※本記事は法令の解説を解説する内容で構成されており、製品の安全性を保証する記事ではありません。
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2021年2月 電動工具用 互換バッテリー初のリコール
2021年2月10日、電動工具用の互換バッテリーで初の事業者による製品回収(以下リコール)が通達されました。
互換バッテリーの製品事故が多発し始めた2019年以降、互換バッテリーは事故が多発する製品ながらも、実際に事故に遭遇したユーザーの大半は泣き寝入りの状態が続いていましたが、今回、発火事故から事業者によるリコールが実施されることになり、本案件を通じて互換バッテリーの全体的な品質の向上が波及されることに期待されます。
さて、本記事では、今まで見過ごされてきた互換バッテリーの事故が今回の互換バッテリーの製品事故でなぜリコールが行われる事態になったのか電気用品安全法の運用方法を元に解説します。
PSEが正しく運用されていれば保証やリコールがある
2021年現在、販売されるバッテリー製品には電気用品安全法に基づいたPSEマークの表示が義務付けられています。
電気用品安全法では、電気法品安全法の基準を満たした製品に対してはPSEマークを表示するだけではなく、PSEマークに近接した位置に届出事業者または登録商標を表示することを求めています。
仮に製品事故が発生した場合でも、PSEマークの情報から製造・輸入事業者を特定することができ、事故原因の調査や事故にあったユーザーへの賠償・製品回収などを行う義務が発生します。
ただし、互換バッテリーなどのバッテリー機器は、自己申告によって表示することが出来るので、正しくPSEを運用できていない事業者も存在します。
早い話、そのPSEマークが正しく運用されているかは、PSEマークの近くに事業者の記載があるかで判別できます。
PSEマークの表示があっても、事業者の記載がなければ、その製品を販売している業者は電気用品安全法を正しく運用されておらず、嘘のPSE表記を行っていることになります。
実際にPSEマーク表示されながら事業者の書かれていない互換バッテリーが存在するのかを確認してみました。
KingTianLe マキタ BL1860B互換バッテリー
今回、リコールが実施された中国KingTianLeブランドの互換バッテリーです。画像は経済産業省からの引用です。
裏側のラベルを確認すると、PSEマークの少し離れたところに「株式会社 泰成商事」の表記があます。今回のリコールはこの表記から輸入事業者である泰成商事に連絡が届き、製品回収の判断が下されたものと考えられます。
残念なことに同ブランドの他バリエーション互換バッテリーは、現在もオンラインショップ上で販売が継続されています。
マキタ 純正 BL4025 結果:〇
マキタ40Vmaxシリーズの純正バッテリー BL4025です。
裏側のラベル左下にPSEマークの表記があり、すぐ横に事業者名「株式会社マキタ」の表記があります。
日立工機 純正 BSL36A18 結果:〇
現HiKOKIのマルチボルトバッテリー BSL36A8です。
ラベル左上にPSEマークの表記があり、その横に事業者名「日立工機株式会社」の表記があります。
Rebuild Store マキタ BL1860B互換バッテリー 結果:〇
国内互換バッテリーブランドRebuild Storeの互換バッテリーです。2020年夏ごろAmazonで購入。
ラベル右上にPSEマークがあり、その下に小さく事業者名「(株)平林工機」が記載されています。
Enelife マキタ BL1860B互換バッテリー 結果:〇
国内互換バッテリーブランドEnelifeの互換バッテリーです。2020年秋ごろ千石電気で購入。
ラベル右下にPSEマークがあり、輸入事業者として「LXA Japan LLC」が記載されています。
Tenblutt HiKOKI BSL36A18互換バッテリー 結果:×
中国互換バッテリーブランドTenbluttの互換バッテリーです。手持ちの互換バッテリーの中では最も新しく、2020年秋ごろAmazonで購入しました
ラベル右下にPSEマークがありますが、マークの近くに輸入・製造事業者の記載がありません。このバッテリーはPSEマークの表示方法に違反しています。
Mrupoo マキタBL1860B互換バッテリー 結果:×
中国互換バッテリーブランドMrupoo の互換バッテリーです。2018年ごろ購入、PSEマーク表示義務化以前に購入したバッテリー機器です。
ラベル右上にPSEマークがありますが、輸入・製造事業者の記載がなく、このバッテリーはPSEマークの運用方法に違反しています。
結果、純正バッテリー・国内ブランド互換バッテリーはPSEが正しく運用されていることが確認できましたが、中国ブランドの互換バッテリーはPSEマークの表記方法が経済産業省の定める表示方式に適合していない製品もあり、電気用品安全法を満たしていない製品の存在が確認できました。
販売プラットフォーム側の言い逃れできない見逃し
経済産業省が定める電気用品安全法では「販売事業者は正しい表示が付けられていることを確認のうえ、販売しなくてはなりません。」とも指示しており、PSEマークとその事業者が記載されていない製品を販売した販売事業者は、法令違反として罰則する規則があります。
ショッピングサイトの安全・安心な取引環境を目指すオンラインマーケットプレイス協議会は、第7回会合上で「十分な判断根拠がない状態で、消費者被害防止への期待に応えることと、出店者・出品者に不当な不利益を与えないこととをどう両立させるかが課題である」との声明を発表しています。
しかし、電気用品安全法の定めるPSEマークの表記方法で十分な判断根拠がありながら、製造・輸入者の所在が不明確な製品の販売を続けているのは販売プラットフォーム側であり、声高なことを言いながら実際は電気用品安全法の定める法令を正しく遂行できていないと評価できます。
PSEが正しく運用されていれば保証の目途も立つが…
本記事の解説は、あくまでも電気用品安全法で定めるPSEマーク表記の運用方法の話であり、互換バッテリーの技術的な安全性が保証される訳ではありません。
ただし、PSEマークが正しく運用されてさえいれば、製造物責任上の責任の所在を突き止めることができ、万が一製品事故が発生した場合でも返金・賠償・訴訟のような法的手段の形で財産・私財の損失を保障させることが出来ます。
現在、オンラインショッピングサイトで販売されている中国ブランドの電動工具用互換バッテリーの大半は、安全性度外視の保護回路・電動工具に不適合のセル・PSE運用不適合の製品です。保護回路やセルの良否判別を行うには分解や解析など専門知識が必要ですが、PSEマークなら誰でも一目で良否を判別できます。
PSEマークを正しく運用していたからと言って互換バッテリーの安全性を保証できるものではありませんが、万が一の時にはユーザーの立場や損失を法が守ってくれる重要なものです。リチウムイオンバッテリーの製品事故は発火を伴う激しい火災になりやすいので、事前にラベルの写真を撮って、どのバッテリーで事故が起きたのか確認できるようにしましょう。
もちろん、実際に被害に遭遇するリスクや訴訟までの手間を考えれば純正バッテリーを使用するのが一番です。しかし、互換バッテリーであろうと消費者保護の観点では事故の時はユーザーが守られなければいけません。ぜひ一度ラベルを見て、PSEマークの隣の事業者の有無を確認してみてください。