電動工具を使用中、突然バッテリーが充電できなくなったり使用できなくなったりした経験がある方も多いと思います。実際、電動工具のバッテリーはスマホやパソコンのバッテリーよりも過酷な環境で使われており、様々な原因を理由としてバッテリーは故障してしまいます。
今回は、電動工具用バッテリーで最も発生しやすい故障「セルアンバランス」について解説します。
目次
「セルアンバランス」バッテリー不良で最も多い故障
@正常なセルとセルアンバランスの比較図
電動工具のバッテリーは、突然充電できなくなったり動かなくなったりと故障してしまいますが、実際はその裏で少しづつバッテリーの不良が進行して劣化しているケースが多く、バッテリーに搭載された保護回路の「保護停止」により使えなくなってしまうケースがほとんどです。
この、少しづつ進行するバッテリーの不良こそが「セルアンバランス」と呼ばれるバッテリーの不良です。
セルアンバランスとは、バッテリー内部のセル毎の電圧が崩れてしまっている状態です。セルアンバランスが発生すると、バッテリーの過充電、過放電による事故が発生するリスクがあるため「電池保護IC」を使用して深刻な事故に至らないよう安全回路を搭載しています。
正常なバッテリーでは、全てのバッテリーセルが同じ容量となるため、バッテリーの容量を全て満遍なく使用できます。
セルアンバランスが発生すると、過充電や過放電の検知によるバッテリーの保護停止が発生します。いくつかのバッテリーセルには使用できる容量があるのに、一部のセルで保護停止が発生してしまうために、バッテリーの性能を出し切る事ができません。
この状態ではバッテリーの充放電自体は可能なので、ある程度の仕様は可能です。仮に、保護機能を超えて使用してしまうと、発火や転極と言った更に大きな事故に発生する可能性もあります。一部の互換バッテリーはこの保護機能が十分ではなく、セルアンバランス発生時には非常に危険な状態となります。
さらにセルアンバランスが進行すると、過放電による放電停止と過充電による充電停止が同時に発生してしまい、放電も充電もできなくなってしまいます。この状態になるとバッテリーが使えなくなります。
実際にセルアンバランスが発生したバッテリーを観察する
実際のセルアンバランスとはどのような状態なのでしょうか。丁度セルアンバランスになってしまったバッテリー 日立工機BSL1850を入手できたので、セルアンバランスの状態を確認してみます。
セルアンバランスの確認は、バッテリーを分解して内部のセル電圧を直接測定して行います。分解はメーカー非推奨行為となり危険なので真似はしないでください。
バッテリーの総電圧は約「19V」です、このバッテリー電圧ではバッテリー残量は約50~70%程になります。このバッテリーは5セル直列構成なので、理想的な状態であれば全てのセルが「3.8V」で揃わなくてはいけません。
しかし、セル個別に電圧を測定すると、プラス側から「3.8V」「3.9V」「3.6V」「3.8V」「3.7V」となりました。このバッテリーはセルアンバランスが発生している状態です。このセルアンバランスの状態では実際のバッテリー容量だと20%~50%程しかありません。
僅かな電圧の違いでも、大きな容量差が発生する
セル電圧の違いは0.3Vしかありませんが、リチウムイオンバッテリー放電特性カーブ上では、わずかな電圧の違いであっても大きなバッテリーの容量減となります。そして、工具用バッテリーは直並列構成となっているため、僅かでもセルアンバランスが発生していると充電されていてもバッテリーの保護動作によって充放電する事ができなくなります。
このバッテリーを使用した場合、充電時では上から2番目の「3.9Vセル」過充電検知によって停止、放電時では真ん中の「3.6Vセル」の過放電によって放電が停止してしまい、バッテリーの性能が大きく低下した状態でしか使用する事ができません。
セルアンバランス状態が進行すると、充電完了となっても電圧が低い、容量が少ない、パワーが出ないなどの様々な現象が発生するようになります。
マキタ18Vバッテリーは診断ツールでバッテリーをチェックできる
セルアンバランスの診断は、バッテリーパックを分解して直接電圧の測定を行わなければなりませんが、マキタ18VバッテリーではバッテリーチェッカーBTC04で分解しなくてもセルバランスの測定が可能です。
BTC04は販売店向けに開発された製品で、中古バッテリーの診断などに使われています。BTC04はセルバランスの確認以外にも充放電回数や故障個所の確認、過負荷使用状態の表示など様々な情報を表示できるので、マキタバッテリーを大量に使用する事業所などで活用できます。
セルアンバランスが発生する原因
セルアンバランスは初期不良で発生する場合と、ユーザーの使い方によって発生する場合があります。どちらの場合も、購入直後は正常に使用できて、ある程度セルアンバランスが進行した段階で不具合が発生します。
ユーザー起因の原因としては、セルアンバランスは水や粉じんの侵入があります。バッテリーケース内に水がたまり、その水を通じてバッテリーセルのプラスとマイナスが微小放電することで、セルアンバランスが進行して故障となるケースもあります。また、バッテリーの熱も劣化の原因となるため、過負荷な使い方を多用するのもセルアンバランスの要因となります。
電動工具バッテリーへのバランサー搭載の有無はメーカーによって異なるようですが、工具用バッテリーのセルアンバランス要因は粉塵や衝撃などによる外的な要因も多く、その故障モードでは他のセルも強制的に放電してしまうため、セルアンバランスを改善するバランサーの搭載が良い結果になるとも言えません。
作業後はすぐにケースの中に入れず、濡れたり発熱したバッテリーは少し置いて乾かしたり冷ましたりしてからケースに戻すのがおすすめです。
故障したバッテリーの修理は不可能
原理上、セルアンバランス状態は、正常なセルに入れ替えやセル毎に個別充電を行うことで正常に動作するようになりますが、入れ替えたバッテリーセルとの個体差やアンバランス再発のリスクを考えると、コストや安全性の面からも新品交換が最も現実的な選択肢となります。
壊れたバッテリーにセルの交換やコントローラの交換によって修理を試みるユーザーもいるようですが、一般的にバッテリー組の組み立てにはスポット溶接が必要で、一般ユーザーが行えるようなはんだ接合では信頼性を確保できないため、実用的には修理は不可能で非常に危険の伴うものになります。
最近は、バッテリーの2年保証や故障状態によっては新品交換対応が可能なメーカーも多いので、まずは壊れた状態を話し、交換対応を行ってもらえるか確認してみるのがおすすめです。