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タブレスバッテリーとは、充電式電動工具の高出力バッテリーについて解説

タブレスバッテリーとは、充電式電動工具の高出力バッテリーについて解説

タブレスバッテリーとは――充電式電動工具の高出力を実現する新型電池

最近、充電式電動工具ではタブレスセルを搭載する新型のバッテリーが展開されています。このタブレスセルバッテリーは従来のバッテリーと比べて高出力・発熱抑制・作業効率を実現するバッテリーとして高負荷用途での充電式電動工具への普及が進んでいます。

今回の記事では、タブレスバッテリーとはどのようなバッテリーなのか、そしてタブレスバッテリーによって何が変わったのかを解説します。


タブレスバッテリーとは、言葉の通りバッテリー内部のタブを省いた新しい構造のリチウムイオンバッテリーです。

リチウムイオンバッテリーの構造は意外とシンプルで、セパレータで分けられた正極と負極に電極となるタブが取り付けられており、そこに電解質が充填された構造となっています。

実際にリチウムイオンバッテリーを開封したのが以下の写真です。矢印が正極と負極に取り付けられたタブで、そこから電気が流れるようにして充放電を行います。(写真はラミネート型のバッテリーで円筒型とは若干異なります)

そして、下記の動画は海外の有志がテスラ社が採用する4680セルのタブレスバッテリーを分解して、その構造を確認している動画です。

タブの代わりに正極と負極に無数のヒダが伸びており、そのヒダに電気的な接点となる部品を取り付けてバッテリーセルをこうせいしていることがわかります。

タブレスバッテリーの構造を分かりやすく図示しているのが以下の画像です。従来のタブがあるバッテリーセルでは、タブに集中しているために発熱している状態となっていますが、タブレス構造ではスムーズに電気が流れ熱も発生していないイメージ図となっています。

画像引用:ProCORE18V+ | BOSCH

このように、タブレスバッテリーはタブを不要とすることで、バッテリー内部に流れる電気の集中を分散し、電気が流れやすくするための構造となっています。

電動工具各社が販売するタブレスバッテリー

2025年10月時点だと、日本国内では4社の主要電動工具ブランドがタブレスセルを採用した電動工具用バッテリーを展開しています。

これらのタブレスセルの大半は中国資本のリチウムイオンセルメーカーが開発、製造しています。この辺りの背景は不明ですが、現状のリチウムイオンバッテリーの生産国は圧倒的に中国が占めていることもあり、その生産力を背景に技術開発を進めた結果だと筆者は認識しています。

ボッシュ ProCORE18V+,EXBAバッテリー(一部)

電動工具各社の中で、最も早くタブレスの採用を進めたのはボッシュです。

PROCORE 18V+シリーズは18V-8.0Ahのバッテリーで最大2,000Wの出力に対応する仕様を備えています。また、最新バッテリーEXBAシリーズの4.0Ah(EXBA18V-40)と 8.0Ah(EXBA18V-80)がタブレスセルを採用しています。

日本市場では取扱店や製品展開数の少なさから影の薄い電動工具メーカーとなっているボッシュですが、電動工具に対する新技術や市場を変える新製品はボッシュが先行することが多く、タブレスの次の次世代二次電池が登場する時もボッシュが一番先を走ると想定しています。

マキタ 40Vmax Fバッテリ(一部), Hバッテリ

マキタは、40Vmaxシリーズの高出力バッテリ BL4040FとBL4080Hにタブレスセルを採用しています。

特に、BL4080Hはタブレスセルを20本も搭載する超高出力バッテリとなっており、同社の80Vmaxシリーズにも使えることを考えれば、圧倒的な高出力性能を持つバッテリとなっています。

マキタのタブレスバッテリーは、村田製作所のセルを採用しています。

ミルウォーキー M18 FORGEバッテリー(一部)

ミルウォーキーのタブレスバッテリーは、高出力バッテリーのFORGEシリーズで展開を行っています。

タブレス搭載バッテリーはXC8.0とHD12.0で、HD12.0はミルウォーキーのパワースケールで唯一最大となるPWR5に位置する高出力バッテリーとなっています。

ミルウォーキーのタブレスバッテリーは、Ampace社のバッテリーセルを採用しています。

HiKOKI T-PWRバッテリー

HiKOKIは同社が展開するマルチボルトバッテリーとしてタブレスバッテリーの展開を行っています。

18Vと36Vを切り替えられる構造そのままに高出力化を実現しており、BSL3640MVBTバッテリーはBluetooth機能も搭載しており、コードレス集じん機との連動動作も可能な仕様を備えています。

