- 電動工具のバッテリーの過放電について解説
- バッテリー残量が無くなっても電源ボタンを押し続けると電力消費が続く
- 電力消費が続いてしまうと、バッテリーを過放電状態にして壊してしまう
目次
バッテリーを壊してしまう「過放電」とは
今まで普通に使用できていた電動工具用のバッテリーが、ある日突然充電できなくなって使えなくなってしまった、なんて経験がある方も多いのではないでしょうか。
バッテリーが故障にはさまざまな原因があり、製造不良や初期不良などメーカー側を起因とする理由などもありますが、中にはユーザー側の使い方が誤っていたために発生する故障もあります。
今回解説するのは「電動工具バッテリーの過放電故障」についてです。
バッテリーの過放電とは
電動工具に使われるリチウムイオンバッテリーは、使用できる電圧の範囲が厳しく指定されているバッテリーです。
その範囲は満充電状態で約4.2V・終止電圧3.0V前後と指定され、その範囲を超えて使用した場合、バッテリーが損傷し再充電ができなくなったり発火の原因になったりします。
その状態を回避するためリチウムイオンバッテリーを搭載する製品には、過充電・過放電状態にならないよう制御回路を搭載しています。
例えばマキタ40Vmaxバッテリーの場合、バッテリー残量が少なくなって特定の電圧を下回ると電動工具が動作しなくなり、バッテリー残量ランプを押したときにはバッテリー残量が空の状態を表す点滅状態になります。
バッテリー残量が無くなると過放電保護によって電動工具が動かなくなるので、バッテリーを取り外して再充電を行うと思います。しかし、ある動作を行うと過放電保護が上手く働かず、バッテリーを損傷してしまう可能性があります。
電源ボタン(トリガー)を入れたままにすると
過放電保護は上手く働かなくなる
過放電保護を働かなくしてしまう動作とは「電源ボタンを入れ続ける」ことです。
電動工具の場合であればトリガーを引き続けることや、家電製品のONボタンを押し続けることがこの行為に該当します。
その実例として、マキタ40Vmaxインパクト TD001Gのトリガーを引いた状態で固定して、過放電保護がどのように働くか見てみましょう。
バッテリー残量が空の状態で装着した時の過放電保護の動きが下の動画です。操作パネルのLEDは点灯しているものの、約1分ほど経過するとLEDが消灯するので過放電保護が働きます。
実際の消費電力を確認するために、ハウジングを開けて消費電力を確認してみましょう。
測定した結果、過放電保護が働く前は約15mA、1分経過して過放電保護が働いた後でも約5mAの電気が流れていることが分かりました。
その後も5分程度様子を見ていましたが、5mAの電流が止まることはありません。
6分の時点でトリガースイッチの固定を解いて、スイッチをOFF状態にすると電流が完全に遮断されて0mAになりました。
先程の測定結果から、トリガーを引いた状態を検出する回路の電流が4mA前後の電気が流れ、スイッチ検出回路の消費電力は50mW前後程度と推測されます。
この検証の結果、「バッテリー残量が空になって動かなくなっても、電源ボタンを入れ続けるとバッテリーの消費は続く」と言うことが分かりました。
実際にも起こりうるバッテリーの過放電損傷
今回の検証ではインパクトのトリガーをマジックテープで固定していますが、この現象と同じことは実際でも起こり得ます。
電動工具のコントローラの電源さえ入れば良いので、トリガーを全て引く必要はありません。また充電式家電製品でも電源スイッチを押し続ける場合でも同じ状態になります。
バッテリーを過放電状態で壊してしまう1例として、「現場の最終作業で丁度バッテリー残量がゼロになり、撤収作業中に何らかの状態でトリガーを引いた状態のまま工具箱に収納してしまった状態」を考えてみましょう。
もしこの状態で土日を挟むような長い期間放置した場合、消費電力は約5Whなるので残量が空のバッテリーなら致命的な過放電状態にまで進行してしまう場合があります。
バッテリー残量が少ない状態の取り扱いには要注意
一般的にバッテリーを長期保管する場合、バッテリー残量20~50%の状態で涼しい状態で保管するのが最良と言われています。しかしそれはあくまでもバッテリーセル単体で保管する時の理想で、保護回路や電動工具を装着した状態のバッテリーは、使用方法の誤りによって過放電状態まで進行してしまう場合があります。
もちろん、普通に使った時の過放電対策は行われているものの、スイッチ検出回路の動作原理上の問題で対策が難しいケースもあります。
電動工具バッテリーを使う場合、バッテリー残量が無くなったら素早く再充電して、満充電の状態を維持しておくのが無難です。