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2024年4月15日

USB Type-Cケーブルを巻いて使うとどうなるのか、USB PD温度検証

USB Type-Cケーブルを巻いて使うとどうなるのか、USB PD温度検証

給電電力が増え続けるUSB Type-Cケーブルは巻いて使ってもいいのか

最近のUSBは多様化が進んでおり、電源供給線として使う用途も増えてきています。最新のUSB PD 3.1で定義されているUSB PD EPRでは最大240W (48V-5.0A)の給電能力仕様も定められており、今後の小型デバイスは全てUSBケーブルで行われるのではないか、と思うほど普及が進んでいます。

そんな中、USBケーブルを巻いて使った時の温度上昇の危険性についてX(Twitter)上で話題になりました。

例えば、AC100Vの電源コードは火災の危険があるので束ねて使うことを推奨しておらず、コードリールなどは巻いた時に使える「定格電流」とコードを全て引き延ばして使える「限度電流」が定義されているなど、電源コードを束ねて使うシーンには厳しい制限が課せられています。

今回の記事では、USB PDの一般的に想定される20V-5.0Aの給電環境下で、USB Type-Cケーブルを巻いて使った時の温度上昇について検証を行います。

3mのUSB PD 100Wケーブルを巻いた状態で温度測定してみる

温度測定にはUGREEN製のUSB PD 100W対応の3mケーブルを使用します。

今回の測定では、実際のUSBデバイスの接続を想定してUSB PDトリガデバイスを接続し、熱電対をケーブルの隙間に挟んで温度測定を行います。そのほかの細かい測定は下記の条件で行います。

  • ケーブルはUGREEN PD 100W 3mを使用
  • USB PD充電器にはVOLTME Revo140を使用
  • USB PDトリガデバイスで20Vを要求
  • RIGOL DL3031でCCモード 5A負荷で放電
  • 温度測定はK型熱電対を使用
  • 測定時間は120分
負荷にはRIGOL DL3031を使用。USBテスタとして有名なAVHzY CT-3Aでも100W放電は可能だが、冷却ファンの動作音が大きいので普通の電子負荷装置を使っている。
USB PD充電器に20Vを要求するPDトリガデバイス。剥き出しのワニ口で接続しているので見た目の治安は悪いが、意外と保持力は強いのでプラグを抜き差しするだけなので

実際に温度測定を行ったところ、測定開始から46分のところでUSB PDの過熱保護遮断が働いてしまい、測定が中断してしまいました。

1回目の結果としては、ケーブル温度 23.9℃で測定を開始して、46分間で38.4度まで上昇しました。

今回使用したUSB PD充電器は、先日レビューしたVOLTME Revo 140です。本製品の検証で140W給電を続けると止まってしまう現象は把握していたのですが、100W給電でも止まってしまうのはうーんって感じです。

3mのUSB PD 100Wケーブルを巻いて温度測定(リトライ)

USB PD充電器の温度遮断が働いてしまった時点で今回の測定作業を行う意味が少し失われてしまった気もしますが、見なかったことにして再トライします。

2回目の測定ではUSB PD充電器にヒートシンクを乗せて過熱保護が働かないようにします。加えて、USB PD充電器に挿入するコネクタ部分にも熱電対を取り付けて測定を行いました。

USB PD充電器をアルミヒートシンクで挟んで過熱遮断が発生しないように対策した。

そんなわけで、巻いたケーブルに20V-5Aを加えた120分間の温度推移のは、下記のグラフのようになりました。

ケーブルの温度は、約1時間ほどで40℃に到達して飽和状態になりました。

測定開始前のケーブルの温度は24.8℃でしたが、最大で42.4℃まで上昇したので、USB Type-Cケーブルと言えども巻くことで温度が上昇することに間違いはないようです。

とは言え、実用上40℃くらいの表面温度であれば問題となることはほとんどないと考えられます。

40℃環境に置いて巻いたType-Cケーブルの温度を測定

最後に、夏場の高温環境を想定した40℃環境で同じ測定を行います。

今回の40℃環境の再現には、マキタの充電式保冷温庫 CW001Gを使用しました。保冷温庫は熱容量などの関係から温度変動が激しく、一般的な恒温槽ほどの環境再現性はないのですが、一応の参考として試験を実施します。


40℃環境下の測定では、ケーブル温度は下記のグラフのようになりました。

温度上昇は最大で55℃前後であり、結果としては室温測定時と同じ+15℃くらいの温度上昇に収まりました。仮に夏場の環境下でType-Cケーブルを巻いて使用しても問題は無いと言えそうです。

巻いた時の誘導成分も測定しておく

最後に、もう一つの温度上昇要因として考えられているUSBケーブルの誘導成分を確認します。

巻いている時には1.8uH、ほどいた時には1.9uHであり、ケーブルの巻き方による違いは差がありませんでした。

今回のようなプラスとマイナスを同時に巻くケーブルでは、発生する磁束はほぼ打ち消してしまうため、誘導成分はほとんど発生しません。

また供給電源も直流であるため鉄損はほとんど存在せず(それ以前にUSBケーブルにコアを巻くことは無い)、実態としては損失はジュール熱による銅損のみが影響すると考えられ、巻くことによって放熱性が妨げられることだけが問題になります。

ケーブルを巻いた時の温度上昇は無視できるレベルだが放熱には気を遣おう

今回検証では、Type-Cケーブルを巻いて使用した場合の温度上昇値は15℃程でした。思ったより温度は上がりましたが、普通の使用であれば巻いて使ったとしても温度上昇を気にする必要はないと考えられる結果になりました。

X(Twitter)で話題になっていたのは磁石で束ねるケーブルですが、今回使用した3mのケーブルの方が巻き数が多くて放熱面で不利になるため、話題のケーブルよりも厳しい条件になっていると想定しています。

ケーブルの温度に関しては、USB-IFの仕様書 Universal Serial Bus Power Delivery Specification R3.2 V1.0に関連する記述があります。ケーブル温度の項目にはC.1.2 Discover Identity Command response – Active CableのTable C.2には”Maximum Operating Temperature” – 70℃と記載されています。

今回使用したのはパッシブケーブルなのでアクティブケーブルとは別物ですが、単純に撒いているだけであれば70℃までは達することは無いものと考えられます。ただし、密閉状態にしたり毛布に被せたりすると放熱が妨げられるので気を付けた方が良いかもしれません。

USBケーブルは通信線も兼ねるケーブルであり、最近は40Gbpsでの高速通信も備えているので、巻いて使うと通信に影響が出る可能性もあります。また電力を供給する電線は巻かずに伸ばして使うことがセオリーであり、電気周りの事象において熱を溜めて良いことはほとんどありません。

実用的にはUSBケーブルを束ねても問題はほとんど無いものとは考えられますが、温度上昇や通信障害のリスクとなることは間違いないので、USBケーブルに関しても電源ケーブルと同じく、伸ばして使うのを推奨したいところです。

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