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電動工具の互換バッテリーは本当にPSE適合しているのか検証

電動工具の互換バッテリーは本当にPSE適合しているのか検証

前回はリチウムイオンバッテリーセルの観点から互換バッテリーの検証を行いましたが、今回は電気用品安全法(PSE法)の「別表第九 リチウムイオン蓄電池」を参考に互換バッテリーのPSE適合について検証を行います。

互換バッテリーの販売ページなどには大きく「PSE取得済」と書かれている場合がありますが、そもそも丸形のPSEは審査して取得するものではないので、この時点から少し胡散臭さがあります。

「PSE認証」互換バッテリーは本当にPSEに適合しているのか

2019年2月1日から、モバイルバッテリーが電気用品安全法(PSE法)の全面規制対象になりました。それに伴ってかネット販売で販売される互換バッテリーの販売ページ内にも「PSE認証取得」が表記されるようになりました。

電気用品安全法には、メーカーおよび輸入者が実施するべき試験概要が記載されています。現在のリチウムイオン機器に記載される丸形PSEマークに関しては、自ら確認を行えばPSEマークを表示できると定められており、公的機関による検証や適合確認を行わなくても表記できるのが特徴です。

つまり、丸形のPSEマークはメーカーおよび輸入者による「自主検査」によって保障されており、極端な話、メーカーにとって都合のいいケースで試験を実施したり、最悪の場合では試験を実施していなくてもPSEマークを記載する事が可能となっています。

今回は「電気用品安全法の別表第九 リチウムイオン蓄電池」を参照し、「PSE認証」と記載された互換バッテリーが本当にPSEに適合しているかの検証します。検証には破壊を前提とするものや回路図、高価な測定機器が必要な項目もありますが、本記事で行う検証では外観からの回路構造の推測と構造的な面から検証を行います。

リチウムイオンバッテリーが組み込まれた製品は、製品単位での安全性の確認が必要となります。特にリチウムイオンバッテリーと共に搭載される保護回路やメカ的な構造などはメーカーや製品によって異なった状態で設計されるため、個別の検査が必要になります。

結果:「3(11)過充電の保護機能」に不適合

回路構成の検証を行った結果「3 予見可能なご使用における安全性(11)過充電の保護機能」の項目について、PSE不適合と考えられる疑惑点が発見されました。この項目について別表第九 リチウムイオン蓄電池(P7)には以下のように記載されています。

ロ 電池ブロックを直列に 2 個以上接続した構造の組電池にあっては、各電池ブロックの電圧を計測しながら充電を行い、同時に一つの電池ブロックを徐々に強制的に放電させ、そのほかの各電池ブロックの電圧を測定する。

これは、直接構成のリチウムイオン組電池において「各電池ブロックの過充電状態を検出できる構造にし、電圧異常時には充電停止する仕様」にすることを明記している訳ですが、今回の互換バッテリーは電池ブロック1つと全体電圧を測定する構成に留まっており、状況によっては残された4つの電池ブロックの電圧バランスが崩れた場合に過充電状態になったことを検知できない構造となっているため、PSE不適合である可能性が高いものと推測されます。

直列構成のリチウムイオン電池は各電池ブロックごとに電圧を計測して異常状態を検知して充電を遮断できる構造にする必要がある(左図)
今回確認した互換バッテリーは右図のような構成になっていると推測され、リチウムイオンバッテリーの異常を検知するには不十分な構成になてっているもの予想される(右図)
基板の配線を確認したところ、リチウムイオン組電池に繋がっている配線は3本しかありませんでした。恐らく「GND側の電池ブロック1本」と「バッテリー総電圧」からバッテリーの異常を検知する保護構造になっているものと推測されます。この方法では残された4本の電池ブロックの異常を確実に検知することができません。

マキタの互換バッテリーに使われている基板は各互換メーカー間でほぼ同一構成の保護回路が採用されているため、PSEの適合基準を満たしているマキタ互換バッテリーは非常に少ないものと推測されます。

マキタの互換バッテリーの紹介ページを見て回ると、今回検証した基板と同一の基板を搭載している互換バッテリーを見つける事ができる。この写真からも一部の電池ユニットしか測定していない構造になっている事が伺える。
今回検証したものの類似基板は単品でも販売されている。この保護基板を使えば自作のマキタバッテリーの制作も可能となるが、直列5セルの組電池を保護する構造にはなっていないため、実際の使用には大きな危険性を伴う。

