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近年、各メーカーによる空気工具のコードレス化が盛んに進んでおり、圧縮空気を使用した従来の釘打ち機に代わりバッテリーとモーターを使用した電動釘打ち機の発売が続いている。
バッテリー搭載による釘打ち機のコードレス化が進む中、ニュージーランドの新興工具メーカー『AIRBOW』が2019年4月に発売するのは、モーターもガスも使用せず、超高圧の圧縮空気と超高圧タンクを用いる新構造を使用したコードレス釘打ち機だ。
目次
釘打ち機にタンクを内蔵、コードレスの空気工具
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『AIRBOW』は、超高圧タンクを内蔵したコードレスフレーミングネイラだ。
釘打ち機側のタンクに内蔵よって、バッテリーもガスも使わずに釘打ち機のコードレス化を実現している。
AIRBOWのエアタンクは容量こそ小さいが、超高圧の圧縮空気に耐えられる構造になっていて、MAXの高圧コンプレッサー4MPaを大きく超える30MPaの圧縮空気を蓄えられる構造となっている。
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AIRBOWの構造は非常にシンプルだ。超高圧タンクに蓄えた圧縮空気をピストンに送り込み釘を打ち込むエネルギーを得ている。原理的には、現行の圧縮空気を使う釘打ち機と大きな違いはない。
タンク1回の充填で300本打てる
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気になるのは、釘打ち機に搭載された小さいタンクでの1充填当たりの作業量だ。
AIRBOWに搭載されたエアタンクは、小型ながらも1回の充填当たり約300本の釘打ちに対応している。対抗製品となるMetaboHPTのNR1890DBCLなどは3.0Ahで400本となるため、十分な作業量と言えるだろう。
1秒間あたり3本の素早い釘打ちが可能
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圧縮空気を使う方式で最大のメリットとなるのが、作業性の良さだろう。
AIRBOWではタンクに蓄えられた圧縮空気を使用するためレスポンスも良く、最短で1秒当たり3本の打ち込みを可能としている。
圧縮空気は300気圧(30MPa)、専用コンプレッサーでエア充填
AIRBOWに供給する圧縮空気の圧力は最大で4500PSI(30MPa)と空気銃並みの超高圧だ。MAXの高圧コンプレッサーが4.0MPaと考えると、実に7倍以上の超高圧空気工具である。
使用するコンプレッサーも独特だ。超高圧の圧縮空気を使用するため、コンプレッサーはパイプやホース類が破損しないように専用のケースで覆われた構造で大型サイズになっている。
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動画のレビューに使用されているコンプレッサーは試作機と考えられ、今後も更なる改良が進むと考えられる。コードレス化によって取り回しが良くなってもコンプレッサーが大きくてはメリットも薄くなるので、今後の新型コンプレッサーに期待される。
AIRBOWの重量はコードレス方式でガス釘に次ぐ軽さの約4kg
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タンクの形状が大きく重量面では不利と思われるが、AIRBOWは軽く約3.9kgとなっている。
HiKOKIのフレーミングネイラの5.0kgと比較すると、コードレス釘打ち機としては比較的軽く仕上がっている。体積的にはAIRBOWの方が大きいため、どちらが使いやすいのか判断が難しいところだが、今後のモデルチェンジなどで重量・体積共に改善されるだろう。
販売地域はニュージーランドのみ。価格は$1,700
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2019年4月現在、AIRBOWは開発元であるニュージーランドでのみ販売されている。販売価格は|1723.85だ。
販売店もニュージーランドの建材販売店「PlaceMakers」の専売となっており、ニュージーランド外での入手は非常に困難となっている。また、購入出来ても日本国内での所持は銃刀法違反になる可能性が高いため、輸入も避けた方が良い。
AIRBOWのコンセプトに将来性はあるか?
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AIRBOWのコンセプトは、ある意味で高圧化を極端に進めた場合の終着点と言える製品だ。
高圧化による利点は、タンクの小型化とシリンダ小型化による釘打ち機本体サイズの小型化だ。原理的に圧縮空気の圧力を極端に高めたなら、タンクは釘打ち機のグリップ内部に収まり、サイズも打込む釘の長さの2倍強まで短縮できる。
現実的には、金属材料の耐久性や使用時の反動・騒音、Oリングの寿命などもあり極端な高圧化による小形化は不可能だが、AIRBOWは超高圧を現実的な製品として開発した所が素晴らしい点だ。
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製品としては非常に面白く、今後の改善や他の釘へのバリエーション展開も期待されるAIRBOWなのだが、コンプレッサーだけが大きなネックとなってしまっている。コンプレッサーのサイズは勿論、寿命などは全くの未知数で、職人が安心して使えるかなどは市場の評価を待たなければならない。
競合他社と比較するなら、HiKOKIのコードレスフレーミングネイラは大きなライバル機となるだろう。
HiKOKIのコードレスネイラの利点は「コンプレッサー不要」「バッテリーの汎用性」であり、AIRBOWの利点は「本体重量の軽さ」「レスポンスの良さ」だ。この裏返しがそのままライバル製品の欠点となる訳だが、この欠点はどちらのメーカーも製品戦略や改良などで解決可能と考えている。
見えてる範囲で考えるのであれば、コードレス釘打ち機として市場に受け入れられるのは間違いなくHiKOKIの製品となるだろうが、両製品とも未だ発展途上にある製品であり、この先のポテンシャルは未知数と言ったところだ。
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ただ、釘打ち機における要素技術の技術革新は存在していないのも事実だ。この点で言うなら、釘打ち機のコードレス化は非常に無理をして実用化している印象も受けている。
現実的に、各社例外なくコードレス釘打ち機そのものが現在主流のホースを繋ぐ方式を超える実用性に至っておらず、未だ発展途上なカテゴリであることを理解しなければならないだろう。
AIRBOWの日本市場での販売は不可能に近い
AIRBOWの日本販売は不可能に近い。その理由は、法規制への対応と日本市場の独自性の2点が根拠になる。
コードレスの釘打ち機全般に言える事だが、日本では銃刀法への対応が必要となる。AIRBOWとしては、工機HDのフレーミングネイラや京セラのSENCO製品による日本市場の先行販売による実例がなければ日本への販売活動自体が不可能と考えられる。
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2つ目の日本市場が抱える独特な空気工具市場も障壁だ。日本は海外とは異なるマーケットが展開されており、金物屋主体の販路構築や、MAXの高圧空気工具などが海外空気工具メーカー参入の大きな障壁となっている。これらの課題を解決しなければ、販売できたとしても採算ベースの売上を達成するのは不可能だ。
新興メーカーであるAIRBOWの立場とするならば、海外展開先の順序として厳しい法規制や独特な市場を形成している日本市場は後回しとし、米国のような参入しやすい市場を優先するだろう。