ここ数年間で電動工具のモーターはブラシモーターからブラシレスモーターに置き換わりました。
ブラシレスモーターを搭載する電動工具は、インパクトドライバーやドライバドリルなど軽負荷な工具に限定されていましたが、近年では高性能化が進み、丸のこやディスクグラインダーなど様々な電動工具にブラシレスモーターが採用されています。
今回は、電動工具のブラシレスモーター搭載によるメリットを解説します。
目次
ブラシレスモーターによって充電式電動工具が業界の主流に
従来の電動工具に採用されていたブラシモーターは、コイルと磁石を搭載しており、コイル側が回転するモーターでした。この構造を逆にして、磁石側を回転する構造にしたのがブラシレスモーターです。
ブラシレスモーター搭載によって電動工具の高出量化や消費電力の低下が実現され、リチウムイオンバッテリーを搭載した「充電式工具」の分野において、電動工具業界のスタンダートと言えるまでに充電式工具が普及しました。
しかし、ユーザー側にとってみれば「何となく性能が良い」くらいしか違いが分かっていない方も多いと思います実際にブラシレスモーター搭載にはどんなメリットがあるのでしょうか。
カーボンブラシの交換が不要
電動工具へのブラシレスモーター搭載最大のメリットが、その名前の表す通りカーボンブラシが不要になったことです。ブラシがなくなったことによって、カーボンブラシ交換の手間がなくなりました。
消耗部品のカーボンブラシが無くなったことで、モーター始動時の異臭やモーター寿命の向上などが改善し、製品寿命は大きく伸びました。
また、ブラシが無くなることにより電磁ノイズも減少しました。ブラシモータはブラシと整流子の間に電気火花が発生し電磁ノイズが大量に発生するため、古い電動工具などでは周囲の機器に影響を及ぼす場合もありましたが、この点も比較的緩和されています。(逆に影響を受ける側になりましたが)
モーターを小さく・軽くできる
ブラシモーターではブラシとコンミによる接点が必要で、モーターの全長が長くなり本体サイズが大きくなる問題がありましたが、ブラシレスモーターではそれらが不要なのでモータを小さくできます。重量面においても整流子部分が無くなった分軽量化されています。
エネルギー変換効率がとても良い
従来のブラシモーターはモーターの回転軸に接点が接触している構造なので、エネルギー効率が悪く大量の電力を必要とします。ブラシレスモーターは非接点で電気エネルギーを回転エネルギーに変換するため、エネルギー効率が非常に良いモーターです。
効率が良くなれば1充電当たりの作業量の向上にも繋がるため、バッテリーを使う電動工具ではブラシレスモーターを搭載するのは大きなメリットとなります。.
水(防滴)・ホコリに強い
ブラシレスモーターはむき出しの電気接点が無くなったことによって、防水・防じんのコーティング処理が行いやすくなっています。
防水・防じんに対応する製品は電子回路がシリコンやウレタンなどのコーティング剤で保護されており、制御基板や配線が水や粉じんの侵入によって破損するのを防いでいます。
ソフトウェア的な付加価値をつけやすい
ブラシレスモーターを回転させるにはマイコン(小さなコンピューター)が必要になります。
ブラシレスモーターを制御するマイコンは高価な電子部品ですが、ソフトウェアを工夫すればモーター制御を簡単に変更できるので様々な付加価値を搭載できます。
例えば、ほとんどのブラシレスモーターインパクトドライバに搭載されているテクスモードなども、ブラシレスモーターを駆動するために搭載されているマイコンのソフトウェア制御によって実現しています。
ブラシレスモーターはブラシモーター以上の制御のノウハウが必要になり、この辺りの微妙なフィーリングの違いが電動工具メーカーの特徴して表れています。
特にソフトによる付加価値の中では、日立工機の電動工具に搭載されているキックバック軽減システムなどの安全面に考慮された機能が特徴的です。また、海外の電動工具などではIoTを導入した電動工具も発売されていることから、今後も更なるソフトウェアによる付加価値が電動工具にももたらされるものと考えられます。
ブラシレスモーターの欠点
制御回路が必要
ブラシレスモーターには高度なモーター制御が必要になるため、それを制御するための制御基板(電子回路)が必要になります。
ブラシモーターなら単純に電源に繋げてしまうだけで回転できるのですが、ブラシレスモーターの場合はローターの位置検出や、インバーターの制御など、様々な制御を行いながらモーターを回転させています。
ブラシレスモーター電動工具は高コスト
ブラシレスモーターを制御する制御回路は、ブラシモーターを制御する回路よりも複雑になっているため、その分のコストが上昇しています。
ブラシレスモーターは『制御回路(マイコン)+プログラム+インバーター回路+モーター+位置センサ』と様々な部品によって構成されているため、モーターの原価は非常に高くなります。またブラシレスモーターはブラシモーター以上の開発コストがかかります。
工具の本体価格が高くなるのはもちろん、修理価格も異常に高くなることがあります。
ブラシレスモーター搭載機種は高価で高性能な電動工具
電動工具の発展は、突き詰めてしまえば『小型化』と『高性能化』に尽きると考えています。そんな中登場したブラシレスモーターというのはこれらの条件を満たす次世代のモーターです。
ブラシレスの電動工具は高価ですが、その価格差を補ってくれる以上の性能を持つようになり、現在の電動工具はブラシレスモーターがスタンダードになりつつあります。
単純な価格だけで比較すればブラシモーターの電動工具より高価なので、現在はプロ向けにしか展開されていない製品ですが、この先は低価格化も進みブラシモーターとさほど変わらない価格帯になると考えています。
少し個人的な話ですが、ブラシレスモーターは各社「メンテンナンスフリー」をアピールしています。ただし、実際にはメンテナンスが不要なわけではなく、モーターのベアリングやメカ部品のメンテナンスなどが必要になります。
また、ブラシモーター工具もそこまで頻繁にメンテナンスが必要なわけではなく、カーボンブラシ1本でも十分な作業量を持ち、そのままカーボンブラシ3.4本分は使い続けることが可能です。そこまで使用したら今度はメカ的な他の部品が摩耗交換となります。
ブラシレスモーター電動工具のメリットにメンテナンスフリーをアピールするのは若干大げさな部分もあり、メーカーは「軽量化」や「ソフトによるモード切替」等をアピールするべきなのでは、と考えています。