その他、気になった所

その他、互換バッテリーを純正品と比較していくつか気になる点があったので、写真と共に解説します。この項目ではPSEに対して明確に不適合である事は確認できなかったものの、破壊を前提とする試験やN増し試験によって不適合となる可能性があるのではないか、と考えられた部分を解説します。

保護回路がむき出し

保護回路はホコリや金属粉の付着によって回路が誤作動する可能性があるので、純正品のバッテリーでは保護回路をシリコン等で全面コーティングしています。しかし互換バッテリーはコーティングが無くむき出しの状態となっています。回路が誤作動すると保護機能が動作しなくなる恐れがあるので非常に危険です。

タブと配線の溶接が安定していない

純正品はタブを直接基板にはんだ付けする方式を採用してしますが、互換品では配線の溶接によって接続されています。溶接による配線の場合、素線全てを溶接する事が難しく、振動や衝撃による溶接はずれが懸念されます。


プラス側は綺麗に溶接できているものの、マイナス側の素線は少し外れかけている部分があり、品質は安定していないものと推定されます。

スポット溶接が安定していない

タブと電池のスポット溶接形状を観察すると、右側のスポット溶接が絶縁紙を巻き込んでタブが変色させるほどの高熱状態になっていたことが確認され、あまり良い溶接状態になっていない事が確認できます。
溶接の状態が良くないと衝撃による溶接破断や溶接部位の抵抗値上昇による発熱でバッテリーセルを熱破損させる危険性が高くなります。

電池ケースとバッテリーセルの干渉

電池ケースの成形に使う金型が良くないのか、電池ケースのセルが収まる部分が欠損しています。この部分がバッテリーセルと接触してセル窪んでしまっています。この状態だと振動や落下時などにセルに応力が加わり発火する懸念があります。

本来ならリチウムイオンセルの形状に合わせた形状になっているはずだが、リチウムイオンセルを収められるスペースが丸ごと無くなっている。残った部分もちぎったような状態になっている。
電池の拡大写真。先ほどの写真の部分がセルに接触して跡が残っている。落下や衝撃などでこの部分に力が加わるとセルにダメージを与える危険性がある。

本来、互換バッテリーはユーザーにとって歓迎すべき製品なのだが

現在の電動工具は事実上純正品しか選択肢がなく、ユーザーにとって予備バッテリーの購入は高価な純正品を購入せざるを得ない状況となっています。そんな中で、メーカーに縛られない互換バッテリーの存在はユーザーにとって歓迎されるべき製品であると考えています。

しかし、現状の互換バッテリーは低レートセル採用保護機能を省いたコストカットによる粗製濫造品が蔓延しているのが実情であり、ユーザーへの危険性を度外視してまで販売される超低価格なバッテリーの氾濫は、電動工具を使用する業界全体にとって良い事ではありません。

電動工具のバッテリーは取り外し可能・持ち出し前提のバッテリーとしては体積も大きくエネルギー量も大きいため、万が一の発火時には周囲を巻き込む事故に繋がる可能性の高い製品です。そのため、電動工具メーカー各社はバッテリーの安全性に最大限配慮し、メカ・回路的に考え得る限りの安全構造を組み込んでいます。

特に、直接構成のリチウムイオン組電池では各ブロックの電圧監視する電池保護ICの搭載がほぼ必須となっており、充電電圧監視は直列の全ブロックについて別個に行わなければなりません。 直列構成のリチウムイオン保護回路においてはこのような目的に設計された専用のICを用いて行うのが常識とされています。

この保護ICを省いている互換バッテリーはリチウムイオンバッテリーを扱う製品そのものとして致命的な構造となっており、電動工具の互換バッテリーはリチウムイオンを使用する製品の中でもトップレベルの事故危険性を持つ製品であると結論付けざるを得ない状況であると考えられます。

日立工機の互換バッテリーは各ブロックの電圧監視を行う構造となっていた。実際に電池端子に保護信号が出力されるかは確認できないが、回路構成的には一定の保護機能が搭載されていると推測される。
一部のマキタ互換バッテリーでは、電池ユニット全ての電圧を検知する仕様となっている互換バッテリーも販売されているようだ。この基板を使用しているのであれば残る懸念はセルだけとなる。

中には、純正品と同等のバッテリーセルを使い、PSEの適合を満たしている互換バッテリーも存在するのかもしれませんが、ユーザー側での検証手段が限られており、同じ製品が継続的に販売されるかの保証もない以上、周囲をも巻き込みかねない事故危険性を内包する互換バッテリーの使用はやはり控えた方がいいのかもしれません。

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