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2025年3月31日

電動工具を支える「ユニバーサルモータ」とは何か、構造や仕組みの基礎を解説

電動工具を支える「ユニバーサルモータ」とは何か、構造や仕組みの基礎を解説

最近の電動工具と言えば、ブラシレスモータを搭載する小型で高性能な製品が主流です。しかし、ブラシレス以前の電動工具は主にカーボンブラシで駆動するブラシモータが主流でした。今回の記事では、電動工具を長らく支えてきたモータである「ユニバーサルモータ(交流整流子)」モータを解説します

安くて性能も高くメンテナンス性にも優れる「ユニバーサルモータ(交流整流子モータ)」

現在の電動工具には大きく分けて2種類のモータが採用しています。1つは充電式電動工具で主流のブラシレスモータ、もう1つが電源コード式の電動工具で採用されているユニバーサルモータです。

電動工具の開発はリチウムイオンバッテリーを搭載する関係上、稼働時間で有利になるブラシレスモータが主流となってしまいましたが、工場ラインなどの定置用途や高出力・長時間の稼働を必要とする用途では現在も電源コード式が定番であり、ユニバーサルモータを搭載する電動工具の需要も根強く存在しています。

このユニバーサルモータは磁石を必要としないため価格も安く、カーボンブラシやアマチュアなどの消耗部品はあるものの部品価格が安くて修理もしやすいので、今尚根強い需要のあるモータです。

今回の記事ではブラシレスモータの陰に隠れて忘れられがちなユニバーサルモータについて解説します。

アマチュアとステータで構成されるユニバーサルモータ

ユニバーサルモータとは、交流電源で動作するブラシ付きのモータです。

ユニバーサルモータの主要部品は、回転して動力を伝える「アマチュア」と磁場を生成する「ステータ」で構成されています。ほかの構成部品としてカーボンブラシやホルダなど色々あるのですが、今回は主要2部品を中心に解説します。

ユニバーサルモータはブラシを使用しているため、永久磁石を使用する直流モータを想像してしまう方も多いのですが、ユニバーサルモータは永久磁石の代わりにステータコイルで磁界を発生する仕組みになっています。そのため、ユニバーサルモータは永久磁石を使用していません。

ステータの内側の回転する部品は「アマチュア」と呼ばれています。アマチュアは直流モータにも使用する部品であり、直流ブラシモータでもユニバーサルモータでもアマチュアの構造的に大きな違いはありません。

アマチュアには、カーボンブラシが接触する「コンミュテータ」と呼ばれる部品から電源供給を受けます。カーボンブラシは摩耗で交換が必要になりますが、コンミュテータ側も使い方によって偏摩耗で固着や異常火花になる場合もあるため、状況次第でアマチュアも交換が必要になります。

直流モータの代わりに磁界を発生させるのがステータコイルです。このステータコイルは交流電源を加えるとNとSが入れ替わるので、アマチュアに加わるプラスとマイナスが入れ替わっても、アマチュアを一定方向に回すことができます。

アマチュアとステータを組み合わせるとこんな感じになります。この状態でステータとアマチュアに電源を加えるとアマチュアが回転します。

ステータコイルを用いるユニバーサルモータは直流モータに近い構造であり、誘導モータや同期モータなどの他の交流モータのように回転数が周波数に依存するような特性もないため、電動工具向けに使いやすいモータとして広く採用されてきました。

ちなみに、交流モータにはユニバーサルモータのほかに誘導モータや同期モータもありますが、これらのモータは原則として回転数が交流周波数に依存し小型で高回転化させるのも難しいため、電動工具のような手で持つタイプの小型製品にはあまり適していない種類の交流モータとなります。

旧東芝の高周波ディスクグラインダシリーズ。
本製品はユニバーサルモータを使わずに誘導モータを搭載する電動工具だが、駆動には400Hzの3相交流電源を加えなければならないため外付けのインバータユニットを接続しなければ動かせない。

ユニバーサルモータは耐久性では劣るが、本体価格が安く手軽に使える

ユニバーサルモータは、耐久性やメンテナンス頻度の差でブラシレスモータに勝るものではありませんが、その分構造がシンプルであり修理が容易なモータです。

例えば、ユニバーサルモータは摺動部がある関係上、接点であるカーボンブラシが摩耗したら交換が必要であり、アマチュア側の接点であるコンミが摩耗したり荒れてしまうとアマチュア自体の交換も必要になってしまいます。そのためブラシレスモータよりもメンテナンス頻度は高い欠点はあるものの、モータ自体がシンプルで修理も容易なので修理価格としては比較的安価です。

モータ種類ブラシレスモータユニバーサルモータ
メリット電力効率が良い
カーボンブラシが不要
ソフト制御で付加機能が付けられる
モータサイズを小型化できる
構造がシンプル
価格は安め
ある程度の無理が利く
デメリット希土類磁石や使うため高い
駆動回路が過負荷や熱に弱い
電力効率が劣る
ブラシで火花が発生する
カーボンブラシ摩耗で交換
主な用途充電式モデル1kWを超える電源コード式モデル

最近は充電式ブラシレスモータの製品も増えてユニバーサルモータの電動工具も減ってきていますが、ユニバーサルモータを搭載する電動工具としては、長時間の作業を必要とする鉄工作業所でのディスクグラインダや大型ハンマによるハツリ作業などがユニバーサルモータを搭載しています。

ちなみに、電源コード式ながらもブラシレスモータを搭載するACブラシレスと呼ばれる製品も一時期普及していましたが、電源コード式の電動工具にブラシレスモータを使う実質的なメリットを見いだせる製品は少なく、現在ではディスクグラインダやボード用ドライバなど一部の小型製品のみの展開が中心となっています。

一時期はHiKOKI (旧日立工機)が電源コード式のブラシレスモータを積極的に展開しており、インパクトドライバやハンマドリルなどを展開していたが、近年は充電式モデルに需要を食われている印象が強い。

電源コード式ではユニバーサルモータはまだまだ現役

ブラシモータの電動工具は少し古臭いイメージが残ってしまいますが、電源コード式のユニバーサルモータは国内電動工具産業の成り立ちから採用され続けている信頼性の高いモータであり、今尚少しずつ改良が加えられながら電動工具産業を支え続けています。

昨今の電動工具は、リチウムイオンバッテリーで動作する充電式電動工具が主流であるため、ユニバーサルモータを搭載する電動工具の需要は少しずつではあるものの減少しています。しかし、鉄工所でのディスクグラインダや長時間のハツリ作業に使うハンマなど、バッテリーの充電量だけで対応できない作業では未だに根強い需要があるモータです。

この辺りに関しては、リチウムイオンバッテリーに変わる次世代蓄電池が登場しない限り、ユニバーサルモータを完全に置き換えることはできないと想定しています。

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