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革新的な給電規格USB PD
最近、USB充電器を探しているとUSB PDと書かれた充電器を目にする方も多いんじゃないでしょうか。
USB PDとは新たに策定された次世代の電力供給規格で、これまでの急速充電規格を大きく超える圧倒的な性能を持ち、安全性の確保と高い利便性を持つ新しいUSB急速充電器です。
これまで、USB充電器の給電規格はさまざまなメーカーが規格を乱立させる混沌とした状態が続き、ユーザーにとって若干不利益な状態となっていましたが、このUSB PDの登場によって全ての急速充電規格が統合され、新しいUSB給電機器市場が成立しようとしています。
今回は、そんなUSB PDについて解説する記事です。USB PDの詳しい部分まで解説すると、より詳細な仕様についての言及も必要になるため、この記事では用途的な部分を中心に要点だけを説明していきます。
コネクタはUSB Type-C、中身はUSB PDじゃないことも
まず一番初めに説明しなければならないのが、勘違いしやすいUSB PDの概念についてです。
USB PDはあくまでも大電力給電の規格の名前でで、物理的なコネクタ形状の名前ではありません。コネクタの名前は正式名称USB Type-Cと呼ばれています、そのままだと長いのでUSB Cとか、そのままCと呼ぶ場合もあります。
少しややこしいのですが、USB Type-Cを搭載している機器だからと全ての機器がUSB PDに対応しているわけではありません。あくまでもコネクタ形状はUSB Type-C、その中で搭載されている急速充電規格がUSB PDという感じで覚えておきましょう。
USB PDのメリット
少し前置きが長くなってしまいましたが、ここからはUSB PDのメリットについて解説します。
最大100Wの給電規格
USB PDは最大100Wまでの電力のやり取りに対応しています。従来の標準的なUSBで最大2.5W、Appleが普及させた急速充電規格で12W、クアルコムのQuick Chargeで18Wなので、従来のUSB供給規格と比較すると圧倒的な給電能力を持っているのが特徴です。
100Wもの大きな電力を扱えるようになれば、スマホ・タブレットだけではなく、ノートパソコン・その他周辺機器の給電にも対応できるようになります。既に一部のMacbookやNintendo Switchのように、USB PDの接続に対応する機器も展開されていることから、この先もUSB PDはさまざまな機器に広まると期待されています。
ACアダプタが1つにまとまる
USB PDのメリットは電力供給が大きいことだけではありません。対応できる電圧出力幅も広いので、さまざまな機器のACアダプタをUSB PDに統合できます。
これまでの家電・ガジェット・PCデバイスのような各種周辺機器は丸型プラグのACアダプタを使うのが一般的でした。機器本体を買った時にACアダプタがついてくるわけですが、機器が増えるとACアダプタが増えてしまったり、ほかの機器のACアダプタと混ざって何が何だか分からなくなったりと、困った思いをした方も多いと思います。
USB PDは5Vから20Vまでの電圧入出力に対応していて、市販されているACアダプタを置き換えることができます。さらに最大100Wまで給電できるので、電力不足になることもほとんど考えられません。
機器に付属するACアダプタが無くなれば、販売・輸送・在庫コストも下がり、廃棄時のゴミの減少、包装の軽量化など、エコロジー的なメリットも大きくなります。
通信ケーブルと給電ケーブルが一つにまとまる
PCデバイスを動かすにはUSB通信ケーブルとACアダプタを含めた2本のケーブルの接続が必要でした。USB PDでは大電力給電を行いながらのデータ転送にも対応します。
従来もバスパワーと呼ばれる供給とデータ転送を行う方式がありましたが、対応できるのは小型ハードディスクやUSBメモリのような消費電力の少ない機器だけで、それ以外の機器の動作には対応できませんでした。
USB PDの大電力給電とデータ転送を同時に行えるようになれば、ノートパソコンの外付けディスプレイをUSBケーブル一本で表示させるようなこともできるようになります。
給電側と受電側を柔軟に切り替えられる
USB PDは、受電と給電を瞬時に入れ替えることもできます。
