電動工具を使用するユーザーにとって、異なるメーカー間でのバッテリー共通化は全てのユーザーの悲願です。しかし現実の電動工具メーカーはユーザー囲い込みや安全対応などを理由に、メーカー間を超えた統一バッテリーの協議やバッテリーのライセンス化などに積極的ではありません。
そんな中、ドイツの電動工具メーカー「metabo」で提案されたのは、電動工具バッテリーのクロスプラットフォーム『コードレスアライアンスシステム』通称CASです。
当記事は欧州地域の電動工具情報を紹介する記事であり、工機ホールディングス・工機ホールディングスジャパン及びHiKOKI取扱店へのお問い合わせはお控えください。
目次
CAS メーカーの枠を超えた工具バッテリーの共通規格
『コードレスアライアンスシステム』(通称 CAS)とは、ドイツの電動工具メーカーmetaboが提唱するバッテリーのクロスプラットフォームの名称です。CASは、電動工具メーカーの枠を超えた共通バッテリーを実現している欧州の規格です。
これまでの電動工具バッテリーは取付構造や回路構造などの様々な特許によって閉ざされた規格で、バッテリーを開発した工具メーカーの製品しか対応できませんでした。
CASは、metaboが展開する18Vリチウムイオンバッテリー「LiHD」のプラットフォームをほかの工具メーカーにも開放し、メーカー間の垣根を超えてバッテリーを展開してLiHDバッテリーに対応した工具のラインナップ数を増やそうとする戦略です。
metaboの工具ラインナップは穴あけ工具や研削工具が中心で、内装関係の工具に乏しい電動工具メーカーですが、CASによって他メーカーの製品をLiHDのラインナップに加えることで、内装や電工関係の工具も充実させ、大手電動工具ブランドに追随する製品ラインナップを揃えています。
他社品との正式な互換性を謳うCASは、実にユーザーフレンドリー
CASが画期的な点は、「CAS」と呼ばれるブランドによって充電器とバッテリーの互換性が保証されており、ユーザーが充電器やバッテリーの相互互換性に関して不要な心配をしなくても済む点です。
さらに、CASに対応した製品をユーザーが把握でき、作業に合わせた工具をCASブランドを通じて探せるようになるのも大きなメリットです。
単純な工具バッテリーの流用だけであれば国内でもいくつか事例があります。鉄筋カッターを販売するオグラ、IKKはそれぞれマキタ、HiKOKIのバッテリーに対応した充電式鉄筋カッターを販売しており、電工工具を販売するKlaukeはマキタバッテリー対応品を展開しています。この他にも工具バッテリーを使用した他社製製品の実例は数多く存在しています。
これらの事例は電動工具メーカーが他社にバッテリーを使わせているだけで完結しており、多少のユーザーの囲い込みにこそなりますが、販売戦略やブランド認知としてはほとんど意味を成していないのが現状です。
これらの製品の存在をマキタ・HiKOKI等の電動工具ユーザーが知るのは難しく、電動工具のバッテリーに対応する他社品の存在すら知られていない場合がほとんどです。
metaboの展開するCAS戦略はこの点が革新的で、自社のリソースに縛られない開放的なグローバルバッテリープラットフォームです。
CASが展開するコードレス電動工具
CASはmetaboを含め、2019年時点で計17社の製品展開が行われており、対応製品は160にも上ります。これらの製品にはCASの対応とそれを表すロゴが与えられており、ユーザーから見てもCAS対応機器がわかりやすくなっています。
LiHDはmetabo電動工具に加え、mafell社の丸のこやROTHENBERGER社の電工工具など特徴的な製品をラインナップしています。今後もCASに加わるブランドは増えるようです。
苦手な製品を他社に任すmetaboのバッテリー戦略
現在の電動工具メーカーは、ラインナップ数を増やすために少し無理のある製品開発を行っている印象があります。マキタのコーヒーメーカーやHiKOKIのテレビなどは注目こそ浴びたかもしれませんが、メーカーならより使いやすく、より職人が稼げるような電動工具の開発にリソースを注ぐべきです。
metaboのCASの方針は、自社の得意分野にリソースを注力し、他分野の製品展開は他社に任せ、バッテリーとメーカーの関係を分離しユーザーの選択の幅を広げる画期的な戦略です。
さらに、電動工具用バッテリーのライセンスを開放し、metaboカタログに乗せて製品や作業の相互補完性などをユーザーにアピールしている点は、個人的に最も先進的なバッテリープラットフォームとして評価される製品戦略です。
電動工具メーカー製による中途半端なスペックの製品を使用するより、ノウハウと技術を持った専用メーカーの工具と汎用性の高いバッテリー製品こそユーザーが最も求めている製品です。
CASが日本で展開される可能性は限りなく低い
CASはメーカー間の垣根を超えたバッテリーの共通化戦略ですが、日本での展開は難しいと予想しています
コードレスヒートガンや硬質フォーム断熱ボード切断機など日本の工具メーカーが取り扱わない製品のコードレス化を実現しているCASですが、CASを展開するmetaboは2016年に工機ホールディングス(旧日立工機)傘下になったため、親会社である工機HDがHiKOKIバッテリーの普及を進めている関係上、子会社metaboのバッテリープラットフォームを母体とするCASを拡販することは、まず無いと言っても良いでしょう。
工機ホールディングスは日本市場において、日立工機を継承するHiKOKIブランドの展開を第一に考えている企業です。HiKOKIブランドのマルチボルトシリーズとCASの母体を展開するmetabo LiHDシリーズとはカニバリゼーションが発生するため、日本でCASプラットフォームが普及することはないでしょう。