
マルチボルトは、取り付ける対応工具に合わせて18Vと36Vを自動で切り替えるHiKOKIのバッテリーシステムです。18V工具での取り回しと、36V工具での切断・研削などを、共通のバッテリーで使い分けられます。
現在は、標準容量のBSL36A18X、大容量のBSL36B18X、タブレスセルを採用したT-PWR BSL3640MVTなどが展開されています。まず仕組みと代表的な電池の用途を説明し、その後に初代発売期の登場機種と筆者の考察を紹介します。
- HiKOKIの18V・36V対応バッテリーシステム
- 対応工具に取り付けると電圧を自動切換
- 取り回し・作業量・高負荷作業に合わせて電池を選べる
- タブレスセル搭載のT-PWRも展開
現在のマルチボルトバッテリーの代表例
ここでは、取り回し、容量、高負荷作業の違いを把握しやすい3モデルを紹介します。掲載するW数はメーカーが示すバッテリーの出力の値です。工具の実出力や作業中に持続する出力は、工具・負荷・電池の状態によって変わります。
BSL36A18X:取り回しと容量のバランスを重視
BSL36A18Xは36V時2.5Ah/18V時5.0Ah、掲載出力1,080Wのモデルです。質量は740g。対応するインパクトドライバやドライバドリルなど、手持ちで使う工具の取り回しと容量を両立したい場合の候補になります。Xモデルのケース変更などは、BSL36A18Xのリニューアル時の記事で紹介しています。
BSL36B18X:容量を重視する作業に
BSL36B18Xは36V時4.0Ah/18V時8.0Ah、掲載出力1,440Wのモデルです。質量は1,020g。対応工具での切断・研削を続けるなど、電池交換の頻度を抑えるため容量を重視する場合の候補になります。電池の重さも含めて工具全体の扱いやすさを選ぶモデルです。
T-PWR BSL3640MVT:高負荷作業を重視
T-PWR BSL3640MVTは36V時4.0Ah/18V時8.0Ah、掲載出力2,160Wのモデルです。質量は980g。タブレスセルによって内部抵抗を低減し、工具への電力供給を高めています。対応する丸のこやディスクグラインダなど、高負荷の切断・研削を重視する場合の候補になります。タブレスセルの特徴と発売時の展開は、BSL3640MVT/BSL3640MVBTの紹介記事で解説しています。
マルチボルトの仕組みと互換性
対応工具に合わせて18V・36Vを自動切換

マルチボルトバッテリーは、対応する18V工具では18V、マルチボルト対応の36V工具では36Vに自動で切り替わります。工具を使い分けるたびに、使用者が電圧を設定する操作はありません。
例えばBSL36A18Xの容量表記は36Vで2.5Ah、18Vで5.0Ahです。どちらも電圧と容量を掛けた公称エネルギーは90Whとなり、電圧が切り替わっても電池に蓄えたエネルギーが増えるわけではありません。作業量を考えるときは容量、重い負荷への対応を考えるときは出力を、工具と作業に合わせて見ていくと選びやすくなります。
対応工具は工具と電池の型番で決まる

工具とバッテリーの組み合わせは型番ごとに決まります。例えば、18VインパクトドライバWH18DCと36VインパクトドライバWH36DDは、ここで紹介したBSL36A18X、BSL36B18X、BSL3640MVTに対応します。対象は対応する18V工具とマルチボルト対応36V工具で、旧36V専用電池の工具や14.4V専用工具は別の電池システムです。
同じ18V・36Vの製品でも、電池の大きさや新マルチボルトへの対応状況で組み合わせが変わります。例えばC3605DCはBSL36A18Xを使用でき、BSL36B18XやBSL3640MVTはケース・梱包箱の対応ラベル、または製番末尾の「X」がある製品に対応します。G18DSL2はBSL36A18XとBSL36B18Xに対応し、BSL3640MVTは対象外です。工具本体の型番と対応表示が、電池を使い分ける基準になります。
マルチボルトに対応している充電器は?

HiKOKI(旧日立工機) 急速充電器 スライド式リチウムイオン電池14.4V~18V対応 USB充電端子付 超急速充電 UC18YDL
マルチボルト対応の充電器を使用します。現在の代表例にはUC18YDL2、UC18YSL3があり、両機種とも公式仕様でマルチボルト蓄電池に対応しています。UC18YDL2使用時の満充電時間はBSL36A18Xが約25分、BSL36B18Xが約40分です。充電時間は充電器、周囲温度、電池の状態で変わります。
以下は初代発売期の充電器紹介です。2017年11月時点でHiKOKIの最新モデルの充電器「UC18YDL」で問題なく充電でき、UC18YSL3やUC18YSL2、さらにはホームセンター向けのUC18YKSLなどでもマルチボルトバッテリーの充電が可能です。
次の充電電圧の記述は、初代発売期の筆者の考察です。マルチボルトバッテリーは36Vバッテリーですが、充電するときの電圧は18Vで充電されます。そのためUC36YSLなどの14.4V-36V充電器を使用しても充電電圧は18Vになってしまうようです。
初代発売期の考察と登場機種
資本が日立製作所からKKRに移り、大きな転換期を迎えていた日立工機は2017年8月22日のニュースリリースでマルチボルトを発表し、8月24日に最初の5機種を発売しました。以下は初代BSL36A18と当時の登場機種を対象に、カタログやリリース資料などをもとに加えた筆者の考察です。後年に追記した参考画像も含め、発売期の評価として紹介します。
バッテリー電圧が高くなるとモーター効率が上がる(初代発売期の考察)

