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作業現場のロボット化はどこまで進んでいるのか?技術動向ピックアップ

作業現場のロボット化はどこまで進んでいるのか?技術動向ピックアップ

産総研 HRP-5P 人間型作業ロボット

産業技術総合研究所(産総研)の開発した作業用ロボットがHRP-5Pです。

HRPシリーズは、人間型ロボットの実用化を目指す研究開発プラットフォームとして、ビル・住宅、航空機や船舶などの大型構造物組立現場でのさまざまな作業の自律的代替を目指す包括的なロボット知能のプラットフォーム化として研究が進められているプロジェクトです。

2018年には報道公開が行われており、石膏ボードを持ち上げて壁面に固定し、自律的に石膏ボード張る様子が公開されています。

人が行っていた現場作業そのままでのロボット化を進めるためには、現場の3Dモデル化やセンサ類の施工・作業オペレーターの教育など、ロボット化以外の部分の課題も多く、実用化は相当先になると予想されますが、人員不足と作業負担軽減の問題を一気に解決する技術として期待されています。

建ロボテック トモロボ 鉄筋結束ロボット

2022年現在、作業用ロボットとしては鉄筋結束ロボットの発展が進んでいます。株式会社建ロボテックのトモロボは、土間・スラブ面の鉄筋結束を自動で行います。

土間やスラブの鉄筋結束作業は、面積が広く作業者に対する体の負担が大きい作業でしたが、鉄筋結束ロボットは鉄筋の交点を感知する機能を備え、鉄筋の上を移動しながら自動的に結束を行わせることができます。

トモロボが掲げているのは「協働型ロボット」です。結束作業全ての完全自動化を実現するものではありませんが、その分導入コストは低く、負担の大きい単調な作業を自動化することにより職人はより高度な作業に取り組める利点があります。

ちなみにトモロボの鉄筋結束は、マックスの鉄筋結束機 リバータイアを装着する方式を採用しています。

この辺りはコスト的に安上がりにするための構造と推測されますが、より柔軟で高度なロボット結束の自動化の実現のため、マックス・マキタなど鉄筋結束機の技術を持つ電動工具メーカーとの協業による共同開発・クロスライセンス・資本投入等などの積極的な市場創成に期待したいところです。

大成建設 T-iROBO Rebar 鉄筋結束ロボット

大成建設が千葉工業大学と共同開発したのは、T-iROBO Rebar鉄筋結束ロボットです。

ロボット本体の大きさは幅40cm×奥行50cm×高30cm、全重量は20kg以下とコンパクトサイズで軽量なため、作業員1名で持ち運びが可能な特徴を持ちます。

当時のプレスでは、「2018年度から本ロボットを本格的に現場導入」と記載があるものの、基本的な情報は2017年発信の情報のみで、2022年時点においてT-iROBOシリーズ公式ページ上にT-iROBO Rebarの情報が無く、千葉工業大学サイドからの続報プレス発信も無いため、開発中止に至っている可能性があります。

ヒルティ JAIBOT 半自動天井向け墨出し・穴あけ支援ロボット

電動工具や資材でお馴染みのヒルティが実用化しているのは、穴あけ支援ロボット JAIBOTです

JAIBOTは、半自動で天井への墨出しと穴あけを行う支援ロボットです。完全自立のコードレスロボットであり、最大8時間の作業時間と粉じん除去システムを搭載によって、負担の大きい大規模現場の穴あけ作業でも軽快に進められます。

竹中×鹿島×清水 ロボットプラットフォーム

出典:清水建設

スーパーゼネコンの竹中工務店・鹿島建設・清水建設の3社は、新規施工ロボットの共同開発や既存ロボットの相互利用のロボットプラットフォームに参画しています。

このプラットフォームは、BIMデータを基準とする建設モデルに仕上げ方法やコスト、管理情報といった属性データを追加して運用するもので、開発はベンチャー企業のブレインズテクノロジーが担っています。

2019年開発の竹中工務店 墨出しロボットのほか、AI制御機能搭載の鹿島建設 NEWコテキング、汎用多機能ロボット 清水建設 Robo-Buddyなどが統一されたロボットプラットフォームで動作されることが期待されます。

ちなみに、このロボットプラットフォームに関連して竹中工務店/鹿島建設/清水建設のスーパーゼネコンを幹事会社とするゼネコン27社と関連企業105社による「建設RXコンソーシアム」が策定されており、業界を挙げて今後の建設業の高齢化や人手不足に積極的に対応するとしています。

国内ゼネコン・関連企業が集うコンソーシアムには期待するが、IoTやクラウドなどの活用を掲げる公式HPがサポート切れのWebブラウザを推奨するのは若干疑問にも思う。ちなみにサイトの一部はURLにIPアドレスでのリンクが張られているページもあり、色々と今後の危うさを感じられる。

