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マキタ、2022年3月31日をもってエンジン製品の生産を終了
マキタは、世界的な環境問題に対する意識の高まりや、利便性が高い充電式製品に対するニーズの拡大といった状況を踏まえ、環境に優しく、より需要が高まると想定される充電式製品の開発・生産・販売に経営資源を集中させるため、エンジン機器の生産を終了する。
2020年現在、マキタが展開しているエンジン製品は下記の9品目。
- エンジン草刈り機
- エンジンチェンソー
- エンジンヘッジトリマ
- エンジンブロワ
- エンジンカッタ
- エンジンヘッジトリマ
- エンジン噴霧器
- エンジンポンプ
- 発電機
マキタのエンジン製品は、売上構成比の約2%(100億円前後)を占める。今後は、モータ技術やバッテリ充放電技術を活かした充電式製品の開発・生産・販売に経営資源を集中し、電動工具、園芸用機器の充電化(脱エンジン・コードレス化)を加速させる狙い。
直近のエンジン生産撤退の他社例では、競合のHiKOKIが、エンジン機器生産の終了を2019年7月に事後発表しており、旧子会社の日工タナカ(旧タナカ工業)を含む工機ホールディングス全グループが、エンジン製品の開発から撤退している。1
エンジン製品を全てバッテリーに置き換えることは難しい
「電動工具、園芸用機器の充電化(脱エンジン・コードレス化)を加速させる」とは表明しているものの、現状、リチウムイオンバッテリーは出力やバッテリー容量の問題からエンジン(ガソリン燃料)の代わりとするのは難しい。
60mL級の高出力エンジンを必要とするエンジンチェンソーやエンジン発電機のような長時間の連続稼働する製品はバッテリーで対応できないため、マキタはこの分野の製品から撤退することになる。
他のエンジン機器についても、排ガスの影響がなく静音性も高くランニングコストの安い充電式のメリットを差し置いても、初期コストの高さや重量の問題は現状のバッテリー技術では解決の見通しが無く、今回のエンジン生産終了は、売上比率の低いエンジン事業の清算的な意味合いが強いと考えられる。
ポスト高出力エンジンに成り得るバッテリープラットフォームは?
もしマキタが今後のバッテリー性能向上に合わせ、高出力の園芸機器市場を今後開拓する場合、現行のマキタバッテリープラットフォームではユーザーの要求を満たすことが難しい。
マキタが現在展開している次期主力の40Vmaxシリーズの大型バッテリーBL4040(36V/4.0Ah)を採用したとしても、実用的には排気量30mL前後の出力を4~5分維持するのが限界であり、新たなバッテリープラットフォームが必要になると考えられる。
現在観測できている範囲で、マキタは下記の手法による高出力バッテリープラットフォームの実現手段を備えており、下記いずれかの方法で高出力園芸機器に対応する新プラットフォームを展開すると予想している。
40Vmax×2シリーズ(バッテリー2本挿し)
現在の18V×2シリーズと同じコンセプトの40Vmaxバッテリーの2本挿し電動工具。直列20本のリチウムイオンセルによる76V動作によって高出力動作が可能。
マキタが最も得意とする2本挿し電動工具の分野であり、既存の40Vmaxプラットフォームで容易に高出力化できるのが特徴。新たな製品シリーズ展開手法としては最も実用性が高い。
バッテリーの最大容量は、次期主力21700セルのSamsungSDI INR21700-50Sを採用すれば、BL4050(仮称)×2本で36V/10.0Ah(360Wh)が最大容量となり、30mLクラスの刈払機程度なら実用的なクラスとなる。
仕様的には4,000W出力も可能になり60mLクラスもカバーできるが、バッテリー容量的に4~5分しか使えず、使用時間を改善するには今後のバッテリー技術の進歩を待たなければならない。
40Vmax自体、今後のバッテリーの性能向上を前提に展開されているシリーズなので、先進LiBの性能向上がどこまで進むかが展開のポイントになる。
64V MAXシリーズ
以前紹介した、海外フォーラムでリークされたマキタ新型バッテリーの試作品。直列16本の57.6Vの大型バッテリーで、2並列構成で32本のリチウムイオンセルを搭載。
18650セル(Sony VTC5A)の搭載時で57.6V/2.5Ah(288Wh)、21700セル(SamusungSDI INR21700-50S)採用で57.6V/5.0Ah(576Wh)が仕様上の最大容量。
容量は比較的余裕があるが、大型の単一バッテリーなのでバッテリー配置が難しい。類似バッテリーの単一大容量バッテリーを採用するEGO, Greenworkと競合するなど市場戦略的な問題もある。特に、単一の大型バッテリーになるためエンジンチェンソーなど手持ちの機器に採用するのも難しい。
一度は各国公式ページで販売準備が進められていたものの、その後の情報がないことからシリーズ展開そのものが中止された可能性が高い。
コネクタ接続専用シリーズの拡充
ポータブル電源PDC01, PDC1200を中心としたコード接続方式の充電式園芸機器展開。PDC01では最大18V/6Ah+6Ah+6Ah+6Ahで432Wh。新製品のPDC1200では1,206Whの大容量を実現している。
背負いパックの大きさは自由が利くので、容量を増やした大容量展開も容易に対応できる。低コスト手法に関してもEV車向けに米テスラ社が開発した4680セルや積層型バッテリーセルの搭載も可能で、次世代バッテリー技術に対する柔軟性は高い。現在から将来にかけてまで高出力エンジン機器需要を比較的容易に満たすことができる。
2020年10月時点では、草刈り機やブロワが販売されており、コネクタ対応による製品開発も容易なので、サードパーティーによるプラットフォーム囲い込みや、業界統一規格の成立なども期待される。
課題は、大容量バッテリーによる初期コスト高さ、背負い式による取り回しの悪さ、充電時間の長さとなる。
電動工具機器の一角を担う園芸機器事業、マキタの今後は
マキタ本来の主力である電動工具事業は、需要の停滞と競合他社による過剰供給の市場と観測しており、今後の売上増の見込みが少ない状態にあると評価している。
現状、充電式工具市場で最も伸びているのは園芸機器分野であり、手軽な家庭向けの新需要からプロ向けのエンジン転換需要の全てのクラスで充電式園芸機器の市場拡大が続いている。
セミプロ用途の園芸機器市場ではユーザーの要求は満たせているマキタだが、今後、高出力プロ用途ではどのように動くのか気になるところだ。
近い将来、次世代バッテリーが実用化されたとしても、セルメーカーが特定の企業に対して独占的に高出力バッテリーを供給するような状況は起こりにくい。
電動工具メーカーが出来ることは、高出力バッテリーに対応できる柔軟性の高いバッテリープラットフォームをどこまで素早く準備できるかにあり、その成否が将来の高出力充電式製品の製品展開を左右するカギとなる。
先進LIBへの技術シフトを目前に控えている今、今回のマキタのエンジン製品の生産終了をエンジン機器の代替と成り得るバッテリープラットフォームを先んじて構築し、エンジン製品の巨艦である共立・Husqvarna・STHIL打倒の足掛かりと解釈するなら、経営戦略上の判断として決して悪くはない。
現行で全体売上高2%のエンジン事業を、充電式化によって伸ばすのか、それともそのまま放棄してしまうのか、マキタのこの数年の対する動きが、マキタ今後の10年の売上を左右する要因として注目されるだろう。