VOLTECHNO(ボルテクノ)

ガジェットとモノづくりのニッチな情報を伝えるメディア

2020年1月21日

テスターでできる電動工具のバッテリー診断方法

テスターでできる電動工具のバッテリー診断方法

電動工具のバッテリーであってもリチウムイオンバッテリーそのもののの特性を知ることで、テスターを使った簡易的なバッテリー診断を行うことができます。

この方法はバッテリーの状態を診断する方法ですが、バッテリーの故障自体は充電器に装着した時にエラーとなって判別できますし、診断したからと言ってメーカーへの問い合わせやバッテリーの修理ができるわけでもないので雑学程度にお楽しみください。

充電完了後の電圧を測定するとバッテリーの状態がわかる

電動工具のバッテリーにはリチウムイオンバッテリーが使用されています。

各社様々なバッテリーを販売していますが、ほとんどのリチウムイオン電池は定格3.6V、満充電開放電圧4.2V前後で動作しています。この電圧をテスターで確認するとバッテリーの異常や寿命を大まかにですが把握する事ができます。

満充電時 約4.0V/バッテリーセルが正常品の基準

様々な電動工具メーカーから多種多様なバッテリーが販売されていますが、リチウムイオンバッテリーを使用しているため各社のバッテリー特性に大きな違いはありません。

ほとんどのリチウムイオンバッテリーは定格3.6V、満充電時開放電圧4.2V、放電終止電圧2.5V前後を基準としており、これに0.数ボルト違いがある程度です。これは電動工具以外のリチウムイオンバッテリーでも共通の特性となっています。

18Vバッテリーの場合であればバッテリーの構成は5セル直列となるため、充電完了直後の開放電圧は約20.0V以上となります。充電完了直後にバッテリーをテスターで測定して20.0Vを超えた状態であれば、バッテリーセル自体は概ね正常と考える事ができます。

また、14.4Vバッテリーの場合であれば16.0V以上、36Vバッテリーの場合であれば充電完了後40.0V以上となっていればバッテリーセルそのものは正常であると判断する事ができます。

1セルで構成されているリチウムイオンバッテリー。定格は3.7Vだが充電完了直後の開放電圧は4.1Vとなる。
4セル構成の電動工具バッテリーの充電完了電圧は16.6Vとなる。充電完了直後の開放電圧は1セル当たり4.15V。

[故障診断] セル数×4.0Vの倍数に少し届かない場合は寿命が近い

充電完了直後のバッテリー電圧が低くなっているとバッテリーの寿命が疑われます。14.4Vバッテリーの場合で16V以下、18Vバッテリーの場合で20V以下の場合などが該当します。

新品直後の14Vリチウムイオンバッテリーであれば満充電直後の電圧は16Vを超える電圧となりますが、電池充放電サイクルを繰り返してバッテリーの劣化が進むと、充電完了直後でも直ぐに電圧が低下する状態となってしまいます。

このような状態になるとバッテリー自体の使用はできますが、容量が低下して出力も低い状態となっています。

バッテリーを長期間使用していない場合、バッテリーセルが「不活性化」して似たような状態になる事があります。この場合であれば2~3回充放電を繰り返すことである程度回復する場合があります。

[故障診断] セル数×4.0V-4.0Vの場合はバッテリーセルの故障

充電完了電圧が正常な状態から約4V低い場合はセルのバランスが崩れて使用不可能になっているケースが多いようです。

この電池を充電器に装着すると「エラーの表示」や「短い時間で充電完了になる」などのおかしな挙動を示す場合があります。その時のバッテリー電圧を測定すると18Vのバッテリーで16V前後、14.4Vのバッテリーでは12V前後となっている場合が多いです。

この状態では、直列を構成しているバッテリーセルの1つが電圧バランスが崩れた状態になってしまっています。

バッテリーセルのバランスが少し崩れた程度であればそのまま使用する事ができますが、1度バランスが崩れてしまえば進行が進み、最終的にはバッテリーの保護機能が働き使用する事が出来なくなってしまいます。

バッテリーの電圧バランス崩れには様々な原因があり、バッテリーの加熱や過電流によるセル安全弁の開放、水や導電性異物の侵入による放電、バッテリーセルの初期不良などが考えられます。

満充電にしたバッテリーの電圧を測定してみる

実際にマキタとHiKOKIのバッテリーの満充電直後の電圧を測定してみます。満充電の電動工具バッテリーは正常品であれば14.4Vが約16V、18Vが20Vを少し超える程度の電圧になりました

尚、写真は筆者の手持ちバッテリーの参考例であり、バッテリーのサイクル数や充電環境などにより電圧はある程度変動します。

マキタBL1460Bの充電完了電圧は16.36V
マキタBL1850 満充電電圧は20.45V
HiKOKI BSL1860の満充電電圧は20.36V。手持ちバッテリーの中では一番使用しているため若干劣化しているようだ。
もちろんこの状態であっても問題なく使用する事ができる。
Panasonicの5.0Ahバッテリー。この中では最も新品に近い。満充電電圧は20.90V

HiKOKI BSL36A18

HiKOKIマルチボルトは少し特殊で、18Vと36Vの直並列切り替え構造となっています。

正常なバッテリーであれば並列短絡させて電圧を測定する事ができるはずですが、上下間に電位差がある場合だと短絡させた時に大電流が発生する恐れがあるので、可能であれば上下バッテリーセルそれぞれ独立した状態のまま電圧を測定します。

工機ホールディングスの特許情報( 特開2019-021603 )を確認すると、プラスとマイナスの上下の端子をそれぞれ対角で測定すれば電圧が測定できるようです。細いテスター棒を使い、対角の端子を上下間で接触しないように注意して電圧測定を行います

マルチボルトバッテリーの端子構造の解説図。上下の端子を対角になるように測定すれば2つのバッテリーセルを短絡させなくても測定が可能だ。
工機ホールディングス「電池パック及び電池パックを用いた電気機器、電気機器システム」より。
実際の写真がこちら。プラスとマイナス端子に切れ込みがあるため、それが対角となる端子で電圧測定を行う。
電圧測定を行う場合は図のように青同士、赤同士でテスター棒を当てる。
上図 青位置の電圧測定。満充電電圧は20.51V
上図 赤位置の電圧測定。満充電電圧は20.51V
青位置と赤位置の電圧に大きな差が発生している場合はバッテリーが破損している可能性が高い。

安全にバッテリーを診断できるのはここまで、分解や修理は×

電動工具のバッテリーを安全に測定できるのはテスターを使った電圧測定までとなります。

安全とは言っても測定する端子を間違えたりテスターのモードを間違ったりすると危険なので、電子工作やテスターの扱いに精通した方が測定を行うのを推奨します。

バッテリーの分解を行えばより詳しく状態を把握する事ができますが、バッテリーの分解は非常に危険な上、メーカー保証交換も無くなってしまい分解後の廃棄にも困ってしまうので、バッテリーの分解はお勧めしません。

ちなみに、電動工具メーカーバッテリーの状態を収集するサービスとして、マキタではポータブルバッテリーチェッカー「BTC04」、HiKOKIでは「電池情報管理システム」などを行っていますが、これらはメーカーや販売店のためのサービスでユーザーがその内容を詳しく知ることはできないようです。

この方法でわかるのは「セルの不良」のみ

この方法でわかるのはバッテリーセルの異常のみとなります。バッテリーセル自体が正常であっても、リチウムイオンバッテリーパックに搭載された保護回路の異常などでもバッテリーが使用できなくなる場合があるので、この方法はバッテリーを確実に診断する方法ではありません、ご注意ください。

Return Top