マキタ インパクトドライバTD170Dの回転しない動作不良品を修理したレポートです。不良部位はローターのマグネット破損によるモーターロックでした。今回は、動かなくなったインパクトドライバを分解して故障原因を調査から修理完了するまでの一連の流れを解説します。
目次
動作しなくなったマキタTD170D インパクトドライバを修理する
マキタの充電式インパクトドライバTD170Dの動作不良品を修理します。
2016年に発売された本機ですが、製品仕様的には現行18V品とほぼ同等の仕様を備えているインパクトドライバです。全長が短くパワーも十分なので、前世代モデル品でも十分使用できますが、ビットの振れが大きい点がクレームになり、早いうちにTD171Dへモデルチェンジされてしまった不遇の機種でもあります
外観を念入りに確認して不良と原因の推測
製品修理を始めるにあたって一番初めに行うのが外観確認です。下手に動かしたり分解すると状態が変わってしまって原因の推測が難しくなることもあるので、予め製品の外観からどのような原因で動かなくなったのかの検討をつけておきます。
この工程では、外観の傷や摩耗の場所を見ることでどのような作業で使われたかを推測します。バッテリーを装着せずにスイッチを引いたりビットを回したりして動く部品を確認して、故障している部分の特定も進めます。
今回の修理品の外観を確認すると、ハウジングに少し隙間がありネジも1つ紛失しています。このインパクトは1度分解されているようです。ハウジング自体は比較的綺麗で、落下によるエラストマの割れや歪みなどはありませんでした。
ビットを差し込んで手でアンビルを回すと異音がします。アンビルの1回転に対して異音の発生回数が多いので、ハンマケース自体は正常に回っているようなので、恐らくモーターに異常があると推測します。
実際に動かして不良部位を確定
ある程度原因を推測したら、実際にバッテリーを装着して動作確認に移ります。
前情報では「回転しない」と聞いていましたが、実際にトリガーを引くとモーターが回り動作しました。しかし、モーター回転時の音と振動が大きく、正常な状態ではありません。
ここまでの確認で、モーター部分が故障の原因と推測されます。恐らく、モーターが何らかの原因でコアズレを起こし、ローターコアとステータコアまたはファンとハウジングの接触・異物侵入によるモーター異常と推測されます。
スイッチやコントローラ関係・ハンマケース内部のメカ部品に異常は無さそうなので、うまくいけばモーターの分解・再組立だけで直るかもしれません
ローターマグネット割れが動作不良の原因
TD170Dを分解してモーターを取り出すとすぐに原因がわかりました。モーターを構成している部品「ロータ」の磁石が割れて無くなっていました。故障の原因はローターマグネットの破損です。
割れたロータをよく見るとマグネットの破損だけではなくセンサマグネットも割れています。強度的に考えればフェライトの方が脆いので、先に割れたのはフェライト磁石のセンサマグネットの方でしょう。割れたフェライト磁石がステータとマグネットコアのエアギャップ間に入り込んで、タガネのように打ち込まれてロータマグネットが割れてしまったものと推測されます。
再組立てだけで直るかもしれないと期待していましたが、部品が破損してしまっては修理を進めることができません。部品の費用はかかりますがマキタからTD170Dのローターを取り寄せて修理を進めます。
マキタ修理部品はマキタ取扱店から取り寄せできる
マキタ製品の修理部品はマキタ取扱店ならどこでも取り寄せできます。修理用の部品は一般販売されていませんが、一般ユーザーへの販売が制限されているわけではないので、取扱店にお願いして取り寄せしてもらえれば普通に購入できます。
部品はマキタ営業所から直接購入もできるようですが、販売店を通した方が安くなるイメージがあるので、今回は販売店経由で購入します。
修理部品を取り寄せるときは、製品名と部品名を伝えます。部品名がわからない場合は「マキタのTD170D(製品名)の修理部品が欲しい」と言うと、店員が製品の展開図を見せてくれるので、展開図を確認しながら欲しい部品を伝えます。
今回修理に必要なTD170Dのローターは現行機種のTD171Dと共通の部品なので、注文してマキタ営業所の1営業日で取り寄せできると回答がありました。
TD170Dローター交換修理手順
翌日にローターが届いたので、早速交換作業に移ります。ローターを交換するだけならすぐなんですが、他にも補修する所があるので、その修理も同時に進めます。
飛び散ったセンサマグネットの除去
今回の修理品はローターのマグネット割れだけではなく、ローターの位置検出に使うセンサマグネットも割れて細かく飛び散っているため、修理前にそれを全て除去しなければいけません。
飛び散ったセンサマグネットが内部に残っていると、ローターとステータが詰まってまた同じ不良を起こしたり、ロータ角検出に使われているホールICにセンサマグネットが付着して角度検知が狂って動作不良に至る可能性があります。
ステータからセンサマグネット基板を外して飛散したマグネット粉をふき取る。
ハウジングネジ山の補修
ハウジングのネジ山が潰れてネジが空回りしているのでネジ山も補修します。モーターを保持する部分のネジ山が破損していると、ハウジングの隙間が平置いてローターのコアズレを起こしてしまうのでこれも直さないといけません。
確実な修理ならハウジングを交換するのがベストですが、今回は修理コストを安くするためプラリペアでネジ穴補修を行います。
新しいローターの組付け
新しいローターを組み付けて修理完了です。ローターの交換だけなら本体後方のネジ2つを緩めるだけで交換できるので簡単です。
本来、どんなに過酷に使おうが落そうがモーターのローターは壊れる部品ではないと思うので、ちょっと部品不良を疑ってしまいます。
自分で修理するメリットは時間のみ
実は、電動工具を自分で修理しても価格的なメリットはほとんどありません。
自分で工具を修理すれば修理費用が安くなりそうですが、修理費用の大半を占めているのは部品代で、修理の工賃は請求されないことのほうが多いです。電動工具の修理には特殊な部品や治具を要求される場合もあり、部品を入手できても取り付けられない・組み立てられないなどのケースもあります。
自分で修理するメリットは「修理期間が短い」「電動工具の構造に詳しくなれる」の2点です。
簡単なメーカー修理でも、最短で営業マンの往復2日・修理見積もりで1日・修理期間半日~2日くらいかかるので、修理に出してから完成品を受け取るまでは最短でも1週間程かかります。営業マンの巡回が少ない店舗+修理が込み合う地域だとさらに1~2週間ほど伸びてしまうので、自分で修理できれば部品の取り寄せの日数だけで修理を完成させることができます。
コントローラの破損や簡単なメカ周りなら比較的簡単に交換できるので、急ぎなら自前での修理に挑戦してみるのも一つの手です。逆にメカ周りのような複雑なメカ部品は、専用治具・潤滑油・グリスを洗浄するための設備が必要で、専用潤滑油の手配・注油量の指示なども守らないといけないので、このあたりの修理はプロに任せるのが安心です。