電動工具と言えばインパクトドライバーやドリルなどプロ向けの工具のイメージが強い製品ですが、近年のDIYブームや電動工具のラインナップ増加によって、一般家庭にも電動工具が普及が進んでいます。
低価格な予備バッテリーとして人気を集めているのが「互換バッテリー」です。互換バッテリーとは、純正メーカー以外の第三社メーカーから販売されているバッテリーで、純正品と同じように使用できて低価格なのが特徴です。
しかし、互換バッテリーによる事故はここ数年で増加し、動画配信者による事故の発生などで大きく注目されています。
本記事では、互換バッテリーがなぜ危ないのか・技術的な問題点・現行の法制度上の課題・互換バッテリーの事故の実態、などを独自の調査と開示されている資料から解説します。
目次
広まる互換バッテリーの発火事故
ここ最近、「互換バッテリー」による発火事故が注目されています。
互換バッテリーとは純正メーカー以外の第三社メーカーから販売されているバッテリーで、純正品と同じように使用できて低価格で販売されているため、人気の高い予備バッテリーとして注目を集めています。
ここ数年、互換バッテリーの事故は増加傾向にあり、最近ではダイソンの充電式掃除機の互換バッテリーが発火する事故が多発し経済産業省が使用中止を呼び掛ける1事態にも発展しました。
最近では電動工具用の互換バッテリーの事故も増えていて、有名動画配信者が互換バッテリーの発火で倉庫を焼失するなど、互換バッテリーの危険性が広まりつつあります。
当サイトでも数年前から互換バッテリーの実態について調査・検証を行っていましたが、本記事ではここまでの一区切りとして、以下の流れで互換バッテリーの実態・問題点、互換バッテリーの問題点について解説します。
- リチウムイオンセルの問題
- 互換保護回路の問題
- 販売体制・輸入製品としての問題
「バッテリーセル」の問題
互換バッテリーで最初に挙げられる問題が、バッテリー容量や出力性能を担う「バッテリーセル」の問題です。
純正品に対して安い価格で販売されているの互換バッテリーですが、ほとんどの互換バッテリーで「6.0Ah」と記載していますが実際には「4.0Ah」以下の容量しかなく容量を詐称している製品です。
さらに、互換バッテリーは容量詐称以外にも電動工具・電動掃除機に適合していないバッテリーセルを使用している問題があります。
急速充電に対応しないバッテリーセルを搭載している
互換バッテリーは「電動工具に適していない」バッテリーセルを搭載しています。
リチウムイオンバッテリーと一括りに言っても、用途によってさまざまな種類があり、電動工具用バッテリーではハンディライトのような低消費電力の機器から丸ノコ・グラインダなどの数分で放電する製品に対応できる広い放電レートを満たす必要があります。さらに満充電まで1時間以下の超急速充電にも対応できる高い充電電流を満たす必要があり、純正バッテリーでは高性能なバッテリーセルが採用されています。
しかし、互換バッテリーのセルは低スペック仕様・低価格なバッテリーセルを採用しているため、電動工具に使用できるような大電流放電や急速充電に対応できません。
特に急速充電に対応していないセルは急速充電できるセルと内部構造が異なるため、リチウムイオンバッテリーを急速充電するのは好ましいものではありません。
このようなバッテリーで急速充電を行うと、バッテリー内部でリチウム金属(Li)が析出して堆積する「リチウム・デンドライト」が発生して、バッテリーの内部構造が変化します。析出したリチウム金属は針金状に成長を続けると、バッテリーセルの内部短絡や熱暴走を引き起こし、発火に至る危険性が高くなります。
最新の急速充電器を非対応とする互換バッテリーも
純正品との互換を謳う互換バッテリーですが、大電流急速充電では故障率が高くなってしまうためか、実際の販売ページを見ると一部の互換バッテリーの販売ページではマキタの最新急速充電器「DC18RF(充電電流12A)」は対応不可と書かれるようになりました。
この時点で純正品とは違う仕様で、大電流の充放電に対応していないセルを搭載しているのは明らかなので避けた方が良いでしょう。
ちなみに販売ページに充電器の対応について記載されていなくても、メールで「互換バッテリー使う時に何か注意点ある?」と聞くと「マキタDC18RFは使わないでください」と回答が返ってきます。
100Wh以上バッテリーには輸送規制の問題がある
