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2020年8月10日

電動工具の互換バッテリー容量を測定。容量・性能共に純正品には適わず

電動工具の互換バッテリー容量を測定。容量・性能共に純正品には適わず

電動工具の互換バッテリーは6.0Ahの表記で販売されていますが、実際の容量はそれより少なく4.0Ah程度のセルが搭載されています。今回は、実際に電子負荷装置を使用した互換バッテリーの容量測定と、純正品との性能差を比較します。

  • 互換バッテリーの容量測定と出力性能を検証
  • 互換バッテリーの容量はカタログスペックよりも少ない
  • 出力性能が約10%ほど低い
  • 過放電保護回路が搭載されていない

セル品名では4.0Ah相当の容量、実容量は?

近年、マキタなどの電動工具メーカーが販売する充電式製品が話題になっていますが、それに伴い、通販サイトで販売されている電動工具用の互換バッテリーが隠れた人気商品として話題になっています。

純正品よりも価格が安く、容量が同じで買いやすい予備バッテリーとして注目されていますが、実際は容量詐称・低品質セルの搭載・発火事故の多発などトラブルも多い製品で、事故の絶えないため各メーカー・団体が警鐘を続けています。

当サイトでは、過去数回にわたり互換バッテリーの低容量セルの搭載・保護回路について検証を行ってきましたが、今回の検証では、バッテリーの性能を実際に測定できる電子負荷装置を使用して、互換バッテリーの性能を客観的・定量的な分析を行います。

バッテリー容量の測定方法

バッテリー容量は、バッテリーに負荷を接続して放電時間の計測によって算出できます。

バッテリー容量を表すAh(アンペア時)は、1Aの電流を1時間[h]流した時の単位と定義されています。この場合、6.0A放電を1時間持続、または1.0A放電を6時間持続できれば6.0Ahと算出できます。

この測定方法を行うには、常に定電流で放電できる負荷が必要になりますが、バッテリーは放電が進むと電圧が下がってしまいます、常に同じ電流値になるよう常時電流値を調整しなければなりません。そのため、電流調整を自動化できる電子負荷装置を使用して定電流放電を行います。

今回使用する電子負荷装置は3.0Aまでしか放電できないので、3.0Aの放電電流を基準として放電時間を計算して放電容量を算出します。

6.0Ahのバッテリーを3.0Aで放電した場合、放電時間は2時間になるので3.0A×2hとなり、バッテリー容量は6.0Ahと算出できます。

電子負荷とは

負荷抵抗を任意に設定できるようにした負荷装置。可変抵抗器の代わりに半導体負荷を使用しているため、負荷電流を一定にコントロールし任意の負荷条件での評価が可能。電池・電源評価に使用する。

バッテリー容量測定の条件

バッテリー容量の測定に使用する機器と放電条件を下記に記します。容量測定は電流時[Ah]ですが、放電完了の判断は電圧値で行います。

放電終止電圧は設計側が比較的自由に設定できますが、電動工具で幅広く使用されている3.0AhセルSAMSUNG SDI INR18650 30Qのデータシートに記載されている単セル2.5Vを放電終止電圧とします。

  • 充電器 マキタDC18RC
  • 電子負荷 自作の電子負荷装置
  • 測定値 バッテリー電圧
  • 電圧測定器 Fluke 289(1秒毎にプロット)
  • バッテリー放電条件
    • 純正充電器で充電完了直後のバッテリーを放電
    • 放電電流 3.0A
    • 放電終止電圧 12.5V(単セル2.5V)

なお、今回の容量測定・放電はバッテリー単体の放電であり、製品装着時の放電電流測定ではない点ご留意下さい。

容量測定に関しては、各1回しか測定していないためデータの信頼性については各自でご判断下さい。また、放電電流3.0Aの妥当性については、実際に使用する電動工具の放電電流はより高い電流値である点、電動工具に広く採用されている3.0AhハイレートセルSAMSUNG SDI INR18650 30Qのデータシートから、3.0A放電では実容量測定に大きな影響を与えない点を考慮すると、電動工具に使用されているセルであれば3.0A放電での容量測定として問題ないものと解釈しています。

今回のバッテリーが表記スペック通りであれば、3.0A放電は0.5Cに当たるため、比較的低負荷環境下での放電条件と考えられます。


参考:SAMSUNG SDI SPECIFICATION OF PRODUCT INR18650-30Q

互換バッテリー(2社)+純正バッテリー 測定結果

検証用に購入した互換バッテリー2社の放電容量とマキタ純正品BL1850の放電電圧波形を比較したのが、上記のグラフです。

放電自体は5Vの過放電領域に入るまで続けていますが、放電容量の計算は12.5Vに達した時点の経過時間で算出します。それでは、今回の容量測定の要所について解説します。

