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2024年1月27日

HiKOKI 今後の新製品・販売候補品をチェック【2022年冬編】

HiKOKI 今後の新製品・販売候補品をチェック【2022年冬編】

本記事は工機ホールディングス株式会社及び関連会社が保有する産業財産権の情報を解説・紹介するものであり、新製品発売や経営動向を保証するものではありません。工機ホールディングス株式会社及びHiKOKI(ハイコーキ)取扱店へのお問い合わせはお控えください。

ワンハンドサイズのスライド10.8Vセーバソー

スライド10.8Vバッテリーで動作する片手サイズのコードレスセーバソーの意匠図です。

コンセプトとしては京セラ DRJ11XRと同じコンセプトの製品であり、現場の解体や樹木の切り出しなど、軽作業での用途が想定されます。

取り回しの良いスライド10.8Vシリーズのセーバソーではありますが、コンセプトが近いコードレスセーバソー CR12DAとの差別化をどのように図っていくのか気になる製品です。

スライド10.8V×2本挿入のコードレス電動工具

この意匠図はスライド10.8Vバッテリーを2本装着して並列で駆動する電動工具の図です。特許自体の内容はバッテリー2本装着の構造に関する特許です。

並列接続によって電流量を確保できるため、スライド10.8Vバッテリーでも18V製品以上の出力を得ることも可能になります。

とは言え、製品的なコンセプトとしてバッテリー2本挿しは元来、高出化への対応と重量サイズなどの諸問題を既存バッテリーの転用によって解決するためのアイデアであり、10.8V×2本程度の出力が、既存の18Vやマルチボルト36Vの使い勝手に勝るものになるとは思えません。

特許内で語られている「稼働時間を長くするための十分な電気容量が求められる」の背景に関しても、単純にマルチボルトバッテリーの製品を用いれば解決する話であり、そもそも、それを解決する本来の分野はバッテリーセルメーカーです。わざわざ工具メーカーが本特許のような製品を展開してまでバッテリーの稼働時間を増やす製品戦略的な意義は無いと考えています。

印象として、マルチボルトに変わる新しい商材を探そうとしながらも色々と迷走している工機HDの内情を察してしまう特許に思っています。正直なところ、この特許は企業の負担にしかならず、特許の死蔵を企業方針として推進しているようにしか見えません。

マルチボルトバッテリー×2本装着のハンマドリル

こちらもバッテリー2本装着に関する意匠図です。

特許内では、バッテリー2本並列装着に関するスイッチ切り替えや制御について記載されています。またアダプタやスイッチ構造で直並列を切り替えて72V動作とする構想もあるようです。

実使用的にバッテリーを並列構成で接続するメリットはそこまで大きいものではなく、普通に直列72V構成だけにした方が良いのですが、わざわざ並列構成の特許を組み込んで直並列切替構造にしたのは、マキタの18V×2本(80Vmax)シリーズのような接続方式の特許を突破できなかったためと予想しています。

また高出力バッテリー特有の問題ですが、並列接続時においては放電端子から充電される可能性もあり、不都合が発生する場合も多いため、その対策を特許として出願する形にしたものと推測されます。

ベクトル制御のACブラシレスモータ搭載グラインダ

この特許の中では、ベクトル制御のブラシレスモーターを搭載するACブラシレスグラインダが図示されています。

ベクトル制御とは、ブラシレスモータを駆動する手法の一つで、モーター電流に必要な回転磁界の方向と大きさを数学的な計算に基づいて制御する方式です。現行の電動工具向けブラシレスモータで広く採用される120度通電制御と異なり、ロータの検出に必要なホールセンサを不要にでき、省エネかつきめ細かなトルク制御が可能になる利点があります。

モータ制御の中でも最も高度なモーター制御となる技術ですが、ベクトル制御には高性能なマイコンが必要であり、低コスト化の需要と共通化が激しい電動工具への適用は難しく、それに見合うリターンも薄いことから採用が見送られ続けている技術でした。

ベクトル制御モータは、リチウムイオンバッテリーやブラシレスモータに続く2022年時点における電動工具最後の革新技術とも言える存在なのですが、ユーザーが手にした時の時の利点が分かりにくく技術的にも地味なので、待望の次世代ACブラシレスシリーズの広報的なアピールポイントとするにはパンチ不足が懸念されます。

ベクトル制御モータの回路ブロック図
工具市場では、2017年にマックスがコンプレッサにベクトル制御モータを採用している。
電動工具へのベクトル制御モーターは個人的に強い衝撃を受けたのだが、営業・販売店・ユーザー共にあまり強い関心は示さなかった。

他社のバッテリーを装着できる着脱システム

本特許は、電動工具下側のバッテリー装着部を分割して他社のバッテリーを装着できるようにする特許です。

意匠図内では、HiKOKIバッテリーに加え、A社(metaboバッテリー)とB社(BOSCH 無線充電バッテリー?)に対応する着脱構造がイメージされています。metabo社は工機HDの子会社であるため、共同開発による製品開発効率化への取り組みとも捉えられますが、metaboに加えて数ある他企業バッテリーの中でBOSCHのバッテリーを選んだ意図は不明です。

