少し前はノートパソコンや携帯電話くらいしか搭載されていなかったリチウムイオンバッテリーも、今ではさまざまな機器に搭載されている身近なバッテリーになりました。最近ではより手軽な大容量バッテリーとして、電動工具用バッテリーを活用するのが注目されています。今回のシリーズでは、工具用バッテリーを使った製品設計について解説します
目次
電子工作に工具用バッテリーは使える?
バッテリーで動く機器を使っていると、より長い時間使える大容量バッテリーが欲しくなります。
最近はUSB電源で動作する機器も増えてきたので色んな機器をモバイルバッテリーが動かせるようになりましたが、それでも大きな電力を必要とする機器には能力不足です。密かに注目されているのが、工具用バッテリーを使ったコードレス化です。
電動工具用バッテリーをうまく使うことが出来れば、便利な充電式電源としてさまざまな機器のコードレス化を実現できます。
回路設計・部品調達的にマキタバッテリーが比較的使いやすい
工具用バッテリーは色々なメーカーから販売されていますが、電子工作に使いやすい工具用バッテリーがマキタの14.4V/18Vバッテリーです。
マキタのバッテリーは他社のバッテリーと異なりバッテリー単体で数多くの保護機能を搭載しているので、機器側の保護機能は必要最低限で済みます。ほかのメーカーの工具用バッテリーと比べると回路設計が容易です。
マキタバッテリーのターミナルを調達する方法
一般的なメーカーの工具用バッテリーでは自分でターミナルを作ったり製品から分解して必要なパーツを取り出しますが、マキタバッテリーはターミナルを修理部品として買うことが出来るので、バッテリー端子を簡単に取り出すことができます。
ターミナルはマキタ取扱店から買える
マキタバッテリーのターミナルはマキタ取扱店から購入できます。取り寄せになりますが純正品と同じターミナルが1個300円程度で買えます。
今回のシリーズではマキタ工具に汎用的に搭載されている「643843-3」ターミナルを使用します。ターミナルには製品ごとにいくつか種類があるので、マキタ取扱店で購入する時は「VR450DZのターミナル」のように製品名の部品を頼めば注文できます。
ちなみに、このターミナルは本来修理に使うための部品なので、普通のマキタユーザーのことも考えて大量に買い占めるのは控えておきましょう。
ハウジングは3Dプリンタで自作
ターミナルを納めるハウジングは3Dプリンタで自作できます。寸法はオリジナルのマキタ製品から寸法を取ってモデリングします。海外のフォーラムではマキタバッテリーを装着できる3Dモデルも配布しているので、それを活用するのもおすすめです。
単純に配線を取り出すだけのハウジングにするのも良いですが、せっかくモデリングをするなら回路や各種モジュールと合わせてエレメカ協調設計に挑戦してみるのもいいかもおすすめです。
ターミナルの配線は平型250圧着端子が使える
ターミナルと配線の接続には圧着端子を使うのがおすすめです。マキタバッテリーターミナル「643843-3」の端子には平型端子#250が使用できます。
バッテリー動作機器の電源制御回路例
この回路は電池動作機器でよく使われているモーメンタリスイッチでON/OFFを制御する基本回路です。
回路へのON/OFF切り替えはPchのハイサイドスイッチQ1で制御しています。マイコン(コントローラ)で電源の保持とOFF制御を行っているので、プログラムを追加すればタイマーオフや低電圧OFF機能も対応できます。この回路は最低限の部品しか搭載していないので、実際の回路では保護のための電子部品や電流検知を追加します。
#include <arduino.h>
#define STOP 0
#define LOAD 1
#define WAIT 2
#define OFF 0
#define ON 1
#define SW_PUSH_TIME 5 //SWチャタリング
#define VOLTAGE 320 // 低電圧遮断しきい値
int vInputValue; //バッテリー電圧
int powerManagement; //電源ステータス
int swCheck; //スイッチ状態
int swCheckStp=0; //スイッチステップ
int swCheckFlg=1; //スイッチフラグ
void setup()
{
pinMode(12, OUTPUT);
pinMode(11, INPUT);
powerManagement=WAIT;
digitalWrite(12,ON);
delay(100);
}
void loop()
{
//==================================外部入力======================================
vInputValue=analogRead(0);
swCheck=digitalRead(11);
//==================================ステップ===================================
swCheckStp = swStepProcess(swCheck,swCheckStp);
//==================================フラグ=====================================
if(swCheckStp>=SW_PUSH_TIME)
{
swCheckFlg=ON;
