を維持し続ける理由として十分ではなくなり、マキタやハイコーキのような有力他社メーカーのような電動工具事業単体でのキャッシュ創出目標を加えらえた点、そして現在までに至るまでの数値経営的な結果によって、最終的に外部企業へ託す判断につながった可能性があります。

そう考えると、今回のパナソニック電動工具の移管は、突然の出来事というよりも、2022年以降の事業構造の見直しの延長線上にあった動きと捉えることができるのかもしれません。

マキタが狙う工場向け電動工具とはどのような分野か

ここからは移管を受けるマキタ側の立場に立った考察になります。マキタは今回の事業取得の目的を下記のように記しています。

当社が有するバッテリー・モーター技術と本件対象事業の締付・IoT技術を融合することで、工場向け市場への本格参入および高付加価値ソリューションの創出を図り、企業価値のさらなる向上を目指してまいります。

この発言およびマキタ電動工具とパナソニック電動工具の製品展開の実態を照らし合わせると、マキタはパナソニック電動工具の既存製品や販路よりも、工場向け電動工具市場の売上拡大を強く意識しているものと考えられます。

さて、工場向け電動工具とは何かというと、工場組立ラインに使う電動工具を中心とした高精度なトルク管理機能や作業記録機能を持つ電動工具のことです。

用途としては、コンベアベルトに流れる小型製品の筐体や電子基板の固定に使うネジの締付や自動車工場の組立ラインに使われ、図面や作業手順書に記されたトルクで締結を行うために極めて高いトルク管理機能を必要としています。

例えば、マキタは高精度トルク管理として、工場・産業向けの充電式電動工具シリーズを展開しているものの

製品ラインナップやIoTによる無線制御機能、ロボットアームとの連携機能に関してはパナソニックの工場向け電動工具シリーズの方が強く、マキタはこの技術の取得することで、組み立て工場向け電動工具の売上高を伸ばし、電動工具としてのマキタブランドを強めたい意図があると考えられます。

正直、マキタのIoTソリューション周りの認識や企画面に不安も強い

工場向け電動工具市場は、アトラスコプコ、ボッシュ・レックスロス、エスティックなどが世界的な主要プレイヤーとして挙げられる市場であり、建設向け電動工具とは異なる産業構造が形成されています。

電動工具であっても、現在のマキタが強みを置くのはあくまでも建設向け電動工具の市場であり、今回の買収によって工場向け電動工具の技術が高められたとしても、マキタの強みである建設向け電動工具の販路が活かせるわけではありません。

特に、昨今の工場向け電動工具は単純な高精度トルク管理だけではなく、工具本体+コントローラ+実地検証+データ連携+工程提案を含む総合的なソリューションを必要とする、高度な提案型製品営業が必要な商材であり、現在のマキタが締結ロボット、ライン検証システム、ファスナー統合提案、IoT開発、エンジニア営業が明確に不足している点を考慮すれば、パナソニックの工場向け電動工具の買収のみで済む話ではなく、マキタが掲げる工場向け市場への本格参入および高付加価値ソリューションの創出には、より大きな投資と膨大な時間が必要になると考えられます。

また、この辺りは個人的な偏見になりますが、マキタが名付けたBluetoothを使う集じん機システム”AWS (Auto-Start Wireless System)”のネーミングに関しても、マキタのIoT分野への認識に対する暗さを感じさせてしまいます。

マキタがAWSの名称を使い始めたのは2017年ですが、AWSの名称としてはAmazonが2006年から展開するAmazon Web Servicesの方が一般的です。特にAmazon AWSはIoT分野まで抑えた世界的なクラウド基盤であることを考えれば、マキタが事業取得で掲げた”IoT技術の融合”の一文も2017年時点では一切想定していないもので、今回の工場向け電動工具への本格参入の表明も場当たりな印象を受け、結局は持て余してしまうのではないかと危惧しています。

正直なところ、今回のパナソニック電動工具を買収し、工場向け電動工具に本格参入すると言っても、実際にマキタがどこまで工場向け電動工具に取り組み、投資を行うかは未知数と言えます。

パナソニック電動工具を取得したことで製品技術面では大幅な進歩が見られると想定していますが、製品開発コンセプトの違いや新規販路構築、現在のマキタ営業よりもさらに高度な技術力を持つ技術営業の人員確保など、マキタが今後乗り越えるべき事業拡大の壁はいくつもあります。

特に、マキタは建設向け電動工具だと営業のノウハウが蓄積されており、その点は国内市場で大きな強みにはなっているものの、新規販路開拓や分野の異なる製品展開はあまり得意としていない印象が強く、パナソニックからの人員移管だけでは企業文化の違いも含めて対応しきれないことも十分想定されます。

パナソニック電動工具ユーザーの基盤引継ぎはどうなるか

さて、最後となるのは、建設向け電動工具のパナソニックに対する今後です。

この点については、前回の記事でも軽く触れていますが、恐らくマキタはパナソニック電動工具のバッテリーや製品・サポート体制に対する大きなアクションは行わず、可能な限り現在の形態をそのまま継承すると予想しています。

一部のネットの反応では、今後のパナバッテリー供給の不安視やマキタバッテリとの統合などを期待する声もありますが、ここもほとんど手を付けないと考えられます。基本的な考え方として製品ラインナップとしてはマキタ18V充電式シリーズがパナソニック18Vのほぼ全てを網羅しており、バッテリーの統合や変換アダプタを作る必要はなく、むしろ下手にパナソニックブランドを終焉させると終焉させた反発から別ブランドの移行が促される可能性もあるため、マキタとパナで類似仕様の製品展開がほどほどに行われつつ、ユーザーが自然な形でマキタブランドへ乗り換えていくような製品展開が進み、10~20年かけて穏やかにマキタブランドへ自然吸収されていくのではないかと考えられます。

その過程で、ONE ATTACH対応のマキタ18V充電式ドライバーが出るかもしれませんし、HiKOKIからOEM供給(UF18DSAL)を受けているEZ37A4はひっそりと終売してマキタ扇風機のパナバッテリー品へと変わったりもするかもしれません。

恐らく、マキタが苦慮するのはパナソニック電材販路の扱いになると考えられます。

マキタ移管後にパナソニック電材取扱店でのパナ電動工具が購入・サポートを受けられるのかは未知であり、少なくともパナソニック電材カタログ記載の電動工具は全て掲載されなくなるものと考えられます。パナソニック電材取扱店に関しては、取扱店単位で希望すればマキタ販路に継承されるかもしれませんが、そもそも国内マキタは新規販売店の取引先を増やさない方針の認識であり、パナ電材の取扱店としては、その辺りもどのように対応するのかが注目されます。

マキタ移管後のパナソニックブランドの扱いについては、パナソニック側のプレスリリースで「株式の全てを譲受会社へ譲渡」とされており、パナソニック側が株式を残さないことが示唆されています。

そのため、経過措置や在庫品への対応として数年間はパナソニックブランドが継続されるに留まり、その後はパナソニックブランドを外し、EXENAブランド・Azelossブランドへの統合や新ブランドへの移行が進められるのではないかと考えられます。

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