現在、電動工具用のバッテリーは14.4Vや18Vのリチウムイオン電池が主流ですが、このバッテリー電圧が違うと何が変わるのでしょうか。
本記事では、電動工具のバッテリー電圧の違いや、電動工具メーカーの販売戦略について解説します。
目次
電圧が違うと何が違う??
コードレス電動工具に使われるバッテリーは様々な種類があり初めて電動工具を買う方などは、どのバッテリーを選べばいいのか迷ってしまうと思います。
バッテリーは電動工具であれば電圧が高ければ高いほど大きい力を出せます。またライトやラジオなどの14Vと18Vに両方対応した製品の場合はパワーが上がる代わりに動作時間が長くなります。
また、モータの特性を考えた場合、同じ出力のモータであれば電圧を上げれば発熱が少なくなるため、電圧が高いバッテリーの方が有利になります。
なぜ14.4Vと18Vが主流?
現在主流のバッテリーは14.4Vと18Vです。なぜどこのメーカーも同じ電圧のバッテリーを出しているのでしょうか?
その答えはバッテリーの特性にあります。現在、電動工具のバッテリーはリチウムイオンバッテリー電池が主流になっています。このリチウムイオンバッテリーは、電池1本当たりの電圧が約3.6Vのため、バッテリーを構成すると3.6Vの倍数の電圧のバッテリーしか作れません。
そのため、電動工具ではパワー・サイズともにバランスのいい4直列の14.4Vか5直列の18Vがよく使われるのです。今後、リチウムイオン以外の次世代蓄電池が実用化されたらバッテリー電圧も変わるかもしれません
電動工具メーカー間のバッテリー性能の違いは?
ここ3年ほどで電動工具のバッテリーは急速に高容量化が進んでいます。しかし、なぜ各社とも同じようなタイミングで同じ高容量のバッテリーを販売するのでしょうか?それは電動工具メーカーがリチウムイオン電池を作っているわけではないからです。
電動工具メーカーは、リチウムイオンバッテリーセルの開発に技術・資本的に一切関わっていません。
電動工具メーカーはSamsungSDI・LG Chem・Panasonic・村田製作所のようなバッテリーメーカーから高容量のバッテリーを調達しており、その性能も実用的にはほとんど差がありません。そのため、電動工具メーカーごとのバッテリー性能に大きな違いもありません。
ほぼ全ての電動工具には巻回型18650汎用サイズのリチウムイオンバッテリーが使用されています。電動工具メーカーが開発しているのは外側のケースと制御基板だけなので、バッテリー性能それ自体に大きな違いは発生しないのです。
今後のバッテリー展開は?
海外の電動工具メーカーでは今までのバッテリーと異なる新型バッテリーが開発されています。
Milwaukeeの9AhバッテリーやDeWALTの20Vと60Vを自動で切り替えられるFLEXVOLT、BOSCHの21700サイズのリチウムイオンセルを使ったCORE18Vがあります。ちなみにマキタは2本挿しの36Vシリーズを展開しています。
今までは18650サイズのセルを10本使ったバッテリーが主流ですが、リチウムイオンバッテリーを製造するセルメーカーは21700サイズへの移行の可能性を示唆しており、今後のバッテリーは大型化が予想されます。
バッテリー電圧それぞれの特徴は?