少し話は逸れますが、18V/6.0Ah(108Wh)のようなバッテリー容量100Whを超えるリチウムイオンバッテリーは「危険物」扱いになります。早い話、危険物輸送は書類や格納容器が必要で、航空輸送・海上輸送共に危険物輸送を行うだけで相当のコストと手間が発生します。
海上輸送では「少量危険物」扱いで一部規制を免除する方法もありますが、それを満たすような発送手段を中国互換バッテリーメーカーが用意できるかも疑問です。
互換バッテリメーカーが6.0Ahバッテリーと偽装して販売を続けているのは、この危険物輸送の問題も関係していると考えられます。
ちなみに、3並列構成の9.0Ahバッテリーでは、2.0Ah容量のセル3本並列で6.0Ahになってしまいますが、実容量は4.5Ah前後で1.5Ahのセルが3並列で使われているようです2。コストパフォーマンスは6.0Ahの互換バッテリーより悪いので騙されないようにしましょう。
「構造」の問題
バッテリーセルの問題を超える決定的な欠陥こそ、互換バッテリーの「構造」の問題です。
ここでの説明するのは、互換バッテリーで言われているような「アタリ」「ハズレ」の認識を超える本質的な欠陥で、互換バッテリーを最も危険な製品と断言している部分でもあります。
ここでの構造の問題とは「保護回路」や「バッテリー構造」など、バッテリーセルを取り巻く安全構造についてです。
過充電リスクを排除しきれていない互換バッテリー回路
電動工具用のバッテリーはバッテリーセル監視・充放電保護・通信/ログ機能などさまざまな機能を搭載する保護回路を搭載しています。保護回路は、電気用品安全法や各国の規制を満たす回路設計が行われていて、安全に安全を重ねた保護回路が搭載されています。
互換バッテリーに搭載されている保護回路は、リチウムイオンバッテリーの保護に必要な基本的な機能が不足していて、バッテリーのトラブルや不良を正しく検知できません。その最も代表的なものが下記の図に表すリチウムイオンバッテリーの異常検知回路です。
電動工具のバッテリーは直列バッテリー構成になっているのが一般的ですが、バッテリー間の電圧バランスが崩れてしまうと過充電や過放電によって危険な状態になります。そのため直接に接続されている全てのバッテリーセル電圧を測定して、セルのバランス崩れを確実に検知する保護回路構成にするの方式が取られています。
一方の互換バッテリーは、1つのセルの電圧と全体電圧の2つしか電圧測定を行っていません。この方法でもある程度のセルアンバランス状態は検知できますが、セル電圧の崩れ方によってはセルの異常を保護ICが検知できない場合もあり、完璧な保護回路とは言えません。
リチウムイオンバッテリー機器は電気用品安全法の「特定電気用品以外の電気用品」に指定され、丸形のPSEマークの記載が義務付けられている製品です。
しかし、実際の電動工具用のバッテリーでは電気用品安全法で指摘しているような基本設計のほかにも、より安全性の高い保護構造も必要です。屋外で使用され粉じん・水・振動・衝撃など過酷な環境下で使用する電動工具用バッテリー保護安全構造は、電動工具メーカーだけが持つ独自のノウハウです。
また、筆者が見た限りでは互換バッテリーの保護回路にはいくつもの不安な点がありました。
- 保護回路がコーティングされていない
- バッテリー温度検知のサーミスタの位置がおかしい
- 保護用のパワートランジスタが搭載されていない
バッテリーケースや製造過程にも問題あり
バッテリーの安全性を確保する構造は回路基板だけではありません、バッテリーを保持するバッテリーケースや接点ターミナルの構造も重要です。
例えば、実際に互換バッテリーを使用したことがある方であれば、装着が固い互換バッテリーに当たったことがあると思います。これはターミナルの接点の寸法が出ておらず、工具装着時にターミナルと上手く嵌合しないため装着が固くなってしまうわけですが、このような接点では接触が不安定になるので接点が発熱する危険性があります。また無理な取り付けや互換バッテリーの接点圧の違いによって、工具側の接点が早期摩耗してしまう可能性もあります。
実際に筆者が購入した互換バッテリーを検証したところ、互換バッテリーメーカー毎の差異が大きく、比較的良い構造のバッテリーもあれば、危険と評価できる互換バッテリーもありました。これらの危ない構造のバッテリーは、ハンマなどの振動の大きい電動工具を使用した場合、加圧や衝撃によるセルの内部短絡を起こす可能性があります。
- バッテリーセルの保持がタブのみ
- ケースがバッテリーセルに干渉している
- スポット溶接が汚い
- 配線の溶接が不安定
ユーザー側の良否判断の限界
