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本記事で紹介する製品は、専門知識を有し安全かつ適切に取り扱いができることを前提に解説しております。本記事によって生じた故障または損害等に関しては一切の責任を負いかねます。
目次
充電式の窓用バキュームクリーナーが動作しない
先日、とある知人から「使わないからあげる」と新品の充電式バキュームクリーナーを貰いました。
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しかし、いざ使ってみると動作が安定せず、稼働時間20秒ほどで電源OFFになってしまう不良品。タダで貰ったものなので、そのまま捨ててしまっても良かったのですが、修理ネタにするために分解修理を行ってみます。
不良現象としては、「電源を入れてもすぐにモーターが止まる」「充電を始めるとすぐに満充電になる」でした。特に、モーターが止まる時に状態を表すLEDライトの明かりが少しずつ照度が落ちていく様子が確認できたので、内蔵しているリチウムイオンバッテリーの劣化が進んで、充放電できなくなったものと予想しました。
分解して内蔵のリチウムイオンバッテリーを取り出す
そんなわけで、早速製品本体を分解して内部のバッテリーを取り出して確認します。
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製品の分解は、ハウジングを固定しているネジを全て外すだけでOKでした。バッテリーを取り出してみると、2接点コネクタで接続された保護回路無しのリチウムイオン18650セルを搭載していました。
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取り外したリチウムイオンバッテリーセルの内部抵抗を確認してみると、250mΩでした。正常な18650セルなら満充電近い状態で100mΩ以下が一般的であるため、このセルは劣化が相当進んでいたものと考えられます。
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本体の制御基板を見てみると、リチウムイオン保護ICと考えられる電子部品が実装されており、リチウムイオンバッテリーパック自体には保護回路が不要の仕様になっていることから、リチウムイオンセルの交換だけで修理できそうです。
交換用のバッテリーパックを作る
ここまでの分解検証で、リチウムイオンバッテリーを交換すれば修理できそうなので、新しいリチウムイオンバッテリーパックへの交換作業を行います。
今回は、秋葉原の千石電商で購入したSAMSUNG SDI 25Rを使用します。このセルは2,500mAh – 20A出力仕様で、一昔前のモビリティ機器や電子タバコによく採用されていた高出力仕様のセルです。
ちなみに、充電式電池を内蔵する多くの製品は、乾電池のようなホルダー装着構造ではありません。デジカメのようなスロット挿入式でもない限り、ほとんどの製品でハーネスケーブルを付けたパック実装品が多く採用されています。本製品もパック実装品だったので、バッテリーにタブ付けを行い、コネクタをはんだで付ける作業が必要です。
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早速、先日購入した充電式スポット溶接機でタブ付けを行います。タブ付けに使うニッケルタブは、スポット溶接機に付属していた0.1mm厚品を使用します。
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まずはマイナス面にタブ付けします。
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プラス面のタブ付け作業は、円柱セルの構造上、プラス極とマイナス極の距離が近く危険性が高いので、絶縁紙での絶縁強化が推奨されます。そのため、セルプラス面に輪っか状に切り抜かれた絶縁紙を張り付けてからタブ付けします。
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さらに、今回はモータ駆動の集じん・振動が発生する製品なので、タブの上からも絶縁紙を張り付けて絶縁を強化します。
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スポット溶接と絶縁紙が張り終わった終わったセルはこんな感じ
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タブが振動でラミネートを破ってしまわないように、タブを折り曲げる部分にも絶縁紙を張り付けます。そこにコネクタをはんだ付けします。
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より高い絶縁性とタブ・コネクタ類を固定するために、PVCで巻いて収縮します。
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完成したリチウムイオンバッテリーパックがこちら。PVCでシュリンクすると、だいぶバッテリーパックらしくなりました。
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完成したバッテリーパックの内部抵抗を測定すると38mΩになりました。スポット溶接やはんだ付け作業に問題がある場合、内部抵抗値が異常に高くなるので注意しましょう。
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本体に組み込んで動作確認
バッテリーパックが完成したら、あとは本体に装着してネジ止めするだけです。
バッテリーを組込前に本体をよく見てみると、バッテリー挿入部の側面に温度検知用のサーミスタが実装されていました。密閉されている場所なのでほとんど影響はないと思いますが、バッテリーを熱収縮チューブ2枚で覆ったのは熱伝導率的にあまり良くなかったかもしれません。
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とりあえず今回は気にしない方向にして、コネクタを接続して製品本体にバッテリーを挿入して蓋をします。
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新しいバッテリーを取り付けて電源を入れると、モーターが素早く力強く回転を始め、すぐに電源がオフになる問題も解消されました。充電も無事に満充電までできたようなので、修理は成功と言えます。
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リチウムイオンバッテリーの交換修理は意外と簡単、しかし…
リチウムイオンバッテリー内蔵型の製品は、基本的にバッテリー寿命=製品寿命なのですが、製品や使い方次第ではバッテリーが真っ先に寿命になってしまうため、内蔵バッテリーを交換することで製品寿命を延ばすことができます。
本記事の修理例に関しては、リチウムイオンバッテリーセルを1本入れ替えるバッテリーパックの制作が主な作業になりました。タブ付けを行うスポット溶接機やはんだごて、資材としてPVCチューブや絶縁紙など色々なものが必要になります。作業に慣れや経験も必要ですが、意外と短時間で済んでしまいます。
新しく入れ替えたバッテリーセル SAMSUNG 25Rですが、高出力仕様の大容量リチウムイオンセルなので、稼働時間・出力共に向上して製品としての使い勝手はだいぶ良くなったはずです。とは言え、高出力セルによってモータ寿命を短くしたり、充電基板との相性によって過充電状態になってしまう可能性もあるため、使用には細心の注意を払うようにしましょう。
ちなみに、今回修理したドウシシャ DWC-1501は、販売ページのレビュー欄を見る限りバッテリー周りの評判があまり良いものではないらしく、「バッテリー寿命が短い」「充電してもすぐ動かなくなる」などのトラブルが頻発している製品のようです。
注記:本製品は2020年3月9日に販売元の株式会社ドウシシャから注意喚起が発信されています
窓用クリーナーについてのお知らせとお願い|株式会社ドウシシャ
今回の修理に関しては、もらいものなので購入証明書などが無く、メーカーによる無償修理による対応も無さそうなので、自分でバッテリー交換修理したわけですが、修理するのであれば、普通に修理依頼した方が良いでしょう。