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高周波電動工具とは【工具の特徴・選び方解説】

高周波電動工具とは【工具の特徴・選び方解説】

高周波電動工具とは、交流モータ (誘導モータ)を搭載する電動工具

高周波電動工具とは、東芝の電動工具事業を継承したニデックテクノモータ株式会社(旧日本電産テクノモータ株式会社)や富士製砥株式会社が展開する、AC電源で動作する電動工具シリーズです。

高周波電動工具は、ユニバーサルモータを搭載する電源コード式電動工具とは異なり、誘導モータを搭載しているのが特徴です。この誘導モータの駆動には周波数 400Hzまたは250Hzの三相高周波インバータを装着し、一般的な商用電源の50Hz/60Hzより高い周波数で駆動させることから高周波電動工具と呼ばれています。

なぜ「高周波」電動工具なのか

高周波電動工具に高周波を必要とする理由には、高周波電動工具が搭載している誘導モータの特性が関係しています。

誘導モータとは交流電源で駆動する交流モータです。誘導モータの回転数は交流電源の周波数に固有する特性があります。例えば、周波数50Hzでモータ極数2の誘導モータを駆動させる場合、[120 × 周波数[Hz] / 極数] の同期回転速度の式に基づき1,500min-1となり、誘導モータの場合はすべりが発生するため1,500min-1よりも若干遅い速度となります。

この誘導モータの回転数は周波数のみに依存しており、ディスクグラインダなどに必要な8,000min-1の回転を誘導モータで実現するためには周波数を上げる必要があります。そのため、400Hzや250Hzの高周波インバータで駆動させることで電動工具に必要な回転数を確保しています。

電動工具を動かすのになぜ誘導モータと高周波インバータを使うのかと言うと、ユニバーサルモータには無い利点が得られるためです。

誘導モータを電動工具に使うと、ユニバーサルモータのようにカーボンブラシ不要のメンテナンスフリーになり、アマチュアのように巻き線やコンミュテータのようなモータトラブルに繋がる部品も無いため、粉じんや振動による不具合が少なくなる利点があります。

さらに、外部インバータを接続するので、電源コードを延長した時のような電圧降下による回転数低下の影響も発生し難く、ディスクグラインダ作業などでは研削力が安定し重負荷作業に対して最適な作業性を得ることができます。

画像引用:高周波機器総合カタログ|富士製砥株式会社

とは言え、この利点は高周波電動工具の展開が始まった1990年代では唯一無二のものでしたが、2020年代の現在では電子制御やブラシレスモータで同じような利点が得られるようになったため、高周波電動工具を必須とするケースも少なくなりつつあります。

高周波電動工具の主要製品は高周波グラインダ

高周波電動工具はディスクグラインダに採用されています。用途もほとんどが工場向けの鉄工作業用です。

高周波電動工具の駆動には専用の高周波インバータが必要であり、そのインバータの駆動には交流3相200V電源が必要です。交流3相200Vを得られるところは工場などの作業場に限られており、インバータの仕様自体も屋内型の製品が多いことから、必然的に電動工具の用途や製品の特性を活かす点からディスクグラインダ中心の製品ラインナップとなっています。

ブラシレスモータに置き換わりつつある高周波電動工具

誘導モータを搭載する高周波電動工具は利点も多い製品ですが、2020年代の現在において見かけることはほとんどない製品となっています。。

高周波電動工具が登場した1990年代は、今ほどパワーエレクトロニクス分野が進歩していなかったため、ユニバーサルモータの電動工具にはない高耐久性やソフトスタート・ブレーキ制御の搭載などは大きな利点でした。

しかし、現在はユニバーサルモータ自体の性能向上や電子制御搭載も進み、さらにはブラシレスモータも登場したため、高周波電動工具の利点は薄れつつあります。

ニデックテクノモータの高周波180mmグラインダの研削力比較図。
研削力ではトップクラスだが、電子制御のユニバーサルモータ(整流子式)でも十分は作業量があり、ACブラシレスではそれ以上の作業量となる可能性もある

現在でも誘導モータのシンプルで高い耐久性は利点ではあるものの、高周波電動工具は高周波インバータが高価で高周波グラインダそれ自体も比較的高価格な傾向があります。さらに、電力効率の面でも二次銅損が発生する誘導モータよりもブラシレスモータの方がモータ効率が高くなるため、初期コスト、ランニングコスト共にブラシレスモータの方が有利になる傾向があります。

画像引用:ブラシレスモーターの特徴「高効率・省エネモーター」|オリエンタルモーター株式会社

最近ではブラシレスモータの技術向上から、高周波電動工具に対する「精神的後継製品」とも呼べるような製品も展開されているため、それらの製品についても軽く解説します。

HiKOKI ACブラシレスモーターシリーズ

AC電源でブラシレスモータを搭載したのがHiKOKIのACブラシレスモーターシリーズです。

ACブラシレスモータシリーズは平滑コンデンサレス回路によってACブラシレスモーターのコンパクト化を実現しており、取り回しに優れ、ディスクグラインダに留まらずインパクトレンチや丸ノコ、ハンマドリルなどさまざまな電動工具のACブラシレスモーターの搭載しているのが特徴です。(ただし、近年はディスクグラインダのみの製品開発に留まっている傾向があります)

高度な電子制御によって延長コード使用時などの電源事情が悪い状態でも電圧降下の影響が受けにくく、負荷をかけても回転数の変動が少ないため高効率な作業を可能としています。

特に、HiKOKIのACブラシレスモーターシリーズはインバータ無しのエンジン発電機でも使用できる利点があるので、屋外作業でも使いやすいメリットがあります。

京セラ リンクコントロールシリーズ

京セラは2025年3月にリンクコントロールシリーズを展開しました。

リンクコントロールシリーズは、工具の心臓部であるブラシレスモーターと制御回路を分離させ、この二つを専用ケーブルで繋いだ電源コード式電動工具です。

製品の発想としては高周波電動工具とほぼ同一のコンセプトであり、誘導モータの代わりにブラシレスモータ、高周波インバータの代わりにブラシレスモータ駆動回路を使用しており、AC100Vでも駆動できる点から高周波グラインダを使用しているユーザーからの移行としても有力な製品です。

ただし、100mmディスクグラインダでは最大出力1,600Wの高出力を得られますが、180mmグラインダは最大出力2,000Wであるため、2,600~2,700Wクラスの180mm高周波グラインダを多用しているユーザーの方には力不足を感じるかもしれません。

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