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目次
ここ数年、静かに流行っている1.5Vリチウムイオンバッテリー
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ここ最近、通販サイトにアクセスすると単三電池型のリチウムイオンバッテリーが売られているのをよく見るようになりました。普通のリチウムイオンバッテリーは公称電圧が3.6~3.7Vのバッテリーなのですが、このバッテリーはリチウムイオンでありながらアルカリ乾電池と同じ1.5Vと書かれています。
充電も普通の充電器のような専用充電器を必要としないものもあり、USBポートを搭載してパソコンやUSB充電器からも充電できる手軽さを持った製品もあります。
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このバッテリーは2020年頃から通販サイトで見かけるようになったのですが、ガジェットマニアの間などで話題になりつつも本格的な普及にはあと一歩進んでおらず情報も少なかったので、今回の記事でどのような製品かまとめます
ニッケル水素充電池や1.5Vリチウム乾電池とは異なる電池
このバッテリーはリチウムイオンバッテリーではあるものの、1.5Vで放電できる点が大きな特徴となっています。
例えば、一般的に売られている充電池としてはエネループなどのニッケル水素充電池がありますが、公称電圧が1.2Vなので一般的なアルカリ乾電池の1.5Vよりも電圧が低いために特定の機器に使うとうまく動作しなかったり常に低残量表示が出たりと実際の使用において不都合が発生する場合があります。
また、リチウムの名前を冠する電池として1.5Vのリチウム乾電池もあるのですが、これはリチウム電池なので充電することはできず、どちらかと言えば屋外や長期保管などに使うための特殊用途の乾電池です。
これらの電池と比較すると、1.5Vリチウムイオンバッテリーは充電して再利用できるバッテリーながらもアルカリ乾電池と同じ電圧で使用することができ、急に電池が切れてしまった時でもパソコンやUSB充電器から充電できるメリットがあります。
単純なサイクルコストならアルカリ乾電池の10倍以上のパフォーマンス
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1.5Vリチウムイオンバッテリーは1本あたり1,000円程度で販売されています。アルカリ乾電池の安いもので1本約30円、エネループが1本約500円で販売されている事を考えれば高価な印象を受けるバッテリーです。
とは言え、1.5Vリチウムイオンバッテリーの利点は充放電できるサイクル寿命であり、1.5Vリチウムイオンバッテリーで知名度の高いXTAR社製のバッテリーに関しては1,200回のサイクル回数をアピールしています。
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これを含めて価格で比較すれば、Amazonベーシックの100本セットが約2,800円で購入したとしても、1.5Vリチウムイオンバッテリーを100サイクルを使えば十分に元が取れる計算になり、メーカー公表のサイクル寿命使えるとするならば10倍以上のコストパフォーマンスを持つことになります
ただし、これは乾電池を日常的に消費ような極端な例であり、さらに1.5Vイオンバッテリーが「壊れない」ことを前提とする考え方です。実際は耐久性やサイクル寿命の点を考えると個体差やメーカー毎の品質の差も大きいと想定しているので、このあたりの実情はまだまだ未知数な製品と言えます。
魅力も多いバッテリーだが、欠点や注意点も多い
1.5Vで使える充電池として魅力的な1.5Vリチウムイオンバッテリーですが、実際には欠点も多いバッテリーです。
このバッテリーはリチウムイオンそのものの特性を変えて1.5V仕様に変えているわけではなく、一般的なリチウムイオンバッテリーに降圧回路を入れて1.5Vを出力している製品です。そのため、降圧回路の性能の関係上、瞬間的な大電流放電には対応できず降圧回路特有のスイッチングノイズも発生するので、大型モーター機器やラジオなどノイズの影響を受けやすい機器には使用できません。
また、現状では中国業者が輸入事業者を通じて日本に発売している製品であるため、JRBCに加入しているブランドは無く、バッテリーを使い切った時の廃棄方法が限られており処分に困ってしまうケースが考えられます。
さらに、1.5Vリチウムイオンバッテリーは小さいながらもリチウムイオンバッテリーを内蔵するバッテリーであるため、降圧回路が短絡モードで破損して3.6Vがそのまま機器に出力されてしまったり、機器からの発熱や何らかの衝撃の影響を受けて発火してしまう危険性もあります。
