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2021年10月30日

電動工具の互換バッテリー事故が急に増えた理由【コラム】

電動工具の互換バッテリー事故が急に増えた理由【コラム】

※本記事は編集部記者による情報収集・業界研究・独自考察を元に構成しています。

なぜ2018年から互換バッテリー発火事故が急増したのか

ここ最近、互換バッテリーによる発火事故による危険性やネット販売のトラブルが大きく取り沙汰され、互換バッテリーは危険な製品として広く認知されるようになりました。

ここ最近の事故例から「互換バッテリーは危険!」のような共通認識が広まるのは喜ばしい限りですが、実は、電動工具の互換バッテリーはリチウムイオンバッテリー対応の電動工具の展開が始まってから長らく販売が続いている社外アクセサリー製品の一つです。

危険性の高い製品が古くから販売されているのであれば、もっと以前からその危険性について話題になっていても良いと思いますが、その危険性が認知されるようになったのはこの数年の間です。

なぜ、この数年の間に互換バッテリーの危険性が認知されるようになったのでしょうか。

ここで1つ興味深いデータがあります。互換バッテリーの製品事故のデータは、製品評価技術基盤機構(以下nite)が年度別の事故発生件数を公開しています。

これは非純正のリチウムイオンバッテリーの年度別の発生件数をまとめた資料です。2017年以前は電動工具用の互換バッテリーを起因とする製品事故はほとんど発生しておらず、2018年以降から急増していることがわかります。

2019年は非純正バッテリー全体の製品事故が多発しているようにも見えますが、2019年の充電式電気掃除機の製品事故は「SHENZHEN OLLOP TECHNOLOGY社製バッテリーパック」による特定メーカーの事故が多発した年で、一過的なものと考えられます。

スマホ・LEDヘッドライト・ノートパソコンの非純正バッテリーは概ね横ばいであり、増加傾向にあるのは充電式電動工具用バッテリーだけです。

本記事では、なぜ2018年以降電動工具の互換バッテリーだけ事故が増えてしまったのかを考察します。

2018年以降の事故多発の背景にあるのは超急速充電器か

2018年以降の電動工具互換バッテリーが多発した要因として12A充電の超急速充電器の登場が深く関係していると推測しています。

現在の電動工具用充電器は12Aで充電を行う超急速充電仕様です。12Aの超急速充電器は2015年に日立工機がUC18YDLの発売を開始し、追って2018年にマキタもDC18RFを発売しました。

以前、当サイトで検証した通り、電動工具用互換バッテリーの多くが急速充電に対応できない低充電レートのリチウムイオンバッテリーセルを採用しています。

低レートのリチウムイオンバッテリーに対して大電流充電を行うと、リチウムデンドライトと呼ばれる金属析出現象が発生し、セル内部の劣化が著しく進行して性能低下や発火の原因に繋がります。

筆者は低充電レートの安いバッテリーセルで最大9Aの充電を行ってもギリギリ発火せずに踏ん張れていた互換バッテリーも、より大きな電流で充電を行うDC18RFの登場によって発火リスクが増大してしまったのではないか?と考えています。

マキタバッテリー互換の保護基板について

事故多発のもう一つの要因になったと考えられるのが、マキタ互換バッテリーに搭載されている保護基板です。

実は、マキタのリチウムイオンバッテリーは、初期の基板と現在の基板で回路構造が大きく異なります

2005年に登場した初期のマキタリチウムイオンバッテリーは現在の保護基板よりも簡素な仕様で、単セル毎の電圧個別監視や出力遮断保護などの保護機能を搭載していませんでした。

(左)マキタ初期BL1430バッテリー 保護基板
(右)マキタ互換BL1860Bバッテリー 保護基板

マキタ互換バッテリーのほとんどがマキタ初期型バッテリーのコピー基板を搭載しています。

この互換保護基板は過電流保護や高負荷時の遮断機能が非搭載で、バッテリーが異常な状態になってもそれを検知して止める機能がありません。

超急速充電器は日本以外でほとんど売られていない

少し話は逸れて海外の話題になりますが、海外市場では互換バッテリーの発火事故の報告は多くありません。

DIYフォーラムの互換バッテリーの話題では「価格が安い値段相応のバッテリー」と評価されており、互換バッテリーの危険性については日本ほど話題になっていないようです。

