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2022年8月2日

HiKOKI マルチボルトとマキタ 40Vmaxの違い、どちらがおすすめ?【2022年改訂】

HiKOKI マルチボルトとマキタ 40Vmaxの違い、どちらがおすすめ?【2022年改訂】

この記事では、電動工具36V化のメリットと電動工具国内2大メーカーのマキタとHiKOKI(日立工機)がそれぞれ展開する36V電動工具シリーズの違いについて解説します。

電動工具の36V化の本質はモータパワーの上昇

電動工具の36Vで動かす最大のメリットは高負荷に強くなる点です。原理上、 モーターは電圧を高くして電流を少なくするほど熱損失が減り効率が上がる特徴があります。

18Vと36Vで消費電力が同じモーターの場合、36Vのモーターは18Vモーターの半分の電流で同じパワーになるのでモーターの発熱による損失が小さくなり効率が上昇します。基本的に最大出力の限界は熱損失が大きな要因を占めるため、温度による保護停止が発生し難くなることで高負荷対応が容易になったり連続稼働時間が増えたりするメリットがあります。

ただし電動工具バッテリーの36V化はこれまでの18Vバッテリーの配線を組み替えて36Vに変えたものに過ぎず、バッテリー自体の根本的な性能向上は伴っていません。

36V化のメリットは高出力を必要とする大型インパクトレンチや大型ハンマ・グラインダ・丸のこなど一部の重負荷作業に限られ、普通のインパクトドライバのような小型電動工具においてはメリットは大きくありません

リチウムイオンバッテリーそのものの性能も従来の18Vバッテリーから大きく変わっていないため、作業量や用途そのものに大きな革新をもたらしたものではなく、電動工具の36V化は、18V比較で若干効率が上がっている程度でしかないことに留意しましょう。

(上)マキタの36VインパクトTD001Gのセールスポイント
(下)HiKOKIの36VインパクトWH36DAのセールスポイント
図は異なるが、両社とも基本的な36Vのメリットとしてはほぼ同じ事を言っている。作業スピードは1割程度だが、連続作業性が上がっているのがポイント。

今後36V電動工具は主流になるか

36V電動工具は18V電動工具と性能を比較して、買い替えを喚起する程の性能向上を実現している製品なのでしょうか。

実際のところ、電動工具の36V化はそこまでの性能向上を実現しているとは言い難い製品です。

「高負荷に強い」などの利点はありますが、そのメリットを受けられるような使い方をしているユーザーは一部であり、現行の18Vユーザーにとっては現状の18V電動工具やAC電動工具をそのまま運用し続ける方がコスト的な面で遥かに有利です。

ただし、電動工具メーカーが36V化を推進し始めた以上、今後開発される製品は36V対応の製品中心になると考えられます。しばらくは18Vとの互換性が保たれ、18Vと36Vそれぞれの製品が併売されると予想されますが、メーカーが「36Vが普及した」と認識したタイミングで18Vの新製品展開が打ち切られる可能性を考えなければなりません。

新しく電動工具を購入する場合や、故障からの買い替えなどのきっかけがあり、予算が十分にある場合なら36Vの選択も十分選択肢に入ります。

現状の36V電動工具の評価としては、普段から温度保護や連続作業で作業が止まって困ることが多いヘビーユーザーに対してはおすすめな製品ですが、手持ちの電動工具に満足しているユーザーに対しては無理して購入する程ではないと言えます。

メーカーによる36Vシリーズの違い

国内ブランドによる36V電動工具はHiKOKI(日立工機)が展開するマルチボルトシリーズと、マキタが展開する40Vmaxシリーズを展開しています。

性能的な面では「マキタ40Vmaxの方が数字が大きいから性能が良い」なんてことは無く、動作電圧が同じ36Vである点からほぼ同等です。ただし、マキタ40Vmaxシリーズの場合は高出力Fバッテリーを展開しているため、F推奨製品の電動工具については40Vmax優位です。

性能以外の部分では18Vバッテリーシリーズ以上に個性があり、マルチボルトでは「18Vシリーズとの互換性」、40Vmaxでは「IP56対応の防水防じんバッテリー」と付加価値に違いがあります。