そういうリチウムイオンバッテリーとしての特性や降圧回路を内蔵している製品構造を考えると、ある程度のリスクを内包しているバッテリーであり、必ずしもアルカリ乾電池やニッケル水素の充電池程便利に使えるものではない製品となります。
あとは、中国製品なのでバッテリー容量の詐称は当たり前のように行われています。この辺りは搭載しているリチウムイオンセルに対して降圧回路の効率を考慮していない表記なのですが、少し製品に対する考え方が違うのかなと思っています。
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実際の使用感としては悪くない製品、しかし使う場所には吟味も必要
当サイトではこれまで3種の1.5Vリチウムイオンバッテリーを購入して検証などを行っており、現在でもガジェットやスマートデバイスなどの電源として使用しています。
筆者の用途としては乾電池を使う具体的な機器としては、左手デバイスのTourBox NEOやHHTB BTなど単三電池で動作するなどです。
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これらの機器は数か月で電池が切れて動かなくなってしまうのですが、1.5Vリチウムイオンバッテリーは体感的に2倍近いバッテリー容量があり、充電が切れてもUSB端子から充電できるバッテリーであればパソコンから充電できる手軽さもあるのが大きな利点と感じています。
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あとは、モータを搭載する灯油ポンプや石鹸のオートディスペンサーなどにも1.5Vリチウムイオンバッテリーを使用しているのですが、これくらいの小さなモータ負荷であれば十分問題なく使えています。
逆に適さない機器としては、時計やリモコンなどの低消費電力の機器が挙げられます。
この辺りは降圧回路を搭載している影響からか、微小負荷に対しては機器の消費電力よりも降圧回路そのものの消費電力が影響してしまうようで1年も経たずに残量が空になってしまいました。消費電力の少ない機器に関しては普通の乾電池を使った方がよさそうです。
充電池としては、消費電力が極端に大きい製品やノイズの影響を受けない製品であれば幅広く使うことができますが、サイクル数によるコストパフォーマンスの利点を活かすのであれば程よい消費電力の機器に使わなければいけないバッテリーです。
電気用品安全法(PSE)はXTARの最上位クラスが適合
モバイルバッテリー発火多発の影響を受けて改正した2019年以降、リチウムイオン蓄電池のPSEマーク表記が必要になったのは記憶に新しい所なのですが、この1.5Vリチウムイオンバッテリーに関しては、ほとんどの製品がPSE非対象となっています。
実は、PSE対象となるリチウムイオン蓄電池にはいくつか条件があり、その1つが「内蔵する単電池1個当たりの体積エネルギー密度が400Wh/L」となっています。昨今のモバイルバッテリーはこの条件を満たすものがほとんどなのですが、1.5Vリチウムイオンバッテリーに関しては体積エネルギー密度がPSEが掲げる条件にはなっておらず、PSEマークを表記する必要の無いものとなっています。
一応、筆者が確認している限りでは、XTARの大容量モデル XTAR 1.5V充電池 4150mWh 単3形がPSE対象となる体積エネルギー密度のリチウムイオンセルを搭載しており、実際にPSEマークも記載されている製品となっています。
とは言え、XTARのPSEマークに表記されている輸入事業者と思われる企業名に関しては少し怪しい印象も受けるので、過信しすぎるのも良くないかもしれません。
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正直、国内代理店による正規販売を待ちたい製品
1.5Vリチウムイオンバッテリーに関しては、諸手を挙げて称賛できる製品とは言えないものの、使う所を適切に選べば悪くない製品です。
充電池の用途としてはエネループを始めとするニッケル水素電池で事足りてしまうことも多いのですが、専用充電器が必要であったり、モータ駆動の製品では心なしか力不足を感じてしまうことも多いので、乾電池と同等の性能が発揮できて手軽に充電できるバッテリーの点で評価できる製品です。
ネックとしては、リチウムイオンバッテリー製品でありながら出自不明な輸入事業者の製品しか無い点と、適切な処分方法が存在しておらず将来的に廃棄に確実に困ってしまう点です。
こういう諸問題を解決してくれる方法として、JRBCに加入している出自がはっきりしている企業による正規販売が望ましいと思っているのですが、中国企業としては日本に代理店を置かなくても販売できるプラットフォームがあるためか、適切な形での正規販売を行うつもりは無いのかもしれません。
一応、オーム電機は18650型のUSB充電式リチウムイオンバッテリーを販売しているので、18650サイズではなく普通の単三電池サイズも取り扱ってくれないかなと思っています。