前項のバッテリーセルの問題に関しては容量を測定したりデータシートを探せば良否は判断できますが、保護回路や安全構造はより高い専門性が求められる領域です。この指摘は筆者が気になった部分のほんの一部なので、より詳しい有識者による検証を行えばさらに多くの問題が出てくるでしょう。
ここで問題となるのが、保護構造に関する具体的な検証を行うためには、「破壊試験まで行い本当に保護が有効なのかを検証しなければならない」ことです。市販されている製品に対して、消費者がそこまでの検証を行うことは本末転倒な事態です。
仮にそこまでの試験を行い、互換バッテリーの信頼性を確認したところで、次に購入した同じメーカーの互換バッテリーの中身が検証を行ったバッテリーと同一製品であるかの保証もありません。
また純正品相当の互換バッテリーが存在したとしても、それが本当に純正品相当なのか証明する方法もありません。表記されている保護構造や仕様が「正しいか・機能しているか」は企業に対しての信頼でしか判断できません。
これらの問題は、次の「販売体制・輸入品」の問題に繋がります。
「販売体制・輸入品」の問題
仮に純正品相当のセルと保護回路を搭載した互換バッテリーがあったとしても、互換バッテリーを推奨できない根本的な理由が「販売体制」の問題です。
ここでは販売体制と称していますが、輸入品の問題や企業体制や保証体制などを含めた互換バッテリーを販売している会社・組織・法律の問題点について言及しています。
最近の充電式電動工具は用途も広がり一般家庭で使用するユーザーも増え、家電製品のようなイメージが強くなっていますが、本来の電動工具は「業務用の産業製品」です。業務用の製品にはハイグレードなスペックが求められ、製造・販売するメーカーにも万全の品質保証体制とそれを維持する健全な企業体質が求められます。
電動工具を使用する大部分のユーザーは建設業に関わるプロユーザーです。充電式の電動工具は現場に無くてはならない製品で、住宅の建設から大手ゼネコンの巨大商業ビルなどさまざまな現場でリチウムイオンバッテリーが使用されています。
もし、大きな現場でバッテリーが原因の火災が起きればどうなってしまうでしょうか。大勢の作業者が危険に晒され、工期は伸び、資材の焼失が発生し、数億円の損失に対する賠償責任が発生します。
メーカーは製品事故による多額の賠償とブランドイメージの悪化を避けるため、徹底的な設計検証を行いセル・回路・保護構造など考えられる全てのリスクに対して試験・検証を行っています。さらに万が一の事故が発生した場合でも、企業が責任を負ってリコールが実施できる企業体制を持ち、生産物賠償責任保険(PL保険)によって保証が行える体制を備えています。
互換バッテリーの事故が発生した時の賠償責任はどうなるのか
一般的に、製品を起因とする製品事故が発生した場合、消費者庁などから製造メーカーに製品事故が通達され、メーカーによる事故原因の解析や製造物責任法(PL法)に基づき損害の賠償などが行われます。
海外から製品を購入する場合、メーカーの代わりに「海外製造者に変わって責任を負う代位責任」で輸入者が全責任を負う形になります。輸入者の扱いは状況によって変わり、海外から直送されれば購入者自身が輸入者になり、商社から発送されたなら商社が輸入者になります
仮に発火による建物火災や人身災害が発生した場合、事故調査や賠償責任は輸入者を介して製造元に求めることができますが、個人輸入代行や通関代行など名目的な輸入者の場合は責任を問われない場合もあります。
実際に互換バッテリーに対する事故は多数発生していますが、独立行政法人 製品評価技術基盤機構(以下nite)による報告書の事故報告の再発防止措置の項目では「輸入事業者が不明であるため、措置が取れなかった」と報告しています。
互換バッテリーは、購入した時の輸入者との連絡どころか製造者への事故報告すらまともに行われておらず、ユーザー側が著しく不利になる形で販売されている製品です。
純正バッテリーであれば、メーカーや公共機関が連携して発火事故原因を調査し、責任の所在と調査結果報告が当事者に開示されます。しかし互換バッテリーでは、発火事故が起きても中国互換バッテリーメーカーが再発防止策や賠償責任を遂行した例が無く、過去全ての事故案件が泣き寝入りになっています。
事実、2019年のダイソン製サイクロンクリーナ―の互換バッテリーを販売していた「SHENZHEN OLLOP TECHNOLOGY社製バッテリーパック」の発火事故では、経済産業省によるニュースリリースまで発行される事態に発展しましたが、リコールや返金・回収の対応は取られずに注意喚起に留まりました。
