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2023年9月17日

小型家電をUSB PDに改造してACアダプタを減らす話

小型家電をUSB PDに改造してACアダプタを減らす話

専用ACアダプタを駆逐して少しでもケーブルから自由になりたい

皆さんはUSB PDをご存じでしょうか。スマホ充電器やモバイルバッテリーによく書かれているフレーズで、最近だと2023年9月発売予定のiPhone15のコネクタがLightingからUSB Type-Cに変わるということで、その規格であるUSB PDも注目されているようです。

USB PDとは、スマートフォンやノートPCなどで急速に普及が進んでいるUSBの給電規格です。従来のUSB接続によるパソコン周辺機器を接続するに加えて、給電規格のUSB PDでは最大100W(20V-5A)の給電機能を持ち、5Vから20Vの間で出力電圧を可変することもできる規格です。

このUSB PDはバッテリーを内蔵するモバイル機器の急速充電として普及が進んでいるわけですが、その汎用的な給電能力を活かして家電製品に適用することも原理上は可能であり、一部の電子部品メーカーは家電用途も視野に入れたUSB PD制御ICのニュースリリース(参考:BM92AxxMWV-EVK-001を販売開始│ROHM)を公開したこともありました。

USB PDを導入すれば専用電源アダプタを減らせるので配線周りを少なくできる。
画像引用:USB Type-CのUSBPD対応評価ボード「BM92AxxMWV-EVK-001」を販売開始

筆者はUSB PDに無限の可能性を感じていて、スマホやノートパソコンに限らず、ACアダプタで動作する家電製品全てがUSB PDで動作するようになれば良いと思っているタイプです。と言うよりも、ACアダプタがコンセント口を占拠して電源タップを無限に買い込んだり、DCプラグとDCジャックの微妙な寸法差に苦しめられたりしたので、何もかもUSB PDになれば解決すると思い込んでいるタイプと言った方が正しいのかもしれません。

と言うわけで、今回の記事ではACアダプタで動く小型家電にUSB Type-Cコネクタを仕込んで、USB PD充電器で動くように改造できるか試してみる記事です。

小型家電やPC周辺機器、ゲーム機にそれぞれ専用ACアダプタがあるので電源タップやコンセントの付け替えが無限に増えていく。ケーブルを抜き差しする工程もコンセントと本体で2回行わなければいけないのも結構面倒。
コンセントにUSB PD充電器を接続してケーブルを挿しておけば、機器側のケーブル抜き差しだけで完結できる。最近のUSB PD充電器は2口仕様も多いので、コンセント口の数を節約して電源タップも少なくできる。

9V動作の電気マッサージ機をUSB PDトリガケーブルで動かす

ACアダプタで動く機器がないか探してみると、コロナの時期にデスクワーク腰痛対策で購入したテスコム ハンディマッサージャーTMS100がありました。まずはこれをUSB PD仕様に改造してみます。

付属のACアダプタを確認すると9V-2.0A仕様だったので、原理的にUSB PDの18W以上のモデルであれば、9V給電を行うことで同じように動作するはずです。

早速改造してUSB PD端子を仕込みたいところですが、先にUSB PDトリガケーブルで動作させて問題ないかを確認します。USB PDトリガケーブルとは、USB Type-C端子から任意の電圧を取り出してDC丸ジャックに変換するケーブルで、DCプラグの径さえあれば製品を改造することなくUSB PD充電器で動かすことができます

今回の検証で使用するUSB PD充電器は、 Apple純正の20W Type-C電源アダプタです。最大20W出力の仕様を備え、PDOは「5V/3A、9V/2.22A」なので、原理的には標準付属のACアダプタと置き換えができるはずです。

とは言え、電圧的な条件を満たしていても、今回の製品はモータを搭載する製品であり、誘導負荷の製品は色々と懸念すべき点もあるので、念のため電圧波形やモータ回生による逆流などをオシロスコープを使って電圧波形も確認しておきます。