電動工具用バッテリーにはさまざまな電圧のバッテリーが展開されていますが、バッテリーの差し込み部分が14.4Vと18Vで共通のメーカーも多く、具体的な違いが判らないこともあると思います。
単純に考えれば、電圧が高い方がモータ出力が高く、発熱も少なくなるため作業性を考えれば18Vのほうが優位です。その一方、バッテリーのサイズと重量は重くなってしまうため取り回し面では14.4Vバッテリーのほうが優れています。
14.4Vバッテリーの特徴
- バッテリーが小さく軽量で、取り回しに優れる
- バッテリー本体の価格が安価
- DIYモデルの主流バッテリー
- バッテリーが小さく連続使用時間が短い
- 18Vの電動工具と同じモータ出力の場合、発熱が大きい
- プロ向け電動工具では18Vの以降が進む
14.4Vのリチウムイオンバッテリーは18Vバッテリーより安い特徴があります。また、サイズも小さいので重量も軽く取り回しやすい特徴があります。バッテリー価格が安いため、DIYモデルで採用されるのは14.4Vバッテリーが主流です。
ニッカド12Vバッテリーの後継として販売された14.4Vのバッテリーは長年使っているユーザーも多く、今なお根強い需要から電動工具の主流の地位を保っています。
ただし、プロ向けの電動工具として考えた場合、AC電源と同じくらいの高出力が求められているコードレスの電動工具に14.4Vバッテリーは多少不利に働きます。特に、重負荷作業で14.4Vバッテリーを使うとモーターが発熱し、加熱保護などで停止する可能性が高くなります。
14.4Vバッテリーの今後は?
ここ最近の電動工具メーカーの新製品動向をみると、14.4Vバッテリーの新製品はほとんど開発されていません。これは先述した通り、14.4Vではモーター出力を確保できなくなっているためと考えられます。
残念ながら、プロ向け電動工具の分野では14.4Vの新製品開発は行われなくなっていて、事実上、18V電動工具が主力の製品として展開が行われています。既に海外市場の電動工具メーカーは14.4Vの展開を停止していて、日本のプロ向け電動工具市場も既存品の販売は継続されるものの、これ以上の14.4V製品が拡充されることは無いでしょう。
18Vバッテリーの特徴
- 電動工具の出力を高くできる
- 動作時間が長い
- 高負荷時の発熱が低くモータの保護停止が起こりにくい
- 18V電動工具のラインナップが多い
- 次世代36V電動工具との互換性が確保されている
- バッテリーが大きく重い
- バッテリー価格が高い
電動工具のモーターがブラシモーターからブラシレスモーターに移り変わるのと同時期に普及し始めたのが18Vリチウムイオンバッテリーです。
18Vバッテリーは14.4Vバッテリーよりパワーを高くしやすく動作時間も長い特徴があります。また、電圧が高い方がモータの発熱も抑えられるため連続作業を行えるメリットがあります。
18Vバッテリーはバッテリーパックが大きいため、14.4Vと比較するとバッテリー価格が高く、重量も大きい特徴があります。
18Vバッテリーの今後は?
現在では14.4Vバッテリーから18Vバッテリーへの移行も進み、プロ向け電動工具市場では18Vバッテリーが主流となりました。現在では次世代電動工具として36V化が進んでいますが、この先の18Vバッテリーはどうなるのでしょうか。
36Vの高電圧化が進んだ背景には、電動工具に使用しているモーターが関係しています。単純な話、モーター出力の向上には高電圧化が手っ取り早いからです。
その一方で、モーターを使わないコードレス機器などには高電圧化の恩恵はほとんどありません。逆に、降圧が必要になるため高コストになってしまいます。
現状、高電圧の主流となっている36V電動工具は、何らかの形で18Vバッテリーとの互換性が保たれて、18Vバッテリーはもうしばらく電動工具業界の主流シリーズとして展開されると考えられます。
14.4Vと18Vの性能差はそこまで大きくない
現在でも根強い人気がある14.4Vバッテリーですが、市場は少しずつ14.4Vから18Vにシフトしています。メーカーもこれを受けて18V製品のラインナップ数を多くしているようです。
さて、ここでバッテリー性能について1つ疑問があります。18Vバッテリーの方が14.4Vバッテリーより遥かにパワーが高そうですが、カタログスペックを見てみるとそこまでの性能差があるように書かれていません。
