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パナソニック電動工具事業をマキタに移管
パナソニック株式会社の電気設備・照明などを手掛けるパナソニック エレクトリックワークス社(以下 EW社)は、2026年3月31日にパワーツール事業を株式会社マキタに事業移管することを発表しました。

この事業移管は、EW社の電動工具事業を会社分割によって事業を継承する新会社に移管し、その後に新会社の全ての株式を株式会社マキタへ譲渡する手法の事業移管となり、パナソニック電動工具事業が持つ資産・契約・従業員等はマキタに継承されます。
新会社の設立および株式の譲渡は2026年度中に実施されることが開示されていますが、譲渡後のパナソニックブランドの扱いや既存販売品に対するパナソニック電動工具のサポート等の新しい方針は現時点では開示されていません。
また、マキタ側のプレスリリースでは、パナソニック電動工具事業が持つ工場向け締付機器分野において、トルク制御技術およびIoTを活用したデータ管理ソリューションの強みを評価しており、工場向け市場への本格参入および高付加価値ソリューションの創出を図り、企業価値のさらなる向上を目指すと表明しています。

ここからは下記の内容は編集部による考察によって構成しており、今後の企業方針や動向予測を保証するものではありません。当記事の内容を元にした企業や取扱店へのお問い合わせはお控えください。
パナソニックは電設事業から電動工具を切り離さないと想定していた
パナソニック電動工具は国内電動工具ブランドとしては電気工事やインフラ関連のプロユーザーに根強い支持を得ており、EW社の販売するパナソニック電設資材とのシナジーも強い電動工具ブランドです。そのため、筆者はパナソニックが電動工具事業を手放すとは、正直想定していませんでした。

パナソニック電動工具のここ数年の動向としては、製品展開ペースこそは他社比較で明確な遅れが目立ち、現場における幅広い作業に対応できる電動工具ブランドとは言えなくなってしまったものの、同社が強みを持つ電設作業に関連した製品ラインナップへの集中とATTACH 8シリーズなどの1つの電動工具で複数の作業を集約する製品開発の効率化によって、電設資材における1部門として細々と残っていくのだろうと予想していました。
また、近年は工場向け電動工具への取り組みを積極的に行っており、同社が次世代電動ドライバーとして位置付けているAzeloss (アゼロス)シリーズや、産業ロボット太陽のロボテックインパクトなどのアピールを行っており、パナソニックグループ内部で積み重ねた製造ラインノウハウを活かす方向で電動工具事業の拡大を進めていくのかな、と思いはじめた矢先のマキタへの事業移管でした。