もし、互換バッテリーを原因とする火災が発生して多大な損失が発生しても、互換バッテリーメーカーや輸入者に賠償責任を負わせるのは至難の業でしょう。
製品事故を隠し続ける互換バッテリー業者
全ての互換バッテリー販売店に対して断言するわけではありませんが、互換バッテリーを取り扱う大多数のメーカーがモノを売る販売店として倫理に欠ける販売活動を行っています。
互換バッテリーは主にネット通販サイトで販売されていますが、発火した時の写真がレビューページに張られると、販売ページごと削除し、新たな販売ページを再び立ち上げる手法で発火事故の発生を隠蔽しています。
この方法は低評価レビューの割合が多くなった時にも行われていて、互換バッテリーの販売ページは概ね高評価レビューが多くなっています。
互換バッテリーではPSEマークが機能していない
互換バッテリーの販売ページでは「PSE認証取得」と表記して書類まで記載しているところもありますが、PSEマークは電気用品安全法の基準適応義務を果たした証として事業者が自主的に表示できるものであって、国や公共機関から取得するものではありません3。
互換バッテリー販売ページの「認証」の表記は正しい表現ではなく、むしろ大半の互換バッテリーメーカーは電気用品安全法とPSEマークの運用について正しく理解しておらず、電気用品安全法の設計指針や準じた試験も行っていないと判断されます。
さらに、電気用品安全上では丸形のPSEマークに加え、「モバイルバッテリーの製造又は輸入の事業を行う届出事業者名(原則、PSEマークに近接して表示)、定格電圧、及び定格容量の表示が必要4」と定めていますが、輸入事業者まで記載している互換バッテリーほとんどありません。
販売ページに添付されているスキャンされた書類も「リチウムイオンバッテリーの輸入販売」の事業者登録を省庁に通達した資料を記載しているだけで、製品の審査や認定に関する書類ではありません。
基本的に、互換バッテリー業者のPSE表記はほとんどが意味を成しておらず、危険な製品として販売されていると考えられます。
日本法人の設立か国内正規代理店販売が信頼の最低限ライン
先ほども述べた通り、電動工具は本来「業務用の産業製品」です。特にプロ向けの電動工具バッテリーは扱うエネルギー量が多く、一度事故が起きると私財の損失や人身災害など大きな被害に発展しやすい製品です。
1年間無料で代品が送られてくる互換バッテリーの保障は、一見するとしっかりした保証体制にも見えますが、元々の製品が不良品であり、保証と称して発火リスクのある製品を送り続けること自体、不誠実です。
個人輸入や通関代理人による販売形態は、大きなトラブルの発生時に責任の所在が曖昧になりやすく、有事の場合は互換バッテリー販売店側が逃げやすいのでユーザー側が著しく不利な状態にあります。
電動工具のような産業製品を購入する時の最低限のラインとしては「日本法人の設立」か「国内正規代理店」による販売が必須と考えています。
互換バッテリーの事故統計データ
niteでは互換バッテリーによる事故データを発信しています。5
これまではノートパソコンの互換バッテリーが大半を占めていましたが、2018年以降は電動工具や充電式電気掃除機の製品事故が多発しています。2019年の充電式電気掃除機の事故はSHENZHEN OLLOP TECHNOLOGY社製バッテリーパックによる事故1が大きく影響しています。
互換バッテリーを買うなら初めから家庭用シリーズを
互換バッテリーが市場で支持される最大の理由こそ、純正品に対して低価格で販売されているためです。しかし、ここまで説明した通り、電動工具メーカーの互換バッテリーは保護機能の不全や企業信頼の問題もあるため、購入を推奨できるような製品ではありません。
そこで、互換バッテリーの代わりにオススメしているのが、DIY工具ブランドやプライベートブランドの家庭向け電動工具シリーズです。
一昔前の充電式電動工具は、共通バッテリーのシリーズ展開がされていませんでしたが、現在ではDIY向けの低価格電動工具シリーズでもリチウムイオンバッテリーの搭載が進み、さまざまな電動工具を使用できるようになっています。
国内トップブランドのマキタほどの製品ラインナップはありませんが、工具本体も安く、予備バッテリーも入手しやすい価格帯なので、軽い作業やDIYであれば、家庭向け電動工具シリーズをおすすめします。
まとめ|自己責任では済まない発火事故、新たな規制検討も進む
ここまで、互換バッテリーの問題について長々と説明してきましたが、まとめると下記の3点になります。
