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2023年8月13日

パナソニック電動工具 新シリーズ「EXENA(エグゼナ)」を発表

パナソニック電動工具 新シリーズ「EXENA(エグゼナ)」を発表

パナソニック株式会社(本社:大阪府門真市)は、2021年5月13日に新たな電動工具シリーズ「EXENA(エグゼナ)」のティザームービーを公開した。P seriesとL seriesの2種類のシリーズ展開による全7種類の新型電動工具の発売を予告している。EXENAブランドは2021年6月25日に発表され2021年8月以降に順次販売が開始される。

パナソニック 新電動工具ブランド「EXENA」

電設資材・電動工具の製造・販売を行うパナソニックライフソリューション社は、2021年5月13日に新たな電動工具ブランド「EXENA」のティザームービーを公開し、2021年6月25日にブランドページを公開する。

EXENAブランドは「この世界に元気を灯すプロフェッショナルのために」を掲げており、下記の2シリーズの電動工具を新たに展開するとしている。

  • 【Pシリーズ】業界最短ヘッドで狭所作業に対応したインパクトドライバーなどのフラッグシップシリーズ
  • 【Lシリーズ】取り回しの良さを追求した軽量コンパクトな新電圧10.8 Vシリーズを5機種ラインアップ

新たに展開される2シリーズの電動工具

P series

ティザームービー上で公開されたP seriesシリーズの電動工具は2機種です。

  • 充電インパクトドライバー EZ1PD1
  • 充電ドリルドライバー EZ1DD1

Pシリーズはプロ向けユーザーをターゲットとした軽量・高出力電動工具です。

従来の6相4極構造のモーターに変わる9相6極の新型五世代モーターを採用し、従来比30%の小型化を実現しているのが特徴です。

さらに、省エネかつきめ細かなトルク制御が可能とするモーターのベクトル制御技術搭載「+BRAIN」を搭載し、リアルタイムでモーターのスピード・パワーを最適コントロールします

充電インパクトドライバーEZ1PD1(2021年8月発売予定)
全長ヘッドサイズ98mmの最短ボディと自在アタッチメントの装着に対応する
充電ドリルドライバー EZ1DD1(2021年9月発売予定)
全長160mmのコンパクトモデル。電子クラッチとネジ切り用のタップモードを備える

L series

L seriesは全5種類の製品ラインナップが予告されています。発売時期は2021年冬の発売を予定しています。

  • 充電インパクトドライバー EZ1P31
  • 充電ドリルドライバー EZ1D31(チャックタイプ)
  • 充電ドリルドライバー EZ1D32(ビットタイプ)
  • 油圧マルチ⼩型圧着器 EZ1W31
  • LEDマルチライト EZ1L31

新規採用の10.8Vバッテリーを搭載し、取り回しに優れた小型バッテリーになっているのが特徴です。

ただし、2021年6月時点のブランド公表時点では主だった目新しさが無く、圧着機以外では他社品との差別要因がほとんどありません。

充電インパクトドライバー EZ1P31
充電ドリルドライバー EZ1D31(チャックタイプ)EZ1D32(ビットタイプ)
油圧マルチ⼩型圧着器 EZ1W31
LEDマルチライト EZ1L31

ブランディングそのものに特筆すべき点はないが

これまでパナソニック電動工具は積極的なブランディングと無縁だったので、今回の動きはパナソニック本体の企業再編に伴ってパワーツール事業にマーケティング戦略やブランディングコンサルタント系の人材を入れて本格的に動き始めているようです。

電動工具を取り扱うメーカーの中で最も高い技術開発力を持つパナソニックの強みが生かされている印象を受けますが、「EXENA」ブランドにこれまでのパナソニック電動工具路線との大きな違いがなく、ブランド広報も2017年以降のHiKOKIブランド変更の二番煎じに近いものもあり目新しさがない印象を受けます。

筆者の個人的な感想ではありますが、電動工具市場のブランド広報戦略はコストに見合う効果がほとんどないと考えています。大げさにアピールするほどの技術性や新技術に対する需要・現場を大きく変える革新的な製品が伴わず、目の前のユーザーからかけ離れた部分にコンセプトが置かれている印象があり、あまり良いイメージがありません。