}
if(swCheck==OFF)
{
swCheckFlg=OFF;
}
//==================================ステータス======================================
if(powerManagement==WAIT && swCheckFlg==OFF)
{
powerManagement=LOAD;
}
if(powerManagement==LOAD && swCheckFlg==ON)
{
powerManagement=STOP;
}
//===================================================================================
/* 電源処理 */
//===================================================================================
if(powerManagement==STOP||vInputValue<=VOLTAGE)
{
digitalWrite(12,OFF);
}
delay(10);
}
int swStepProcess(char flag, char Step)
{
if (flag == ON)
{
return ++Step;
}
else
{
return 0;
}
}
上の画像はマキタバッテリーから配線を取り出してArduinoを動作させているところです。
電源OFFの状態でタクトスイッチを押すと5Vコンバータに給電されてArduinoが動作します、ArduinoがONになるとQ2トランジスタでON状態が維持されます。再度タクトスイッチを押すとQ3トランジスタでスイッチの動きを検知して、ArduinoのプログラムによってQ2トランジスタがOFFになりQ1トランジスタをOFFにして回路全体の給電を遮断します。
遮断時の電流は1uA以下なので、バッテリーを装着していてもOFF状態であればバッテリー過放電になることはありません。
上記の回路はシンプルで信頼性の高い回路ですが、降圧回路にスイッチング電源を使用している場合や起動に時間がかかるコントローラ(Arduino等)を使用している場合、回路が安定するまでボタンを長押ししなければいけません。その場合はON保持構造を変更してラッチ回路を組み込んだ回路構造に変更します。
工具用バッテリーを使う時の回路設計ポイント解説
上の回路は必要最低限の機能を組み込んだ参考回路なので、実際の用途やアプリケーションによっては回路構成を大きく変えるケースもあります。
バッテリー駆動の電子回路を構成する場合、定電圧電源駆動の回路と違っていくつか気を付けるポイントがあります。特に、リチウムイオンバッテリーの場合はバッテリーの安全性も考えなければなりません。
電圧監視を入れる
リチウムイオンバッテリーを使う場合、最低限の監視機能としてバッテリーの総電圧監視は入れておきましょう。
マキタバッテリーは回路設計的に安全性が高いバッテリーと言えますが、過放電保護回路が働くのは過放電領域の電圧の低い領域なので通常使用の遮断回路として使うにはやや不適です。単セルあたり2.5Vを下回ったらロードスイッチをOFFにする動作を入れて過放電状態を避けるようにします。
漏れ電流はできるだけ小さく
マイコンやその他モジュールへの給電を遮断しても、ON/OFFを制御しているロードスイッチの漏れ(シャットダウン)電流が多いとバッテリーを過放電状態にしてしまいます。
ロードスイッチを駆動する回路も含めて、遮断時の消費電流は数μAオーダーに納めるのが理想的です。
互換バッテリーは絶対に使わない
この記事では工具用バッテリーを電子工作で使う方法について解説していますが、リチウムイオンバッテリーの安全はマキタバッテリーが搭載している保護機能に大きく依存しています。
互換バッテリーの保護基板には保護機能が十分に搭載されていないので、1つ使い方を誤ると危険な状態になりやすく、発火事故の原因になります。
グレーゾーンな電子工作、楽しむのは自己責任で
電動工具のバッテリーは大容量高出力のバッテリーなので、取り扱いには少し気を遣う必要があります。
ここ最近は一般家庭にまで電動工具が普及し、電子工作に工具用バッテリーを使っている工作動画なども増え、機械系の展示会に行けば必ずマキタバッテリーを電源に使った展示品を見かけます。
アウトドア系の工作動画ではマキタバッテリーから直接端子を取り出して直接機器に繋いでいるケースが多く、少し危ないかなーと感じてしまう部分もあります。せっかくのバッテリー活用が変な形で広まってしまうよりも、安全な使い方を具体的に解説したほうがいろんな人のためになるかなと思ったので、しばらくこのシリーズを続けてみようと思います。
マキタバッテリーを勝手に使って大丈夫?と思う方もいると思いますが、オリジナルのマキタバッテリー製品を作ってる先駆者もいて、マキタバッテリーが使える互換電動工具も販売中、果ては海外通販サイトでは独自のバッテリーマウントまで売られているので問題はないと考えています。パテントに関してもプラスとマイナス端子から電源を取り出しているだけなら抵触する部分もなく、個人で楽しむ分であれば例え抵触したとしても問題はありません。もちろん安全性については自己責任ですが。
次回は、市販されている家電製品のマキタ充電式製品化に挑戦してみます。