標準付属のACアダプタで動作しているときの電圧出力波形は下記のようになりました。

付属する専用ACアダプタを使った製品動作時の出力波形。周期的な電圧の振れはブラシモータによる接点の切り替えが影響しているものと推測される。

そして、USB PD充電器に9Vトリガケーブルを接続して動作させたときの波形が下記の画像となります。

こちらはUSB PD充電器で動作した時の出力電圧波形。若干スイッチングノイズが多くなっているように見えるが、実動作的には問題ないと考えられる。

時間軸を変えて画像を保存してしまいましたが、スイッチング周波数が異なるためか若干ヒゲ状のスイッチングノイズが増えているくらいで、基本的な電圧波形に大きな違いはないことから、実動作的にも問題はないと考えられます。

またモータ停止時に回生電流が発生してDCジャック部まで逆流している挙動も見られなかったため、USB PD充電器で動作させても問題はなさそうです。

USB PDトリガデバイスを仕込んでUSB接続にする

USB PDトリガケーブルで動かして問題なさそうだったので、本体に仕込むUSB PDトリガデバイスを調達します。できるだけ本体を改造せずにDCジャックと入れ替えたいので、通販で買える中で最も小さい11×17mmのUSB PDトリガデバイスを購入しました。

このUSB PDトリガデバイスは、5Vから20Vの出力範囲を5段階で任意で変更できるので、9Vを取り出す設定に調整して本体に組み込みますします。

DCジャックを取り外して、USB PDトリガデバイスに付け替えます。USB PDの横幅に合わせるためにリブや接続口を少し削る必要はありましたが、うまく内蔵できそうです。

蓋を閉じてねじ止めすれば、接着剤無しを使用せずに固定できました。接着剤で固定すると端子が変形やICチップが壊れた時に修理しにくくなってしまうので、機械的な固定できたのはうれしいポイントです。

USB Type-Cケーブルを差し込むと、付属の専用アダプタと同じように動作しました。3mくらいの長いUSB Type-Cケーブルを使えばコンセントから離れた場所でも使用できるので、利便性は大きく向上しています。

ちなみに、USB PD化すれば、モバイルバッテリーでも動作できるようになります。コンセントが無い環境でも使えるようになったので、これはもうコードレスマッサージ器と言っても良いかもしれません。

ちなみに、普通のUSB充電器に接続すると、PDOを無視して5Vが加わってしまうため正常には動作しません。電源は入るものの、モータの回転数が上がらず直ぐに電源が落ちてしまいます。

全部のDCジャックで動く小型家電よ全てUSB PDになれ(暴論

今回、DCジャックの代わりにUSB PDトリガデバイスを組み込んで動作させてみたところ、意外とうまく行きました。

USB PDトリガケーブルでもUSB PD充電器で動作させることは可能ですが、ケーブル自体の差し替えが必要なのでACアダプタと使い勝手が変わらなくなってしまう事やトリガケーブルの種類を間違えてしまうと製品本体を壊してしまう可能性もあるので、使い勝手の面でUSB PDトリガデバイスを内蔵するのが最も良い方法ではないかと思っています。

とは言え、古めのUSB PD充電器だと挙動がおかしい場合もあったので、USB PDトリガデバイスで動作させる時には比較的新しいUSB PD充電器を使った方が良いのかもしれません。

USB PDは挙動が定められている規格ではあるものの、複数の企業が独自の仕様を加えて独特な挙動を行う製品も多いため、広く普及させるには色々と都合の悪い面もあります。

たとえ、USB PDに対して基本的な知識を持つユーザーがスペック的に適切なUSB PD充電器を選んでいたとしても、思い通り動かない可能性もあるので、USB PDのを全く知らないユーザーが使うことを想定するには、まだまだ敷居の高い規格と言えるでしょう。

今回の事例に関しても、本来であればちゃんとしたマイコンを搭載し、PDOの中から適切なパワールールを選ぶような動作が必要です。またUSB PDとしての通信できない場合には、動作自体を行わせないなどの制御を加えなければいけないのですが、そのあたりは今後の課題として対応が必要になってきます。

今回購入したUSB PDトリガデバイスはあと数枚残っているので、次はデジタル機器や100W近い出力の家電などにも組み込んで見たいと思っています。あとは、STMあたりがUSB PDで使いやすいエコシステムを提供しているようなので、より実用性の高いUSB PD給電基板なども考えています。

この記事で使用したアイテム

USB PDトリガデバイス

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