マルチボルトシリーズ最大の特徴は36Vで動作する電動工具で。18Vと36Vで同じ出力の電動機(モーター)を使っている場合、電圧が高くなればその分モーターに流れる電流が減少するため、モーターの損失(発熱)が減る事になりモーター効率が上昇します。
モーター効率が良くなればモーターの出力も上げやすくなり、作業性の大きな向上が見込めるようになります。似たような事例としてハイブリッドカーのモーターも効率を上げるために駆動電圧を高くしたモーターが搭載されています。
電動工具にブラシレスモーターが採用されてから、過負荷に弱くなったり過熱で保護停止してしまったりと作業が停止してしまう事も多くなりましたが、マルチボルトによる36V化によって作業性は良くなるものと考えられます。
AC電動工具に迫る作業性だが、バッテリー容量は未だに不足気味

マルチボルトの新バッテリーBSL36A18のスペックを見てみると18V – 5.0Ah(90Wh)と記載されており、バッテリーの容量は18VバッテリーのBSL1860(108Wh)よりも減っています。
ニュースリリースの資料ではAC電源並の1kWの高出力が可能と書いてありますが、これは高出力ができるセルを採用し容量が少ないセルに変更せざるを得なくなった影響と考えられます。
初代BSL36A18は36Vで2.5Ah、18Vで5.0Ahで、公称エネルギーは90Whです。電池から1,000Wを一定に取り出し、90Whを全量使えると仮定すると、理論上は90Wh ÷ 1,000W × 60分=5.4分になります。この計算は損失や保護停止を含めず、実際の作業時間は工具・負荷・温度などによって変わります。現在のマルチボルト電動工具で連続5分間の1kW作業を行う事はない無いと考えられますが、UC18YDLのバッテリー充電時間が25分となっていますから、1kWクラスの作業を継続的行うにはバッテリーと充電器が4セット必要です。
1kWの出力ができるバッテリーと言っても、AC電源で動作する電動工具を置き換えるようになるのはまだまだ先のようです。
初代BSL36A18の容量と36V化に関する当時の考察
この節は、初代BSL36A18の容量と、当時の18Vバッテリーとの関係について述べた考察です。現在のBSL36B18Xなどの大容量モデルやT-PWRによる出力の進化は、前半の現行モデル紹介で扱っています。
マルチボルトのコンセプトはDeWalt FLEXVOLTに非常に近いものがあり、この構造を参考に開発された新シリーズであると考えられます。
原理上、バッテリーはどのような直並列構成にしても「電池1本から取り出せるエネルギー量」は変わりません。10本の乾電池を直列にしようが並列にしようが取り出せる仕事量(Wh)の限界は変わらないのと同じ理屈です。
この点を考慮するとマルチボルトは既存の18Vバッテリーと同じく、セル10本によって構成されたバッテリーとなっているため、今までの18Vバッテリーと取り出せるエネルギー総量は大きく変わりません。
バッテリーの36V化によるメリットが大きい製品は、丸のこやグラインダーなど、モーターの回転運動が作業に直結する電動工具になります。一方、インパクトドライバや仕上げ釘打ち機などバネなどによって作業する電動工具のメリットは大きくなりません。
このことからマルチボルト、はバッテリー性能を向上させた製品ではなく、あくまでも『高電圧化によってモーターの発熱(損失)が減る』事をメリットに置いた製品群と考えるのがよさそうです。

2017年に展開されたマルチボルトの電動工具
2017年8月22日の発表では、年内に全11機種を展開する計画が示されていました。第1弾の5機種は8月24日に発売され、9月に2機種、10月に4機種を順次発売する予定とされていました。以下は当時の登場機種の紹介です。
さて、マルチボルト工具の特徴をさっと見てみると、重負荷になりやすい工具、先に挙げた丸のこやディスクグラインダなどの回転系工具に対するメリットが大きくなります。
日立工機の電動工具のイメージカラーは長らく緑と赤が中心で、更には多色展開で5色ラインナップもされていましたが、今回のマルチボルトシリーズからは緑と黒の2色ラインナップとなっているようです。
卓上スライド丸のこ C3606DRA
コードレスの卓上スライド丸のこC3606DRAです。『日立工機のコードレス卓上スライド丸のこ』そのものを心待ちにしていた方も多いのではないでしょうか。
同じ165mmのAC卓上マルノコC6RSHCとの大きな違いはブラシレスモーターに変わっている事、スライド幅が6寸切断までとなっており1尺切断が出来なくなっている事です。最近では1尺フローリングが減っているとも聞くのでスライド幅が小さくなっても大きな問題はないのかもしれません。