訴訟大国と揶揄される米国でバッテリー発火の製品事故が大きな社会問題にならないのも不思議です。筆者はこれも超急速充電器が関連していると推測しています。

実は、先程取り上げたマキタ超急速充電器 DC18RFは日本市場向けの製品で、米国をはじめとするほとんどの海外市場は超急速充電器の取り扱いがありません

米国マキタで主に販売されている充電器は一世代前のDC18RCや2口充電器のDC18RDです。これにより2017年以前の日本の状況と同じく、発火事故はあまり発生していないと考えられます。

Makita USAの[DC18RF]検索結果
Makita Germanyの[DC18RF]検索結果

これに関してはHiKOKIも同様で、海外市場では旧モデル充電器のUC18YSL3を主力充電器として販売しています。

社外品のリスクが浮き彫りになった互換バッテリー発火

ここまでまとめると、2018年以降、電動工具用の互換バッテリーの発火事故が多発した理由は、以下の3点が要因と推測されます。

  • 低レートセルの採用
    大電流充電を許容できない
  • マキタ初期バッテリーのコピー基板
    各セルの電圧検出機能が無く、過放電・過充電に対する保護遮断機能もない
  • 超急速充電器DC18RFの普及(2018年以降)
    低レートセルは大電流充電によって異常を起こしやすくなる

根本的な原因は、電動工具に適さない低レートセルの採用です。低容量・低レート・低価格バッテリーセルを採用しているため、電動工具に対しての使用は発火事故リスクが増大します。

その互換バッテリーに搭載しているのが、マキタ初期のバッテリー基板をコピーした保護基板です。古い基板をコピーした保護回路を流用しているため、大電流充電の制御や過充電保護に対する保護が不十分であり、リチウムイオンバッテリーの十分な安全性が確保できていません

そして、2018年に最大12A充電の超急速充電器 DC18RFが登場したことによって、発火にまでは至らなかった互換バッテリーの最後の一線を完全に超えてしまい、発火事故の多発に至ってしまったと推測しています。

さらに、マキタ製品のユーザー層の広さも互換バッテリーの事故多発に拍車をかけています。

マキタの充電式工具はクリーナーやライト、園芸機器などの電動工具に縁の無かったライトユーザー向けの製品を数多く展開しており、プロユーザーのみならず一般家庭ユーザーまでもがマキタ製品を使用しています。

実店舗で工具を購入するプロユーザーと異なり、家電中心のユーザーはECサイト販売の製品への抵抗が薄く、マキタ純正品の横に並ぶ低価格の互換バッテリーを見て、そちらに多く流れてしまうユーザーも多かったのでしょう。

製品事故が報告されている電動工具互換バッテリーの大多数がマキタ互換品を占める(画像クリックで拡大)
画像引用:令和元年度事故情報収集結果(R01年度第2四半期)

互換バッテリーのリスクは使い方で減らせるものの

本記事は「充電電流の増加」と「充電器の変更による影響」を焦点に考察していますが、低速充電器を使うことによってバッテリー発火を確実に防げると断定するものではありません。

発火事故のリスクについてはある程度減らせるとは予想していますが、互換バッテリーが搭載するセルの問題や保護回路の問題はリスクとして内包されており、どの充電器を使用しても根本的なリスクの有無は変わりません。

近年はマキタユーザー増加によってマキタ互換バッテリーの市場規模も大きくなり、得体の知れない互換バッテリー製造業者が多く参入しているのも事実です。niteでは保護回路が無い互換バッテリーの存在も報告しており、ユーザー側で安全な互換バッテリーを見つけるのはほぼ不可能に等しいでしょう。

製造物責任法においても、企業責任の所在が曖昧な方法で販売されている互換バッテリーも多いので、万が一の安全性や実際の製品事故のリスクを考えると純正バッテリーの使用を推奨します。

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