この構造が実現すると、欧州地域のHiKOKI製品はmetaboバッテリー仕様へ完全統合される可能性もあり、製品構造的にも他社のバッテリー装着が容易になるため、下手をすれば中国品によるマキタ対応アダプタなどの非公式アクセサリが世界的に流通するケースも懸念されます(特許戦略では防げない海賊品の流通)。結果としてHiKOKIバッテリーが市場から全て淘汰される可能性もあります。

この特許は、ユーザー目線ではバッテリー統合に繋がるのでありがたくもあるのですが、バッテリープラットフォームを展開する電動工具メーカーのビジネスモデルとなる「バッテリーによる売上確保」を崩壊に至らせる危険なものです。

普通に考えて、このアイデアは自社の売上を自ら潰すようなものであり、もはや工機HDはプラットフォームビジネスにおける根幹的な部分を理解できる人間もいなくなっているのではないかと不安になる特許です。

別の見方をすれば、工機HDはファンド資本下の不安定な経営状態が続いている状態であるために、バッテリープラットフォームを自ら捨てて製品開発の制約を緩和して、製品・技術的に売却されやすい状態にするための布石とも解釈できます。ある意味で、工機HDの今後を左右する極めて高度な経営事情が背景にある特許なのかもしれません。(これは深く考えすぎですが)

マルチボルトバッテリー×2本装着の卓上スライド丸ノコ

本特許は、卓上スライド丸ノコのバッテリー2本装着構造に関する特許です。

2個あるバッテリー装着部を重ならないように配置することによって、モータや配線との干渉を最低限に抑えているのが特徴です。

バッテリー接続方式が直列か並列かは記載されていないものの、卓上スライド丸ノコの新型モデルとして今後に期待です。

18V充電器用スライド10.8V充電変換アダプタ

本特許は、18V用の充電器でスライド10.8Vのような異なる電圧のバッテリーを充電するためのアダプタです。

ざっくり解釈すると、1段目の充電器を単なる電源装置として動作させ、2段目アダプタ内部のDCDCコンバータで充電制御を行う特許のようです。

類似する製品としてはマキタ DC40RA+ADP10の組み合わせがありますが、マキタの方式はDC40RAの中に初めから18Vバッテリー用の充電制御を入れている方式で、コネクタ形状のみを変更しているものです。対して今回のHiKOKIの特許方式は充電器をもう一台接続しているような方式です。

原理としては、アダプタの仕様を変えることで今後発売するバッテリーや他社製のバッテリーにも対応できる柔軟性の高い方式であるとも言えますが、この方式は充電器をもう一台接続しているようなものなので、製品原価や出荷台数の関係から充電器のコストを下回ることには繋がらない方式だと予想しています。

この変換アダプタの利点は、占有スペースが僅かに小さくなる程度の些細なものであり、普通に充電器を2台用意したほうがコスト・使い勝手共に優位となるでしょう。正直なところ、戦略的に有意義な特許と言えるものではなく、開発リソースの無駄遣いに近い内容です。

話は少し逸れますが、ゲーム産業やPC産業においてこの手の後付け変換アクセサリが広く普及した例はあまり多くありません。大半が後の性能向上や市場の変化によって陳腐化した歴史があるので、他市場の過去傾向に学ぶのであれば、このような製品の実証検証にリソースを使うのであれば新製品の拡充や販路の確保に努めてほしいものと思っています。

充電器と変換アダプタの回路ブロック図。アダプタ内部に充電器とほぼ同じ回路を搭載している。コスト的には普通の充電器と大きな違いは無いものになると予想される。
今回のアダプタはゲームハードにおける外付け機器の歴史を彷彿とさせる。外付け機器の別売による機能拡張はユーザーからすれば煩わしいものであり、コスト的にも決して優位にはなりにくいため市場に普及させる手段としてはあまり有力な方法ではない。

商標 「MALTI CRUISER」

2022年11月18月に工機ホールディングスは商標「MALTI CRUISER(マルチクルーザー?)」を出願しました。

クルーザーとは、巡航 (Cruise) する船舶・航空機・車両を指す単語です。マリン系の用語としては「居住空間と居住設備」を備えたレジャーの船舶を指しており、車両系の製品名としてはトヨタのSUV車 ランドクルーザーが代表的です。

工機HDは電動工具を主力とする機械製造業なので、マリン系の新事業は無いと予想しています。恐らく、工具関係の使い勝手に関わる新モードや何かしらの付加価値的な構造に関するものになると考えています。

区分及び商品役務では第20類(家具)で商品役務:キャリーバッグ・ケース類としても出願されていることから、HiKOKIシステムケースシリーズに変わる新しい収納ケースシリーズの可能性が濃厚でしょう。

※2022年12月にHiKOKI MULTI CRUISERシリーズが発売しました。

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