新ブランド EXENAによるV字回復の軌跡は成功と言えたのか

さて、少しパナソニック電動工具のネガティブな面の話題ですが、新たなパナソニック電動工具のブランディング戦略として2021年からEXENAブランドを展開しており、その同ブランドの展開によって電動工具の注文が5倍になったという驚異的な成果を掲げ、ブランディングによる業績V時回復の成功事例としてアピールしていた時期がありました。少なくとも、その成果が事実かつ継続的な結果を得られていたのであれば、今回の事業移管は行われなかったのではないかと考えています。
このEXENA戦略は、パナソニックが自社の製品にブランド名をつけて販売する企業文化に基づく活動のようで、テレビではBRAVIA、デジタルカメラではLUMIX、業務用パッケージエアコンではXEPHYとブランド名称を付けています。
しかしながら、筆者の認識としては、日本国内の電動工具市場において製品シリーズや機能に対して名称を付けることはあっても、製品そのものにブランド名称を付ける文化は無いのではと考えており、今更になって電動工具に対してブランドコンセプトを掲げてアピールするだけの広報戦略に大きな価値は無いと思っていました。正直なところ、そのようなことに企業リソースを割くのであれば、製品の値引きやサポート体制の拡充に割り当て方がユーザーのためになったと思っています。
これは筆者が持つ、プロ向け電動工具に対しての認識ですが、プロ向け電動工具はユーザーが稼ぐための道具であり、電動工具メーカーは売上を上げる傍らで、如何にしてユーザーに製品を使ってもらい、ユーザーが実利を上げられるかの施策を常に考えないといけない、特殊な商材を扱っているのだと捉えています。最近は、DIYやアウトドア用途などカジュアル化も進んでいるため忘れがちになってしまいますが、電動工具は稼ぎの道具であるという本質は決して忘れてはいけないと思っています。
パナソニック電動工具は、売上高基準の国内シェアとしては決して高いと言えるブランドではないものの、パナソニックの電材と共に考え抜かれて開発された電動工具は、電気工事ユーザーを中心とした幅広いユーザーの根強い信頼を獲得したブランドになっています。地域や業種差はあるものの、建築現場で見かける電動工具としてはマキタの次に位置するほどパナソニックはプロユーザーの間に浸透しているブランドではないでしょうか。
そのような長年堅実に取り組んできたユーザー信頼の実績があったのにも関わらず、ブランド構築だけのティザーページを開設したり営業マンにEXENAロゴの入った上着を着せたりして、ブランドコンセプトを周知させる広報活動が、本当に電動工具プロユーザーに対しての実利に繋げられたものであったのか、筆者は少なからず疑問に思っています。
とは言え、これはあくまでも巨大企業であるパナソニックの定型的な企業文化の取り組みが本当にユーザーのためになるものであったのかと疑問を呈するだけの細かな話であり、実際の事業移管の背景には、パナソニック社内のLS社からEW社に変わったことによる経営方針の変更やパナソニック電動工具事業の今後の展望を顧みた、総合的な経営判断に基づくものであると考えています。
今後、マキタ傘下のパナソニック電動工具はどうなっていくか
今後、パナソニックの電動工具事業がマキタ傘下に入ることで、どのように変わっていくのかが注目されます。ただし、筆者の予想としては、パナソニック電動工具に対して劇的な変化は起こらないのではないかと考えています。
その要因として、マキタブランドとパナソニックブランドは製品ラインナップこそ大きく重なるものの、販路構造やアフターサポートの体制には大きな違いがある点が挙げられます。これらをマキタ主導で再編・統合するには相応のコストがかかり、その負担が採算に見合うとは考えにくいため、当面は現在の体制を大きく崩さずに、製品開発・製造・販売が続けられるものと予想しています。
ユーザーとして気になるのは、今後のアフターサポート体制がどうなるのかという点でしょう。しかし、マキタ営業所がパナソニック電動工具の修理を直接担うような形は、経営面での負担が大きいとみられるため、修理窓口なども従来の運用が基本的に継承されるのではないかと考えています。もしかすると、マキタ営業所でパナソニック電動工具の修理受付程度は可能になるかもしれませんが、もともとパナソニック電動工具の取扱店で購入したのであれば、取扱店に持ち込むのが本来の修理対応の流れです。そのため、大半のパナソニックユーザーへの影響は限定的ではないかと思われます。
一方で、マキタは今回の買収にあたり、パナソニックの工場向け電動工具に明確な関心を示しています。この分野については、比較的早い段階でマキタ本体の事業へ組み込まれていくのではないかと想定しています。筆者の認識としても、マキタは売上拡大に向けた新たな事業の柱を求めており、その候補として工場向け分野に活路を見いだしたとしても不思議ではないと見ています。
ただし、長期的な視点で見ると、国内企業における事業移管や買収の先例を踏まえる限り、買収された側のブランドや事業がその後も良好に存続するとは限らないのも事実です。
たとえば電動工具業界では、エンジン機器分野への関心が高まっていた2000年代ごろに、日立工機によるタナカ工業の買収や、マキタによる富士ロビンの買収が行われました。しかし結果としては、買収元ブランドの縮小に加え、市場の電動化という大きな流れもあり、いずれも穏やかなブランド消滅へと向かっています。
こうした事例になぞらえるなら、1991年にマキタが買収したドルマーG.m.b.H.のケースに近い形になる可能性もあります。つまり、マキタ本体と製品展開が重なる建設向け分野については、ユーザーが自然な形でマキタブランドへ乗り換えていくような製品展開が進み、結果として穏やかに吸収されていくのではないかと考えられます。
また、工場向け分野については、早期にマキタ本体へ組み込まれ、技術統合を通じて工場・産業向け電動工具の開発や拡販が進められるとみられます。ただし、目立った成果を上げられなければ、マキタがこの分野への関心を弱める可能性もあるため、結局のところ今後の成果次第という面が大きいでしょう。
最後に、マキタ移管後のパナソニックブランドの扱いについてです。パナソニック側のプレスリリースでは「株式の全てを譲受会社へ譲渡」とされており、パナソニック側が株式を残さないことが示唆されています。そのため、経過措置や在庫品への対応として数年間はパナソニックブランドが存続する可能性はあるものの、長期的にはパナソニックの冠を外したEXENAブランドへの一本化や新ブランドへの移行が進められるのではないかと考えられます。