36Vの電動工具シリーズのどちらかを選ぶのかの基準は、18V電動工具の時と同じく製品ラインナップ数やメーカーのサポート、周囲のユーザーとバッテリーを揃える必要性などが重要になります。

36V電動工具シリーズプラットフォーム比較

※優位点は太字

シリーズ名 HiKOKI マルチボルト マキタ 40Vmax
シリーズロゴ
バッテリー電圧 36V-18V 36V
18V互換 PDC01で対応可
バッテリー種類 BSL36A18 (2.5Ah)
BSL36B18 (4.0Ah)
BSL36C18 (1.5Ah)
BSL36A18B (2.5Ah)
BSL36B18B (4.0Ah)
BL4025 (2.5Ah)
BL4040 (4.0Ah)
BL4050F (5.0Ah)
BL4080F (8.0Ah)
背負い式電源 BL36200 (21.0Ah) PDC01 (最大12.0Ah)
PDC1200 (33.5Ah)
拡張規格 × 80Vmax
防水・防じん × IP56
ACアダプタ ET36A ×
Bluetooth 末尾B バッテリー ×
ラインナップ数
(2021年10月時点)
36V 71モデル
18V 89モデル
140モデル
製品拡充ペース
(過去1年実績)
約1モデル/月 約4モデル/月

18Vの互換機能を搭載するHiKOKI マルチボルト

HiKOKI(日立工機)が展開する36V電動工具はマルチボルトシリーズです。マルチの名前を冠する通り、複数の電圧出力構造を持ち、36V出力だけではなく18V出力の互換機能を備えています。

マルチボルトバッテリーを使えばこれまでの18V電動工具とマルチボルト36V電動工具をマルチボルトバッテリー1つで対応できます。HiKOKI(日立工機)の18Vユーザーであれば、これまで使用してきた電動工具をそのまま使い続ける事が可能です。

マルチボルト対応の36V電動工具であれば、ACアダプタ ET36Aを使ったAC電源から直接コードレス電動工具を使う方法にも対応するので、バッテリーでのコードレス運用からAC電源のような定置運用まで広く対応できるのが大きな強みです。

ちなみに日立工機は2005年の初のリチウムイオンバッテリー対応電動工具を出したときも当時のニッケル水素バッテリーとの互換性を有したバッテリーを販売しており、バッテリーの互換性を重視するのは日立工機からの企業文化と言えます。

18V互換機能によるパワーや効率低下の心配はなし

一部の電動工具ユーザーの間では「マルチボルトは18V互換のため36Vの力を発揮できない」と囁かれていますが、HiKOKIのマルチボルトバッテリーは18Vと36Vどちらの動作でも力を発揮できる構造になっています。

その仕組みは、配線の切り替えによる直並列の切り替えで実現しています。変圧回路やトランスによる変換ではないため、18Vと36Vの互換性を持たせたからと言ってパワーの低下や制限を心配する必要はありません。

マルチボルトの端子構造解説図。(左)18V製品差し込み時、(右)マルチボルト36V製品差し込み時
マルチボルトの電圧切り替えは、バッテリー端子と工具端子間の配線切替によって実現しているため、電圧切り替えに伴う損失やパワー低下などは発生しない。(参考:特開2019-021603)

Bluetooth内蔵バッテリーで全ての電動工具が集じん連動対応に

マルチボルトバッテリーの魅力は18V-36V対応機能だけではありません。末尾BのマルチボルトバッテリーはBluetoothコントローラを内蔵し、全ての電動工具が集じん機と無線連動できるようになります。

これまでの充電式電動工具の無線連動は、無線連動に対応する電動工具やBluetoothコントローラの接続が必須でしたが、BSL36A18B・BSL36B18BバッテリーはBluetooth機能をバッテリー側に内蔵しているため、マルチボルト以前に発売した18V電動工具まで集じん機と連動できるようになり、綺麗な現場を実現できます。

バッテリーでIP56対応を実現する40Vmax

マキタが2019年10月に新しく展開した36V電動工具シリーズが40Vmaxシリーズです。

40Vmaxシリーズは、電動工具業界として初の防水防じん規格IP56に適合しているのが特徴です。防水対応の電動工具と合わせればバッテリーと工具の両方の防水対応を実現できる唯一のシリーズとなっています。

