本記事は編集部による考察によって構成しており、特定の企業動向や予測を保証するものではありません。記事内容は執筆時点の情報に基づいており、現在の状況や将来の動向については変更される可能性があります。本記事の内容を元にした企業や取扱店へのお問い合わせはお控えください。また本記事は情報提供のみを目的としており、投資や購入の勧誘を目的としたものではありません。
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海外地域で低価格電動工具ブランドを展開する工機HD
工機ホールディングス(旧日立工機)は日立製作所の資本を抜けた2017年から8年が経過しました。その間、工機ホールディングスはHiKOKIブランドにおいて18Vと36Vを相互に切替できる新型の電動工具シリーズ「マルチボルト」を主軸として売上拡大に努めてきました。
しかしながら、昨今ではマルチボルト対応の36V電動工具の展開もペースが低下してきており、従来の18V製品や小型製品のスライド10.8Vシリーズのなどの展開も目立つようになってきています。
一方、海外市場においてはバッテリーを使用しない電源コード式の低価格電動工具のブランド/新シリーズの展開を進めており、工機HDの製品戦略にも大きな変化があるようです。今回の記事では、インドと中国市場における工機HD 低価格製品の動向について解説します。
インド HITMIN(ヒットミン)ブランド
HiKOKI Indiaでは、HITMIN(ヒットミン)ブランドとしてオレンジ色のカラーリングが特徴な電源コード式の低価格電動工具シリーズの展開を行っています。
このHITMINブランドはインド地域で日立工機の時代から続く実績のあるブランドであり、第二ブランドとも言える製品シリーズです。当時はHIT-MINとしてハイフンが入ったロゴと緑色のブランドカラーで展開が行われていましたが、現在の工機HD CEOであるPrathab Deivanayagham(プラターブ・デーヴァナヤガーム)氏の就任直後にブランドカラーとロゴを一新して再展開を行いました。
これまでのHITMINブランドの動向については、日立工機から続く第二ブランドながらも動向や製品展開など確認できる情報が少なく、インド市場における実態も良くわからないブランドだったのですが、ブランドを一新してからはHiKOKIインド公式HPへの情報記載や製品カタログの展開も行われるようになり、積極的な拡販を進めているようです。
中国 E-techシリーズ (易科系列)
2024年頃から中国地域で展開が始まった電動工具 E-techシリーズ(易科系列)です。
こちらもインドのHITMINブランドと同じく電源コード式の電動工具を中心としていますが、ブランドそのものはHiKOKIのままであり、HiKOKIブランドの中のE-Techシリーズとして製品展開を行っています。
さらに、このE-Techシリーズでは新型の10.8Vバッテリーを搭載したコードレス電動工具も展開しており、一般的な電動工具メーカーが掲げる低価格シリーズとは少し異なるシリーズとなっています。
E-techシリーズに関しては、中国HiKOKIの公式HP上にはE-Tech 易科系列として個別製品の解説ページは設けられているものの、E-techシリーズとしてのカタログやE-techがどのような製品シリーズかを解説する資料もないため、どのようなシリーズなのかはいまいち確認できない製品となっています。
ちなみに、中国語の易科系列における”易科”が何を意味するのか中日辞典では確認できませんでしたが、唯一Deepl翻訳では”Econometrics”(計量経済学)と翻訳したので、それを略してECOシリーズと表現していると推測しています。
日本市場でのこれらの低価格ブランドの展開は行わないと予想
HITMIN/E-techシリーズは高価格なプロ向けの電動工具とは異なり、電源コード式仕様にユニバーサルモータを搭載した昔ながらの定番電動工具です。
販売地域が限られている点に関しては、中国やインドなど現地で生産されている製品をOEMとしてブランドを被せて販売しており、日本企業としての開発体制や品質保証を最低限に抑えることで価格を抑えているものと考えられます。
そのため、これらの低価格ブランド/シリーズ電動工具は日本向けなどの海外仕様に合わせることは行っておらず、あくまでもその対象地域に絞った販売に留めるものと想定しています。加えて、日本市場においては高価格帯の高性能電動工具が高いシェアを持ち、作業者が持つブランドイメージの事情もあるため、日本市場でのHITMIN/E-Techシリーズの製品展開は行われないものと予想しています。
マルチボルト戦略は区切りとし、今後は低価格戦略に移行か
これまでの工機HDは、主にリチウムイオンバッテリーとブラシレスモータを搭載する高機能、高付加価値の電動工具で先進国を中心に製品展開を行ってきましたが、今回のHITMIN/E-techの展開においては新興国市場における売上拡大に本腰を入れ始めたものではないかと想定しています。
筆者がこのような発言をするのも良くないのですが、工機HDの強みとするマルチボルトシリーズに関しては、既存の日立工機18Vユーザーからの買い替えに対しては一定の成功を収めたものの、他社からのシェア奪取の有効打とはなり得ておらず、企業全体の売上拡大にも寄与できなかったため、外資ファンド資本下における経営評価の結果としては失敗した製品戦略だったと捉えています。
先述のような状況ながらも、工機HDは経営陣から一社員に至るまで「マルチボルトはユーザーに理解してもらえれば売れる」とするマルチボルトの優位性を信じて疑わない盲信的な状態に陥っていたと考えています。この辺りは、広報誌における経営層の発言や転職サイト上の社員口コミからも察する部分があります。
そのため、この数年間は新たな戦略立案によって状況打開しようとする意欲に欠けており、何が何でもマルチボルトを市場に流通させようと相当な無理を重ねていた印象が強かったため、ようやくマルチボルトの軛から抜け出せたことに、ある意味で安心感さえ覚えています。
とは言え、HITMIN/E-Techは低価格電動工具を主体とする海外市場向けの拡販戦略であり、今後それらの製品に経営リソース注力するのであれば、HiKOKIブランドによる先進国市場向けの製品開発や日本市場に対する関心が薄れる可能性は十分あり得るものと考えています。加えて、工機HDは2024年までに全社員の20%にあたる人員削減も実施しているため、先進国向け電動工具市場に必要とする積極的な新製品開発や新カテゴリ製品の投入は今後落ち込むものと想定しています。
工機HDはマルチボルトシリーズを中心とした日本中心の展開を進めながらも経営的な成果を出せなかった事実があり、直近の工機HDの日本国内に関する各種動向などはそれらの清算だったと認識しています。
今回の予測については今後の工機HDの取り得る着地点の1つでしかなく、もう一つの工機HDの強みである北米地域の電動釘打ち機を主軸とする展開などもあり得るのですが、どのような形であれ工機HDは海外市場に向けた製品展開による新たな経営策に取り組むフェーズに入ったと言えるのかもしれません。