ミルウォーキーのタブレスバッテリーは、EVE Energy社のバッテリーセルを採用しています。

なぜバッテリーセルのタブレス化が高出力で有利になるのか

ここでは、なぜタブレス化でバッテリーの内部抵抗が下がることが高出力で有利になるのかを解説します。説明のため数字の計算が入ってしまいますがご容赦ください

例として、18Vバッテリーに1,000Wで動作するモータを接続したときのケースを考えてみます。

1,000Wの負荷を動かす場合、18Vバッテリーから供給される電流は1,000W÷18Vで約56Aになります。また、1,000W取れる負荷を抵抗に置き換えた場合、約320mΩ(0.32Ω)の抵抗が接続されているものと考えられます。

ただし、これは理想的な条件での話です。実際、バッテリーにはそれ自体に抵抗成分があり、この抵抗成分を内部抵抗と呼びます。例えば、マキタBL1860バッテリの場合、50mΩ(0.05Ω)程度の内部抵抗が存在しています。

マキタ18V互換バッテリ Waitley WTL1860の内部抵抗を測定しているところ。写真の測定はバッテリセル組を測定しているため、出力端子から測定している場合よりも低く測定される。

この内部抵抗を考慮して計算すると、下記の図のようになります。(小数点は削っているので概算として見てください)

このように、18Vバッテリーに1,000Wの電力を取れる抵抗を接続しても、バッテリー内部抵抗による損失のため負荷抵抗は770Wの電力しかとることができず、残りは内部抵抗で120Wも消費されてしまう計算となります。

この120Wの損失は純粋な熱として放出されることになり、バッテリー発熱の要因となります。120Wの発熱ともなれば電子工作用はんだごて2~3本に相当する熱量になるため、バッテリー内部抵抗の50mΩ程度と言えど、相当な損失が発生していることになります。

では、内部抵抗値が低いタブレスバッテリーで考えるとどうなるでしょうか。下記の図は、内部抵抗が半分の25mΩ(0.025Ω)になった場合の計算を表した図になります。

負荷抵抗が取れる電力は865Wまで上がり、その分、内部抵抗の損失は70Wにまで低減しています。

これらのことから、これらの比較からタブレスバッテリーによって内部抵抗が下がると、動作電圧が同じでも内部抵抗分の損失が減ることで外に取り出せる電力が向上し、高出力化と高効率化が見込めるようになるわけです。

ちなみに、逆のケースとして負荷電力が少ないパターンも考えてみます。例えば、100W負荷の場合だと以下の図のようになります。

この場合、通常セルの50mΩ内部抵抗があっても負荷抵抗は97Wの電力を取り出すことができ、内部抵抗の損失も僅か1.5W程度で済んでいます。これにタブレスバッテリーを繋げば内部抵抗値は下がるため一応効率は上がるものの、高負荷で動作させた時程の効率上昇は見込めないことになります。

タブレスバッテリーを活かすにはタブレス以外の大電流対応も必要

ここまでタブレスバッテリーの利点について解説してきましたが、実際はタブレス化が利点と言うより、バッテリーの内部抵抗を低減することの方が本命の効果であり、タブレス化は低内部抵抗化の手段にしか過ぎないものとなります。

原則として、タブレスバッテリーは高負荷動作させた時のみに効果が発揮するもので、インパクトドライバのような低負荷寄りの充電式電動工具や高出力の電動工具であっても軽負荷作業を行っている場合にはそこまでの効果は見込めない点に注意が必要です。

さて、この内部抵抗値の低減に関してですが、実はタブレスバッテリーの採用以外にも内部抵抗は影響する要因が数多く存在しています。

例えば、バッテリーセル同士をつなぐタブをニッケルタブから抵抗値の低い銅タブによって内部抵抗を下げたり、タブの接触面積を増やすためにスポット溶接からレーザー溶接への変更したりする例、電動工具とバッテリーを繋ぐターミナルコンタクトの接触面積を増やす接触構造など、バッテリーそのものの抵抗値を減らす取り組みは、複数の方式を組み合わせて実施しないと十分な効果は見込めません。

また、電動工具の出力を上げるとするなら、バッテリーだけの話ではなく、電動工具内部の配線抵抗やモータを駆動するトランジスタのオン抵抗を減らすのも重要な要素になります。そのため、充電式製品の高出力化はタブレスセルバッテリーを装着するだけで実現できるほど安易なものでも無い点に注意が必要です。

ちなみに、タブレスバッテリーを採用しない場合であっても、バッテリーセルの並列数を増やせば並列接続分だけ内部抵抗は減少するので、大型サイズのバッテリーを実質的な高出力対応バッテリーとして販売する製品も存在しています(マキタ BL4080Fなど)。

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