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プレカットの普及が木造建築に大きな影響を与えた
今から30~40年ほど前、建設業界に大きな影響を与えた技術が誕生しました。木材加工を工場自動化したプレカット加工です。
プレカットとは、木造建築で使われる資材を大型機械で自動加工する技術の総称です。それまでの在来工法木造住宅は、ノコやノミを使った手刻みが一般的で、熟練者による加工作業が必須でしたが、プレカットの普及によって省力化と高品質化が進み、木造住宅を取り巻く建設事情は一変しました。
当時の住宅需要の拡大を受け職人不足をカバーする技術として導入されたプレカット加工ですが、プレカットによる作業の簡略化は業界の変革を起こし、熟練大工の減少進行・作業単価の低下・大工徒弟制の崩壊・大工道具の一変など、木造建築に関連する全ての業界が影響受けました。
プレカットは約30~40年ほどの歴史の浅い技術ですが、2015年時点で利用率9割を上回るほど普及が進んでいます。
プレカットの登場以降の建築業界は、リチウムイオンバッテリー採用による電動工具のコードレス化が進んだ程度で、建築業界を一変させるような新たな技術は現れませんでしたが、ここ最近ではIT化やIoTデバイスによって新たな革新技術の研究が進んでいます。
本記事では、今後の建築業界を一変させる可能性のある技術を紹介していきます。
建築用3Dプリンタ
世界中のゼネコンを中心に研究が進められているのが、3Dプリンタを駆使した建設技術です。
セメントを直接造形して建築物を造形する3Dプリンタや、型枠を造形する3Dプリンタなども研究が進められており、この技術が実用化して普及が進めば、型枠大工は大きな影響を受けることになります。
3Dプリンタの建築造形では、建物の造形に関する制限も無くなり、建築物の意匠性を高めやすいメリットがあります。曲面形状や入り組んだ構造など型枠で作り難かった形状も、3Dプリンタ造形建築なら簡単に実現できます。
現状の3Dプリンタ建造物の最大の課題は強度です。積層方向に対して力が弱いのは勿論のこと、強度を上げるための鉄筋は人の手で組み込まなければならず、地震が大きい日本での実用化は大きく遅れると予想されます。さらに住居快適性を上げるためには断熱材の施工方法なども考えなければならず、まだまだ課題の多い技術です。
本格的な普及が進むためには、積層方向に対する強度の問題やコンクリートと鉄を複合射出できるような新たな3Dプリンタの開発が必要になるでしょう。
現在、建築3Dプリンタの研究は、経済成長著しい中国や地震の少ない欧州地域が活発で、デモ住宅や2階建て建築の実証実験が進んでいる段階です。
ユニット式住居 BOXABL
米国ネバダ州のベンチャー企業 BOXABL社ではユニット式住居 BOXABLを開発しています。低コスト住宅の大量生産を目的としするベンチャー企業で、2020年初頭に最初の製品BOXABL Casitaを発表しました。
BOXABLはコンテナで輸送できる展開式の住居モジュールです。輸送時は折りたたまれてコンパクトになっていますが、展開と設営によって住居へと変化します。BOXABILは数年にわたる試作とテストを経て、2020年時点で8,000のリクエストと1,300人分の予約が進んでいます。
今後、BOXABLのようなユニット式の住居が普及すると、住宅建造に関わる関連業種すべてが影響を受けます。躯体・内装の工程が今以上に減るだけではなく、作業道具もクレーンと締結用工具だけになり、工務店を始めとする作業者の需要は大幅に減るでしょう。工場の大量生産で低価格化も進めば、リフォームよりも建て替え費のほうが安くなるケースも考えられ、内装リフォーム需要も大きな影響を受けると予想されます。
2020年内の出荷が予定されており、今後は標準化されたモジュールの追加と自動車工場のような大規模施設の建設を予定しているようです。今後は1000万ドルの調達も検討しており、住宅建設のスタートアップとして注目されている企業です。
内装作業の自立ロボット
産総研が開発を進めているのがHRPシリーズの最新機 HRP-5Pです。このロボットは、全長182cm、重量10kgの人間型ロボットで石膏ボードを持ち上げて貼り付けまで自動で行うことが出来るロボットです。
東部複合センサーによる3次元計測と、画像データベースのニューラルネットワークによる学習で高精度の物体検出が可能で、自力で石膏ボードやコンパネのような大きな資材をハンドリングし、電動工具を使った張り付け作業を行うことができます。
この分野がさらに発展するには、今以上のセンサ技術・画像処理・AIに加え、実使用ではネットワーク設備・図面の情報化・ロボット作業用の施工データの規格化など、現場で使用するにはまだ先の遠い技術です。今後の実用化には30年~50年くらいかかると予想され。その頃には他の分野でのロボット技術も進んでいると予想されるので、その時代の最先端企業が開発する汎用作業ロボットの1機能として実装されることになると予想されます。
現行のHRP-5Pでは市販されている充電式電動工具を使用していますが、将来的な作業ロボットの普及が進めば既存の電動工具メーカーはロボット用モジュール部品開発中心のメーカーになるのかもしれません。
鉄筋結束のロボット化
既に実用化も進んでいる次世代技術が、鉄筋結束作業の自動ロボットです。すでに市販されている製品もあり、鉄筋コンクリート造の建築作業への普及が進んでいます。
香川県の建築現場ソリューション企業 建ロボテック株式会社が開発するのは、市販の鉄筋結束機に対応する鉄筋結束ロボット トモロボです。トモロボはMAXの鉄筋結束機 RB-440Tを装着し、全結束・チドリ結束・二つ飛び結束などさまざまな結束パターンに対応します
鉄筋結束の自動化と言っても、全ての作業を自動化できるわけではなく、土間やスラブのような平坦で広く単純な部分の鉄筋結束を自動化するために使用するロボットです。省力化がコンセプトのロボットで、28tの単純土間工事の場合で鉄筋結束の単純作業をロボットに置き換えて作業員の減少と生産性向上を実現しています。
海外のベンチャー企業SkyTyではドローンを使った鉄筋結束ロボット SkyMulの開発が行われています。
SkyMulは空中から鉄筋結束を行うロボット鉄筋結束機で、作業場へのセットが不要で鉄筋結束作業を行うことが出来ます。画像検出によって鉄筋交差部を自動で検出するので、少ないオペレータで何台もの鉄筋結束ドローンを運用することができます。
今後の技術発展で土間・スラブ以外への応用も期待され、センサ技術や画像解析、五軸アームによる横方向への結束も実現できれば、人が行う鉄筋結束作業のほとんどがロボットに置き換えられるかもしれません。