今回の「EXENA」ブランドの初動に関しても、一か月前から予告した割には従来製品や他社品との大きな違いは無く、ブランド構築に使った費用をその分製品売価の値引きやアフターサポート拡充に使い、地道にブランドを育ててもらった方がユーザーのためになったのではないかと思っています。

製品そのものを評価した場合、パナソニック18Vバッテリーを使用するPシリーズであれば既存ユーザーからの買い替え需要も期待できますが、新バッテリープラットフォームの10.8V Lシリーズに関しては、マキタスライド10.8VシリーズやミルウォーキーM12シリーズなど有力な小型電動工具シリーズが先行しているため、どこまで普及できるか難しいところです。

ニュースリリースではDIY需要も見込んでいるようですが、ホームセンターのプライベートブランドを始めとする手軽な低価格ブランドが躍進しているため、敢えて高価格なプロ向けブランドの電動工具を購入することはないと予想されます。

Lシリーズの販売台数 10万台/年は強気な目標設定と考えられる。販売まで約半年の猶予があるため、競合マキタによる先回りのキャンペーン戦略等が予想される。
引用:電動工具新ブランド「EXENA」2シリーズを発売|Panasonic

発表以降新製品がほとんど展開されず、低迷状態にあるHiKOKI スライド10.8Vシリーズのような先例もあるため、既存のパナソニックユーザーとパナソニック電動工具販売店の販売面積をどこまで確保できるかが重要になるでしょう。

EXENAはパナソニック企業体制改革の影響によるものか

ここからは製品ではなく、企業経営体制にフォーカスを当てた話に移ります。

パナソニックの企業体制は、2003年にドメイン制、2013年にカンパニー制を導入し、来年の2022年に持株会社制への移行を予定しています。

現在、パナソニックブランドの電動工具は、パナソニック株式会社ライフソリューションズ(LS)社エナジーシステム事業部が開発・販売を行っています。

(画像クリックで拡大)

持ち株会社移行後のパナソニック電動工具ブランドは、新たに設立される「パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社」に継承されます。

国内電動工具メーカーの新シリーズ展開は近年頻繁に行われていますが、国内電動工具メーカーの場合、新たな電動工具のシリーズ展開が行われると企業本体の経営に関わる大きな変化を伴う特徴があります。

例えば、国内電動工具大手3社もこの数年間の間に新たな電動工具シリーズの展開を行っていますが、そのどれもが新シリーズ展開直後に企業体制や事業戦略の大きな改革が行われています。

  • 日立工機 マルチボルトシリーズ (2017年)
    従来18Vスライドバッテリーに互換性を持たせた36V動作の新バッテリーを軸とする新たな電動工具シリーズ。翌年2018年に日立グループを離脱。外資ファンドKKR傘下へ。
  • RYOBI extremeシリーズ (2017年)
    工業デザイナー奥山清行氏とのコラボレーションで始まった新コンセプトの高性能・コンパクト電動工具シリーズ。翌年2018年にRYOBI電動工具事業は京セラに売却
  • マキタ 40Vmax(2019年)
    従来18Vスライドバッテリーとの互換性を廃した新構造の新36Vバッテリーを軸とする新たな電動工具シリーズ。翌年2020年に長年続いたマキタエンジン製品の生産終了を表明。今後の園芸機器は全て充電式製品で展開。

今回のパナソニック電動工具の新シリーズ「EXENA」展開の背景に関しても、パナソニック本体の経営事情が影響した結果、新たに展開された電動工具シリーズと推察しています。

パナソニックブランドの電動工具は電気設備品の作業工具の位置づけでしたが、企業体制の変更に伴う競合他社の電動工具事業に匹敵する採算性確保が要求された結果、今回の電動工具ブランド「EXENA」の設立に至ったものと考えられます。

電動工具業界の再編は、2010年代の末に日立工機売却・RYOBI電動工具事業売却を持って一旦落ち着いたと考えていましたが、2020年代に入っても事業参入や事業再編が落ち着く様子が無く、電動工具業界の動乱は今後も続きそうです。

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