例えば、パソコンからハブを通して各機器に給電している時なども、ハブにUSB PD充電器を新たに接続したときにはパソコンを受電に切り替えるなど、柔軟性の高い機能です。
この機能は、ほかの給電規格には無い方式で、USB給電の形を大きく変えると期待されています。
最新技術の採用でコンパクト高出力
USB PD対応充電器は、仕様がUSB-IFによって規格化されており、市場成長期にあるUSB PD対応充電器は対応機器・発売台数も右肩上がりで、高性能化と低価格化が同時に進んでいます。
これはUSB PDの直接のメリットではなく、成長期にある市場の特徴ですが、現在のUSB PD充電器は電源機器として高性能化・低価格化が進みやすい市場状態にあります。
USB PD対応充電器の内部部品は規格化によってある程度の共通化が進み、ある種のスケールメリットが成立している状態です。さらに、現在のUSB PD対応充電器は、民生品でありながらも最新の技術を搭載しており、それでいてコストパフォーマンスも良く、性能の優れたACアダプタとして技術の進歩が続いています。
その象徴的な出来事こそ、窒化ガリウム(GaN半導体)の搭載です。GaN半導体は、シリコンに置き換わる次世代半導体の1つで、電気的・物理的特性に優れ、低損失で小型のパワーデバイスに期待できるとして、注目されていた材料です。
真っ先にコスト削減の対象にされる従来のACアダプタでは、コストが高くなる窒化ガリウムパワートランジスタの採用は見送られる傾向にありました。しかしUSB PD充電器では、規格の共通化によるスケールメリット、さらに長期的に使える面も合わせ若干のコストアップも受け入れられる土壌が整っているため、最新技術の導入が受け入れられやすい状態になっています。
現在、GaN搭載デバイスと言えば、USB PD対応充電器を指すほどGaN半導体の搭載が進んでいます。今後も、GaN半導体技術の発展により、より小型で高出力なUSB PD対応充電器の開発が進んでいくでしょう。
仕様がちゃんと定義されていて使いやすい(機器開発的に)
従来のUSBは本来、通信のために用意された規格なので、給電するため方式としてはあまり適していません。それに拍車をかけるように各社が自由に急速充電規格を乱立させたために、機器開発側の立場としては非常に手を出し難い給電方式になっていました。
例えば、USB端子から大電流を取ろうとしても各社の方式が微妙に異なるため、全てのUSB充電器から大電力を取れるようにするのは難しく、動作させることができなかったり、下手をすると給電側を壊してしまう可能性もあります。
身近な例では、電子タバコをUSB充電器に繋げてもうまく充電できなかったり、極端に充電速度が遅い、のような経験がある方もいるとおもいます。汎用的な規格のUSBなのに、中身の給電方式は全然汎用的じゃないジレンマに悩まされてしまうのがこれまでのUSB給電でした。
ちなみに、USB-IFが定義したUSB BCと呼ばれる最大1.5A供給の規格もありますが、一部の急速充電対応USB充電器の中にはUSB BCに対応せず独自の急速充電規格しか搭載しないものもあるため、USB端子を電源として扱うのはあまりにも不確実性が高く、リスクも非常に高かったのです。
USB PDでは、USB-IFによって仕様が厳密に定義され全ての情報が公開されており、ルールさえ守ればだれでもUSB PD対応機器を製造することが出来ます。
USB PDの普及は進行中、さまざまな機器がUSB PDへ
USB PDは2012年に策定された規格で、なかなか普及は進みませんでしたが、ここ最近になってようやく普及が進行し、USB電源供給だけにとどまらず、電源供給の方法そのものに大きな革新が迫っています。
特に注目すべきは、この数年の間に各半導体部品メーカーが一斉にUSB PDコントローラICの展開を始めたことです。
これによってUSB PD機器開発の敷居は大幅に下がり、これまでのDCジャックを低コストでUSB PDに置き換えられるようになりました。USB PDの普及が今後も進んでいけば、付属ACアダプタと置き換わる形で更なるUSB PDの普及が予想されます。
USB PDは、利便性の高さ・廃棄物の削減・機器対応の汎用性など、あらゆる面でメリットがある次世代技術です。現在のUSB PDは黎明期を過ぎ、成長期に差し迫っていますが、一般ユーザーの認知度はまだ低く、課題も山積みで、まだまだ手探りな状態が続いています。
次回はUSB PDのオプション規格、Programmable Power Supply(PPS)について解説します。