- 互換バッテリーに使われている部品は電動工具に適していない
- ユーザー側に過失がない常識的な使用環境下であっても、致命的な製品事故を起こす可能性がある
- 製造元・販売者・輸入者の責任の所在が曖昧で、有事の際は全てユーザー責任になる
当サイトでは比較的早い段階から電動工具用互換バッテリーの検証を始め、さまざまな問題点を指摘していましたが、ここ最近では官公庁による警鐘活動も進み、互換バッテリーの危険性は広く認知されるようになりました。
しかし、通販サイトでは依然互換バッテリーの販売が続けられていて、純正品を見つけるのに苦労してしまうほど互換バッテリーの販売ページで溢れています。
筆者自身としては、互換バッテリーそのものは低価格なバッテリーをユーザーに提供するもので、ユーザーにとっての選択肢を増やす有益で魅力的な製品だと考えています。仮に互換バッテリーを使った時の過失や事故があったとしても、せいぜい互換バッテリーや工具本体が壊れてしまう程度の自己責任であるならば全く問題ないと思います。
しかし電動工具互換バッテリーの実態は、万が一の事故時にユーザーを守る法的な仕組みがなく、ユーザー本人およびその周囲を危険な状況に晒す自己責任の範疇を超えた製品です。
現状では互換バッテリーの輸入や販売を規制する法規制は存在せず、危険な互換バッテリーが野放しで販売されている状態が続いています。経済産業省では互換バッテリーに対する対応策の調査検討を進めていますが、新たな法規制が施行されるまではユーザー側が互換バッテリーを使用しない・購入しないなどの自衛活動が必要になります。
互換バッテリーの安さに魅力を感じてしまったり、レビューから信頼できる互換バッテリーと判断して購入してしまう方も多いと思いますが、人命や家財・周囲への影響など、互換バッテリーの危険性についてもう一度考えてもらえれば幸いです。
おまけ
上の項目に入りきらなかった内容について補足、互換製品の説明など。
純正バッテリーは絶対に事故が起きない?
ここまで互換バッテリーの問題点について説明してきましたが、純正バッテリーは事故が絶対に起きないバッテリーなんでしょうか。
結論だけ言えば、純正品のバッテリーであっても発火事故を起こす可能性はあります。
リチウムイオンバッテリーはニカドやニッケル水素と異なり、使い方を誤ると簡単に発火してしまうバッテリーで、事故が起きた時の影響も拡大しやすい傾向にあります。そのため、メーカーは常識的な使用の範囲内で事故が起こらないよう何重にも対抗策を講じ安全性を高めています。
互換バッテリーと違い、純正品が高い安全性を備えていると断言できるのは、設計的な過失を取り除き使用上のリスクを十分許容できるレベルまで排除している点にあります。
ただしこれは常識的な範囲内に収まる使用の話で、「高所からの落下」「釘打ち」「切断」「過度の水濡れ」のような、ユーザーの使い方に明らかな問題があり、製品本体に大きなダメージを与えたことによる原因の事故に対しての安全性を保障するものではありません。
ユーザーの使い方に問題があったと判断される事故に対しては、ユーザー側の過失になり不適切な使用が原因と判断されます。
再生(リサイクル)バッテリーはどうなのか
電動工具用バッテリーには寿命・劣化したバッテリーからセルを取り出して新たなセルに交換するリサイクルバッテリーを行っている企業もあります。
このサービスは保護回路をそのまま使いまわして国内企業による交換作業が行われるので、良さそうなサービスにも見えますが、2020年現在の電動工具用バッテリーの事情を考えるとあまり有効なサービスではありません。
理由はいくつかありますが、代表的なものを挙げると下記のような問題があります。
- 電動工具用の高容量セルの交換に対応していない
バッテリーセルの交換サービスは3.0Ahや4.0Ahなどの古いバッテリーしか対応しておらず、6.0Ahバッテリーや36Vバッテリーなどの最新のバッテリーセルを搭載するバッテリーの交換は行っていません。電動工具用バッテリーセルの調達が難しく、交換するセル自体用意できないためと推測されます。 - サービス料が高く、新品買い替えと大きな差がない
リサイクルバッテリー最大の欠点は、リサイクルサービス料が純正バッテリーに大きな差がないことです。リサイクルに出すのであれば、新品に買い替えた方が納期も速く確実です。
リサイクルバッテリーは、ニッカド電池のような古い電池に対しては有効なサービスですが、最新のバッテリーに関してはメリットがなくコスト的な利点もほとんどありません。
互換バッテリーは絶対に発火する?
