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日本国内のプロ向け工具市場の規模は約2,500億円
日本国内のプロ向け工具は2,500億円(2022年)の市場規模であり、そのうち約半数の49%がマキタのシェアとなっています。
本資料は、国内電動工具メーカー5社が開示する決算情報を元に当サイトが独自に算出したもので、データは2023年3月期決算情報を元に構成しています。
また記事内では、日本国内における電動工具市場規模算出と各メーカーの推定シェア、その裏付け、および今後の国内電動工具市場の今後の動向について解説します。
マキタ:日本地域セグメント[1229億7900万円]
売上高:1229億7900万円[シェア49%](2023年3月期)
マキタの日本市場における売上規模の算定としては、マキタ日本セグメントの売上高を参考にします。
株式会社マキタは東証プライム市場に上場する企業です。上場企業は、投資家のために情報を開示することが義務付けられており、売上額や利益率などの経営情報を正式な情報として入手することが可能です。
ちなみに、マキタは単一ブランドで工具事業を行う企業であり、その地域セグメントごとの売上情報も開示しているため、海外地域の大手総合工具メーカーであるSBDやTTI、ボッシュよりも各情報の抽出が容易な決算情報を開示しています。そのため、工具市場ににおいて他社比較による基準にしやすい企業となっています。
工機ホールディングス(HiKOKI):単体損益計算書[571億7100万円]
売上高:571億7100万円[シェア23%](2023年3月期)
電動工具ブランドHiKOKIを展開する工機ホールディングスの売上規模算定は、官報で開示している工機ホールディングス株式会社の決算公告を使用します。
現在の工機ホールディングスは、米PEファンド KKR(コール・バーグ・クラビスロバーツ)資本下にある企業です。東証一部に上場していた旧日立工機の時代と異なり、非上場化したため全体図がわかる売上情報は開示していません。
2017年までの日立工機のEDINETを見る限りですが、海外地域における売上は各海外子会社で計上しており、単体の売上高は日本セグメントの売上高と近似しているため、工機HDになっても企業構造はほとんど変わっていないと考え、損益計算書の売上高がそのまま日本市場における売上高と算定します。
京セラインダストリアルツールズ(KIT):販売子会社[136億8,128万円]
売上高:136億8,128万円[シェア5%](2023年3月期)
京セラインダストリアルツールズ(略称 KIT)は、2018年にリョービ株式会社のパワーツール事業の譲渡によって誕生した京セラの完全子会社です。
幸い、京セラインダストリアルツールズに関しては、子会社の京セラインダストリアルツールズ販売(以下 KIT販売)が求人サイトのマイナビに基本情報として情報を開示しているため、その売上高を算定値とします。
売上数値的な根拠としては、KIT販売の売上高 146億円と現在のリョービ住建機器事業の売上高 101億円(2022年12月期)を合わせると、リョービ パワーツール事業売却前の住建機器事業売上高 262億円(2017年3月期)とほぼ合致することから、KIT販売の販売額は京セラ電動工具事業における国内売上高に相応するものとして判断します。
下振れ要因として、最近の京セラは販路構造的にDIY園芸機器も強いため、プロ向け用途としては半分以下の売上に留まる可能性があります。また上振れ要因としては、販売子会社を経由しない販売ルート(代理店や京セラグループ内直販等)の存在も予想されます。これらの要因を考慮すると、プロ向け電動工具の売上規模として50~200億円の範囲で振れる可能性があります。
パナソニック:くらし事業エレクトリックワークス社[100~300億(推定値)]
推定売上高:100~300億[シェア4%](推定値)
国内電動工具事業の売上高を算出にあたり最も難しいのが、パナソニックの電動工具事業です。
パナソニックの電動工具事業は、電材事業とほぼ一体化しているので電動工具事業単体の売上高算出が不可能であり、加えて10年周期で発生するグループ再編もあるので過去のデータからの想定も難しくなります。
電動工具事業を抱える分社前のエレクトリックワークス社は、2021年時点で売上高 1兆160億円と説明しています。
この値を参考にして、販売目標値や販売店棚面積、製品数や新製品開発ペースなどを考慮すると、社内カンパニー内売上の電動工具事業占有率は1%~3%前後であり、国内想定売上額として100億円くらいと推測します。とは言え、この数値は根拠がないものであるため、実態は約100億円から300億円まで振れるものと予想します。
マックス:インダストリアル機器部門[213億1,200万円]
国内機工品事業 売上高:213億1,200万円[シェア9%](2023年3月期)
マックス株式会社もマキタと同じく東証プライム市場に上場する上場企業です。
ただし、マックスは工具事業だけではなく、オフィス用品事業や車椅子事業も持ち、海外事業も行っているため、事業別の売上高を算定値としなければいけません。幸い、機工品事業の報告では国内売上高単体を報告しているので、この数値を算定値とします。
ただし、マックスの工具事業は事実上、エア工具と充電式鉄筋結束機の2本柱によって成り立っており、この数値にはエア工具を多く含んでいる点に注意しなければいけません。またマックス電動工具の戦略としても、他社のようなインパクトやドリルのような一般的な充電式電動工具に強みを置いているものではないため、特殊性の高い工具ブランドである点に注意が必要です。
3位不明確な市場環境が熾烈な3位争いを生むかもしれない
今回、国内主要5社の売上額の合算値は2,252億円と算出していますが、アクセサリ類や算定に加えていない海外ブランドのボッシュ、ミルウォーキー電動工具、さらに新興プライベートブランドや中国ブランド品も含めると、日本国内におけるプロ向け用途の電動工具市場規模は全体で2,500億円程度と推察しています。
ただし、本記事で算出している市場規模の算定値は、電動工具だけではなくエア工具やエンジン工具等も入っています。そのため、正しく表現するのであればプロ向け動力工具市場というのが正確かもしれません。
マキタが1位、HiKOKIが2位であることは売上額想定から間違いないものと判断しますが、業界3位以下の国内電動工具メーカーは売上高的に同列と考えており、日本市場において3位に位置する電動工具ブランドは実質的に不在であると考えています。
一応、産業の認識としてはリョービのパワーツール事業を継承しているKITが業界3位と認識されており、実際DIYを含む電動工具市場の土台で考えれば業界3位と言えなくもないのですが、プロ向け用途の電動工具市場においてKITがそこまでの影響力を持っているかは微妙と言える状態です。
電動工具市場のメインターゲットともいえる「プロ向け充電式電動工具」の国内動向に関しては、市場的に3位の位置が定まっていない状態にあるため、市場規模のうちから275億円以上(市場占有率11%以上)を先に確保した電動工具ブランドが日本市場3位の地位を確実なものにし、今後の日本市場での優位性を確保できるブランドに成りうるものと考えています。
特に、電動工具市場は商材的にバッテリープラットフォームによるユーザー抱え込みの影響が強いため、一度ユーザーを確保すればその売上は確約される状態になり、国内市場の3番手の位置はより明確なものになるでしょう。
候補としては、暫定3位のKIT、電材販路で安定しているパナソニック、豊富な製品ラインナップと堅実な拡販手法でシェアを広げつつあるミルウォーキーが挙げられ、これらのメーカーはそう遠くないうちに国内シェア3位の立場を堅実なものにするだろうと予想しています。