例えば、マキタのインパクトドライバーであるTD170DとTD160Dのカタログを確認してみるとトルクの違いはほとんどありません。14.4Vに対し18Vのバッテリーを使うわけですから理論上1.25倍の締め付けトルクが出てもいいと思いますが、実際は5N・mしか差がありません。
なぜバッテリーが異なるのに締め付けトルクには差異がないのでしょうか?その答えは18V工具のパワーを14.4Vと同じパワーになるように設計しているからです。
現在のインパクトドライバーの締め付けトルクは6.35mmビットの耐久力ギリギリまで向上してしまっていると聞きます。そのため、これ以上トルクを上げてもビットの方が耐えられないため性能向上させられないとされています。
インパクトに限らずとも、グラインダや丸のこなどもフィーリングの悪さやモータ焼損防止を目的としてパワーを抑えている傾向があります。その分作業時間が延びるように調整しているようです。
14.4Vと18Vのパワーが同じため「じゃあ14.4Vでもいいよね」派と「18Vでいい」派の方がいると思いますが、電動工具メーカーの方向としては18Vを展開していきたいようです。
14.4V/18V以外の電動工具
小型で取り回しに優れるスライド10.8Vバッテリー
2015年秋にマキタが10.8Vスライドバッテリーシリーズを発表しました。
今までの10.8Vのリチウムイオン工具は形が微妙だったり製品ラインナップが少なかったりとイマイチ魅力のない製品でしたが、この10.8Vスライドシリーズはこれまでの10.8Vとは異なるコンパクト軽量サイズで製品ラインナップも揃えたプロ用工具ポジションで、これまでの10.8V工具とは明確な差別化を行っています。
特に電気工事系の方など、パワーをあまり必要としないコンパクトで軽量なプロ向け電動工具を求める人にはピッタリなクラスです。
プロ向け電動工具は36V化が進む
2017年8月に日立工機(現HiKOKI)から新型バッテリーのマルチボルトシリーズが発売されました。さらに、2019年にはマキタからも40V MAXシリーズが展開され、プロ向け電動工具は36Vシリーズの電動工具への移行が始まっています。
これらの36Vバッテリーは、従来の18Vバッテリーと同サイズのまま36Vを実現した新シリーズです。
モータの特性上、同じ出力のモータであれば電圧の高い方がモータ発熱が少なくなり、出力的に有利になります。高出力が求められるコードレスの電動工具などでは36V化によってコンパクト・高出力を実現しているのが特徴です。
HiKOKIのマルチボルトシリーズは「18V工具との互換性」を持ちますが、一方のマキタ40V MAXシリーズは新規ターミナル構造の互換性が無い仕様になっています。
まとめ・補足
- 14.4Vバッテリーは安価・小型で取り回しに優れる
- 18Vバッテリーは出力が高く、プロ向け電動工具の主流
- 10.8Vシリーズの拡充や電動工具の36V化など、新しい選択肢も出てきている
14.4Vと18Vの違いを説明してきましたが、マキタ・HiKOKI共に18Vの製品ラインナップを強化しており、14.4Vは少しずつフェードアウトしているようです。新しく電動工具を揃えるのであれば、18Vシリーズの電動工具を選ぶのがおすすめです。
また、14.4Vと18Vのあまり知られていない違いとして、ラジオに使用した時にはスピーカー出力が変化する特徴があります。特にラジオなんかは18Vの満充電バッテリーを使うと少しだけ音の迫力が増します。
現在でも、14.4Vバッテリーの需要はあるので、14.4Vのバッテリーが急に販売終了となることはありませんが、最終的には電気制御技術の向上などによって14.4Vと18Vの境目は曖昧になり。バッテリー共用の形で統合されると考えられます。
私的な話になりますが、電動工具のバッテリーは用途も形もほぼ同じなので、各社で共用になればいいと思っています。これは電動工具ユーザー共通の悲願だと思います。
しかし、規格化や統合によって、メーカー間の開発競争力の低下や価格競争の穏和が発生した前例も少なからず存在しています。バッテリーの共通化が必ずしもいい結果になるとは言い切りません。しかしながら、バッテリーの違いや囲い込み戦略が一部ユーザーの不利益になっているのも事実です。