ブランド名こそ40Vmaxと表現していますが、中身はマルチボルトと同じ36Vバッテリーであり、後発のマキタは営業戦略上この名前にしたものと推測されます。

40Vmaxシリーズは残念ながら現行の主力シリーズの18V(LXT)シリーズやこれまでに展開していた36Vシリーズとの互換性は無いものの、40Vmax充電器での18Vバッテリー充電やポータブル電源 PDC01など、ごく限られた条件下でマキタ18Vバッテリーを活かすことができます。

画像引用:マキタ総合カタログ2021-10

ポスト エンジン機器の最有力候補のバッテリープラットフォーム

40Vmaxシリーズは園芸機器の拡充が進められていて、最近活発な脱エンジン工具の受け皿となり得る充電式シリーズへと成長しつつあります。

2020年の12月には40Vmaxバッテリーを2本装着する拡張規格 80Vmaxシリーズの展開も始まり、世界最強の充電式刈払機 MUR012Gを発売するなど、エンジン式園芸機器に匹敵する性能を備えるまでになりました。

80Vmaxの製品数はまだ少ないものの、米国では80Vmax エンジンカッターの近日発売も発表しており、40Vmaxシリーズは小回りの利く小型工具から高出力大容量な大型機器まで幅広い電動工具をサポートできる充電式工具シリーズとして大きなポテンシャルを秘めています。

企業規模からマキタが優勢になりつつある

2020年3月時点のマキタと工機HDの企業規模の差。企業そのものの規模を比較すると多くの項目で倍以上の差が付いており、製品開発力も倍近い差が出始めている。

この記事を公開した2019年、そして2020年の1回目の改定においては、HiKOKIが2年分先行している分「マルチボルトシリーズにアドバンテージがある」と解説していましたが、2021年時点でその評価は逆転しています

結論から言ってしまえば、数年のうちにマルチボルトと40Vmaxの製品ラインナップ数は逆転し、HiKOKIマルチボルトの優位性は失われることになると予想しています。

マキタ40Vmaxシリーズはこの2年で驚異的なまでに製品ラインナップを伸ばし、36V対応電動工具の数に限ればHiKOKIマルチボルトを凌ぐまでに拡充が進んでいます。HiKOKIは18V/36V兼用の有利な条件でありながら製品拡充ペースの低下が目立ち、マイナーチェンジや付属品の変更で新製品を謳いお茶を濁している状態が目立ちます。

過去1年の製品投入ペースを算出すると、マルチボルトシリーズは月に0~3台のペースで新製品を投入していますが、マキタ40Vmaxは1~5台の新製品を継続的に投入しており、約1.5~2倍近い製品投入頻度の差が生まれていて、2023年後半にはマキタ40Vmaxが製品数優位となります。

マルチボルトシリーズに関しては、過去の電動工具資産を生かす意味では18Vシリーズから日立工機を使い続けてきたユーザーとしてはコスト的な利点があり、油圧工具や一部の切断工具でマルチボルト独占の充電式電動工具があるため、現場作業に使う電動工具そのものとしての評価ではマルチボルトも未だ十分に優位性を持ちます。

将来性の観点を含めて評価すると、マキタと工機HDの決定的なまでの企業力の差を起因とする製品拡充スピードの差はもはや埋められるのではなく「マルチボルト独占の製品であったとしても数年待てば40Vmaxで出てくる可能性が高い」状況であると言えます。

充電式の園芸機器においては最も企業差が進んでいる分野であり、拡張規格の80Vmaxシリーズの展開が始まった以上、長期的な展望として考えれば国内36V電動工具の覇権は40Vmaxシリーズが優勢であり、新しく電動工具を買い始める方であればマキタ 40Vmaxがおすすめと言えるでしょう。

2021年のHiKOKI大ヒット製品 UL18DB。この製品はマキタCW180DZの評判を聞いて僅か1年で販売に漕ぎ着けた製品と予想している。裏を返せば企業資本力で優れるマキタの方が開発力に置いては元々優位であり、マキタもUL18DBでやられたことと同じことを倍の規模で行うことができるとも考えられる。
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