ここまで互換バッテリーの危険性を説明してきましたが、互換バッテリーは100%発火に至るわけではありません。
実際に大電流急速充電を行ったり過放電状態になっても、内部セル微小短絡時の大電流による短絡状態の解消や安全弁の電解液放出などの働きによって、発火に至ることはほとんどありません。また互換回路の保護が機能不足と言っても、ほとんどの場合で保護が働くと考えています。ただし、過充電による発火はほぼ間違いなく発生します。
互換バッテリーは発火や製品事故の可能性をある程度取り払ってる程度に過ぎず、純正バッテリーとは比較にならないほどの危険性が残っているバッテリーです。
直感的な数字ですが、互換バッテリー3,000~5,000個のうち1,2個は普通に使っていても発火する可能性があると考えた方が良いでしょう。一般販売されている製品としては洒落にならない確率です。
互換バッテリーは互換充電器で充電すればいいんじゃない?
最近は互換充電器も販売されていて、LCDパネルによる充電状態の表示や超コンパクトサイズの充電器など、純正品には搭載していない機能を搭載しています。
互換充電器は充電電流が低いので、互換バッテリー向けではありますが、互換充電器はバッテリー冷却用のファンが未搭載、プレチャージによるバッテリー状態の判別機能未搭載、などの問題もあるのであまりおすすめは出来ません。
国内商社・販売店を通して販売している互換バッテリー
稀に国内商社を通している互換バッテリーもあります。この場合は3つ目の懸念の「販売運営体制」を解決しているので、万が一の事故が起きても製品側の過失として賠償請求できる可能性も高くなります。
ただし、本当に商社・販売店を通しているかは不明で、通関代行など名目的な輸入者の場合だと責任を問われないケースもあるので、商社への問い合わせた方が良いでしょう。
ただし、現場火災ともなれば建物・設備等含め多大な損失が発生するケースも珍しくないため、相手方の責任能力を超えてしまう懸念もあります。
純正バッテリーを互換基板で修理するのはOK?
互換バッテリーと同じくらい危ないのが互換基板。製品レビューを見ると「壊れたバッテリーの基板を交換して修理した」なんて書き込みもあります。
修理する前の故障解析を行う場合、「基板の故障によって使えなくなった」のか「バッテリー異常を検知して使えないようにした」のかを切り分ける必要があります。ただし、原因が分かったところでバッテリーを修理する方法はありません。
先述している通り、互換基板は保護機能が不足しているので、互換基板を使用すること自体高リスクです。例えるなら、「ブレーキの壊れた車からブレーキを取り外して動くようにした」と言っているものです
ブログや動画のレビューで「互換バッテリーは使える」って言ってるけど
正確な調査は行っていませんが、少し古いブログに書かれている4.0Ah世代あたりの互換バッテリーは純正品と同等のセルを搭載していた時期もあったようです。充電器も今ほど大電流急速充電ではなかったので、セルによる発火リスクは低かったのかもしれません。
互換バッテリーの寿命や発火リスクは、ユーザーの使い方にも大きく左右されるので、使い方によっては案外使えてしまうこともあります。ただし、FTA上のリスクを処理しきれてないので製品としては欠陥品です。
ちなみに、動画配信者などがレビューしているバッテリーが互換バッテリーメーカーの提供品の場合は「チャンピオンサンプル」6を疑います。
互換バッテリーを廃棄したい
リチウムイオンバッテリーなどの二次電池は事業者が回収しています。純正バッテリーなら電動工具メーカーが回収してくれますが、互換バッテリーの場合はリサイクル団体の回収を活用しましょう。
JBRC加盟事業者の店舗では回収ボックスが設置されているので互換バッテリーも回収してもらえます。設置場所についてはJBRCサイトから検索。
バッテリーが発火したときはどうすればいい?