容量は6.0Ahに届かず、景品表示法「優良誤認表示」

  • D社製BL1860互換バッテリー:放電時間 1h4m [3A×1.07h=3.2Ah]
  • M社製BL1860互換バッテリー:放電時間 1h15m [3A×1.25h=3.7Ah]
  • マキタ純正BL1850:放電時間 1h35m [3A×1.58h=4.7Ah]

以前の互換バッテリー分解検証から「1セル2.0Ahのセルを搭載しているため、バッテリー容量は4.0Ah相当の容量の可能性が高い」と指摘していましたが、実測でもバッテリー容量が4.0Ahしかないのを確認できました。

通販サイトの互換バッテリー販売ページには「6.0」「6.0Ah」「6000mAh」の表記が見られますが、セル単位の放電レート換算0.5Cの条件下で、実測値4.0Ah以下の容量でしか測定できなかった点、同じ放電条件で純正バッテリーBL1850が公称容量5.0Ahに対し4.7Ahと概ねスペック通りの容量を測定できた点から、記載された容量と実容量が異なる互換バッテリーは景品表示法の「優良誤認表示」に該当する可能性が高いと考えられます。

純正品比で出力性能が約10%ほど低い

放電開始直後から放電1時間までの電圧波形を拡大した図です。

マキタ純正バッテリーはリチウムイオンバッテリーの公称容量とする18Vで放電を開始していますが、互換バッテリーは約17Vで放電されています。出力性能として、約10%程の性能が低くなっています。

今回の放電条件の3.0A放電は電動工具の用途としては比較的緩い条件ですが、ここまでの電圧差が発生しているのは、電動工具に適したハイレート放電のセルを使用していない可能性が高いことを表しています。実際に電動工具を使用した場合はより顕著な差となって表れると予想されます。

過放電保護回路を搭載していない

今回の測定では放電終止電圧を12.5V時でバッテリー容量を算出していますが、マキタ純正バッテリーには大型のFETが搭載されており、そのFETの過放電保護の動作電圧を確かめるため5Vまで放電を行っています。

マキタ純正品は6V時点で保護回路の出力遮断が動作し、強制的に放電が停止されましたが、互換バッテリーは5V以下になっても放電が止まらず、リチウムイオンバッテリーを完全放電できる構造になっていました。

互換バッテリーの過放電保護が動作しない点については、電気用品安全法の別表第九 リチウムイオン蓄電池の基本設計(5)組電池への単電池組み込み「電池ブロックを直列接続する組電池にあっては、電池ブロックが同等の容量になるように単電池を組み込み、転極が起こらないようにすること。」に適合しません。今回検証に使用している互換バッテリーもPSEマークの付いた製品ですが、不適です。

純正品の遮断6Vはリチウムイオンバッテリーの放電終止電圧として低めの値ですが、工具本体側では概ね12Vより高い電圧値で本体動作が抑制される仕様であり、マキタ純正の製品を使用している場合であれば、この領域まで放電されることはないと考えられます。

また、遮断電圧は製品や回路基板の世代によって仕様が異なると考えられ、セルアンバランス時の単セル過放電や大電流放電・短絡時の保護など、さらにいくつかの放電遮断条件があるものと推測します。

転極とは

過放電が進行した深放電状態で起こる現象、電池の極性が反転する。負極の銅イオンの析出や電解液の分解などの不可逆的な劣化によって発生する。

非常に高リスクな電動工具バッテリーの現状

以前の記事では「急速充電を許容できないバッテリーセルを搭載」が問題点と指摘しましたが、今回の検証では過放電保護機能を搭載していないことも明らかになりました。

この点はリチウムイオンバッテリーの保護回路設計上、完全にアウトであり、互換バッテリーは擁護する余地の一切ない製品として判断するのに十分な結果です。

最近はYouTube動画での互換バッテリー検証動画も増えていますが、それらの動画を見る限り、過放電保護を搭載している保護回路を搭載している互換バッテリーは確認できていません。互換バッテリーの危険性が取り沙汰されて一年以上経ちますが、PSEに適合しないバッテリーをPSE合格品として販売されている現状は今なお続いています。

互換バッテリーは、不完全な保護回路とハイレート充放電に対応していないセルを搭載している機能不全な製品であり、いつ発火するかもわかりません。

例え優良品の互換バッテリーが販売されていたとしても、一般ユーザーによる検証・解析が限られている以上、互換バッテリーの購入は控えた方が良い製品と考えた方がよさそうです。

※本記事は互換バッテリーの容量測定を主たる目的にしており、比較として記載したマキタ純正品の解析を行う記事ではありません。また、本記事の技術的な内容に関して、マキタ株式会社及びマキタ取扱店へのお問い合わせはお控えください。

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