切断性能についてはDCブラシレスモーターを採用したことによってAC並の切断能力を持っているようです、グラフを見る限りでも負荷に対する回転数の変動が非常に小さいことがわかるので、負荷に対する切断面の荒さなどをそれほど気にする必要はないのかもしれません。ですがAC電源と異なりバッテリーは電圧降下による回転低下の影響は受けますので注意が必要です。
丸のこ C3606DA
こちらは通常の丸のこC3606DAです。
18VのC18DSALと比較すると切断スピードと粘り強さが特徴的な製品になっています、18VのC18DBALと比較して約2倍の切断スピードと高負荷時の粘り強さを考えると、36Vの恩恵を最も受けている電動工具です。
外観的にはこれまでの18Vと大きな変更点がなく、切断能力が向上した点がポイントと言えるでしょう。もちろん、従来品と同じようにフッ素プレートも装着可能です。
ディスクグラインダ G3610DA, G3613DA
ディスクグラインダも切断スピードや過負荷作業に強くなっています、切断スピードに関しても丸ノコと同じように1.6倍近い切断スピードになっているので、これも36Vの恩恵を十分受けている製品ともいえるのかもしれません。一方で1充電当たりの作業用は減っているようなので、この点はバッテリーの容量減の影響を受けているようです。
外観の変更点としてバッテリーの脱着が斜めになってスリムになった点と、握るところがさらに細くなって握りやすくなった点が上げられます。
マルチボルトのディスクグラインダは砥石100mm径のG3610DAと125mm径のG3613DAの2種類をラインナップしています。
インパクトドライバ WH36DA
他のマルチボルト電動工具と比較すると影が薄くなってしまっているインパクトドライバWH36DAです。
変化点は少なく、特徴としてはネジ締め時のスピードが落ちにくいことと本体の温度上昇が少なくなっているようです、またカタログスペック上のトルクもWH18DDL2の時から大きく上昇していません。
これはインパクトのトルクを上げても木ねじに使うプラスビットを破壊してしまうだけなので、180N・m以上のトルクにすることは現実的ではないためだと思われます。このあたりは四角頭ネジが普及すれば解決する問題だとは思いますが、価格の問題もありまだまだ先になると考えられます。
インパクトドライバは最も売れる工具ではありますが、海外も含め業界全体で3年くらい前から大きな新構造がなく、既に完成しきった工具であるとも言えます。インパクトに大きな変化点がないのは仕方のないことかもしれません。
ちなみに、今回のインパクトはカラーバリエーションが2色のみになっているようです。
ドライバドリル DS36DA
2017年9月にマルチボルト第2弾として発表されたドライバドリルです。
36Vに高電圧化したことにより穴あけ能力が大きく向上しました。特に特徴すべきはサイディングの穴あけ能力で200mmまで穴あけ可能になっています。ダクト穴の作業で大きなドリルを持ち歩かなくて済むようになりました。
振動ドライバドリル DV36DA
DS36DAに振動ドリルが付いたドライバドリルです。基本的な性能はDS36DAと同じです。
18VのDV18DBL2と性能比較したかったのですが、公表してる作業量が同一ではないため直接比較できないのが残念です。(電池容量が同じではないので仕方ないのですが)
初代発売期のまとめ・所感
電動工具の高電圧化は切断系の回転工具、特に丸のことディスクグラインダは高電圧化による恩恵を受けやすいので、これらの工具については作業スピードが大きく向上するようです。
その一方で、電池の容量そのものが向上したわけではありませんから、1充電当たりの作業量はそこまで変わっていません。このことからマルチボルトを端的に表現するなら『モーター出力を上げやすくなった』電動工具であると考えられます
実際に購入する場合は実際の作業と充電する頻度は問題ないか、高負荷時の挙動が今までの18V電動工具と変わるから違和感がないか、などを確認したほうがいいかもしれません。
ニュースリリースではAC電源並とは言っていますが現状のリチウムイオンバッテリーの性能を考えればAC工具並みの1kW出力が可能であっても、それを長時間維持することはまだまだ難しいと考えられます。
しかしながら、かつてのコードレス工具に比べれば大きな性能向上が見込め、この先の2次電池の性能向上によってコードレス工具はまだまだ性能向上できそうなので、36V工具はこの先の電動工具の標準的な電圧になっていくのかもしれません。
また、対応する18V工具にも使えるバッテリーなので、試用していい感じであれば、1台くらいは試しに購入してみるのもアリなのかもしれません。充電器が18Vと共用できるのもgoodです。
また情報の少ない製品ですので、購入を考えている方は販売店や展示会で実機に触れて十分に確認したほうがいいかもしれません。
さて、マルチボルトに関する情報は少なく、筆者もまだ現品に触れていないので、記事内容に誤りや訂正する部分があるかもしれません。本記事に関してはあくまでも参考程度に考えていただければと思います。今後、マルチボルト現品に触れる機会があればまた内容を追記していきたいと思います。
