バッテリーセルを束ねている組電池が発火すると、全てのセルに熱が伝わって残りのセルも発火・破裂するまで止まりません。セルが破裂すると10mくらい飛散することもあるので、バッテリーの発火が落ち着くまでは消火より身の安全を優先します。(動画参考)
破裂が終わったら消火します。消火器が無い場合は大量の水で消化します。発火していないバッテリーが残ってしまった場合は余熱で再び発火する場合もあるので注意。
その後に消防へ連絡して状況確認。消防を呼ぶほどの被害が無ければ消費者センターなどに製品事故の発生を通報します。発火したバッテリーはできるだけ事故終息直後の状態で保管しておくと、メーカーの故障解析の役に立ちます。発火した現場の状況写真なども撮影しておくと良いでしょう。
参考文献・資料
独立行政法人 製品評価技術基盤機構 NITE
経済産業省
- 2019年の製品安全に関する動向 – LIB搭載機器の安全性|経済産業省 産業保安グループ製品安全課
- インターネット取引における製品安全の確保|経済産業省 産業保安グループ製品安全課
- 電気用品安全法 製造・輸入事業者ガイド|経済産業省
- リチウムイオン蓄電池の規制対象化に関するFAQ|経済産業省
リチウムイオンバッテリー規格関連資料
- 電気用品安全法の別表第九 リチウムイオン蓄電池|経済産業省
- JIS C8711 ポータブル機器用リチウム二次電池|日本産業標準調査会
- JIS C8712 密閉形小形二次電池の安全性|日本産業標準調査会
- JIS C8713 密閉形小形二次電池の機械的試験|日本産業標準調査会
- JIS C8714 携帯電子機器用リチウムイオン蓄電池の単電池及び組電池の安全性試験|日本産業標準調査会
- UL 1642 リチウム一次および二次電池のセルとパックの安全規格
- UL 2595 電動工具用
貿易・輸入
- 輸入品の品質欠陥に起因する人的・財的損害が発生した際の製造物責任者|日本貿易振興機構
- 家電製品の輸入手続き:日本|日本貿易振興機構
- IATA – Lithium Batteries
- 危険物の海上運送等に係る安全対策|国土交通省
その他資料
- トランジスタ技術2016年10月号 – リチウム・イオン蓄電池の基礎と充電の作法|CQ出版
- データに学ぶ Liイオン電池の充放電技術 – 江田信夫|CQ出版
- 第12回 リチウムイオン電池保護ICってなに?|Club-Z
- リチウムイオン電池保護IC|ABLIC
- Powering AllConnected Things(広報パンフレット)|SAMSUNG SDI
- 平成30年度産業保安等技術基準策定研究開発等事業(リチウムイオン蓄電池搭載電気用品の安全基準に関する調査)調査報告書|みずほ情報総研株式会社
- 令和元年度産業保安等技術基準策定研究開発等事業(リチウムイオン蓄電池搭載電気製品の安全基準検討に係る調査)報告書|一般財団法人 日本品質保証機構
- 新型コロナで被害拡大 追跡!ネット通販の闇 – NHK クローズアップ現代+
- 【閲覧注意】爆発したバッテリーが原因で火災が起こり僕の趣味を全部失いました|SKYtomo|YouTube
脚注
- ネットモールで充電式掃除機用として販売されたSHENZHEN OLLOP TECHNOLOGY社製バッテリーパックの使用を中止してください
- 【電動工具】互換バッテリーの中身をだしたらヤバかった 容量偽装 全部で4つの互換バッテリーを分解 makita 18v BL1860B マキタ|たかりとDIYチャンネル|YouTube
- 1.1.2 特定電気用品と特定電気用品以外の電気用品について – (4)PSEマーク表示 (法第10条)|電気用品安全法 法令業務実施手引書
- モバイルバッテリーに関するFAQ – Q.16 PSEマーク以外にも、モバイルバッテリーに表示すべき事項があるのか?|経済産業省
- 急増!非純正リチウムイオンバッテリーの事故|nite
- 量産のアベレージを超えた品質の製品、または別ルートで手配した超優良品を検品で提出すること。国外工場設立全盛期には世界中のメーカーがチャンピオンサンプルの存在に悲鳴を上げた。