SkyMul SkyTy ドローン型鉄筋結束ロボット

画像引用:SkyMul

米ジョージア州アトランタのロボットベンチャー SkyMul社が研究を進めているのは、ドローン型の鉄筋結束機 SkyTyです。

SkyMul社は、画像認識により鉄筋の交差を検出して自律的に結束を行うドローン型結束ロボットを開発している企業です。公式ページ内の広報向け動画では空から鉄筋交差部の画像検出を行い、自動的に結束作業を行なっている様子を見ることができます。

現在のSkyTyプロトタイプは土間・スラブの試験的な結束作業に留まっていますが、ドローンのような自由自在に動き回る機動力を生かせれば、マニュピレータと画像検出の技術発展次第で、より複雑な形状の鉄筋結束作業の自動化に対応できる可能性があります。

SkyMul社は小規模なベンチャー企業ですが、実績は積み上げられており、マイルストーン達成と技術動向次第で今後大きく躍進する可能性がある企業として注目しています。

マキタ 鉄筋結束ロボット(特許のみ)

電動工具メーカーのマキタも鉄筋結束ロボットに関する特許を出願しています。

特許出願段階の情報であるため詳細は不明ですが、競合他社の鉄筋結束ロボットと比較すると、鉄筋結束機・ロボットユニットともにマキタ一貫した開発体制で開発されることから結束機の機器制御やバッテリー技術の点で優位性があり、資本力を振りかざした営業戦略や特許回避戦略によって、現在の鉄筋結束ロボットの市場構造を一気に塗り替える可能性があると予想しています。

マキタが本格的に鉄筋結束ロボットに取り組んでいくかは未知数ですが、マキタはロボット掃除機を始めとするロボット製品や大型製品で実績があり、2020年から継続的にロボット鉄筋結束機の特許を出願している点も考慮すると、ペースは遅めながらもいつかは実用化するのかもしれません。

HiKOKI 汎用作業ロボット(特許のみ)

電動工具の製造・販売を行う工機ホールディングス(旧 日立工機)もロボット作業機に関する特許を出願しています。

特許では、「自走式作業機」として出願を行なっており、キャタピラで移動してコーキング作業やはつり作業などを行う汎用的な遠隔作業ロボットをイメージしているようです。ただし特許出願としては対象が広すぎて用途がいまいち定まっておらずコンセプト止まりな内容です。

電動工具に変わる工機HDの新たな事業として今後に期待したい特許ではあるものの、現在の工機HDはロボット技術に関するノウハウに乏しく、ファンド資本下にある現在の経営状態も加味すると、積極的な研究開発は難しい分野だろうと推測しています。

近年の人材採用状況を見ても、ロボット技術に関する人材採用や継続的な特許出願は無く、資本増強の動きも見られない為、長期的な視点としても事業・実用化は当面無いと考えられます。

建設現場のロボット化は電動工具産業パラダイムシフトの有力候補

電動工具産業は、過去何度かの変革を受けている産業です。代表的な例でも、90年代のプレカット普及によって大型電動機械・現場向けの刻み工具の需要が落ち込み、00年代にはリチウムイオンバッテリーの普及によって電動工具の充電式化が進んで市場が拡大しています。その度に電動工具メーカーは大きな影響を受けています。

電動工具産業が影響を受ける今後の変革候補としては、次世代二次電池によるバッテリー性能の向上や充電式電動釘打ち機の普及などがありますが、筆者は作業現場のロボット化こそ次の電動工具産業における強力なパラダイムシフトになると考えています。

現在の建設業は、ゼネコンやハウスメーカーを元請けとし、協力企業への発注が基本的な産業構造になっていますが、ロボット化が進めば、ゼネコン自ら開発した作業ロボットへの置き換えによって下請けの現場作業員を必要としなくなる未来も考えられます。そうなると、電動工具を使用するユーザー数が減少する可能性も十分あり得ると考えられます。

昨今の建設産業は高齢化・人員不足の影響を大きく受けており、作業員のロボット化を進めることによってこの問題を解決したいところでしょう。

ただし、現場作業のロボット化は、作業現場を3Dモデル化したBIMとの連携を前提としており、作業ロボット専門オペレータの新設や現場向け制御ネットワーク基盤、ロボット運用を前提とする全く新しい作業計画、人を中心とした作業からロボット作業に向けた法整備など、官民合わせた大きな見直しが必要になります。その移行は緩やかに進むと考えられ、仮に作業ロボット化が進んだ未来が来るとしても四半世紀ほど先の話になるだろうと考えています。

もちろん、現在でも在来工法や手刻みを行う大工さんの需要があるように、ゼネコンやハウスメーカー主導でロボット化が進んだとしても電動工具が全て不要になる訳ではありません。とは言っても、作業ロボット化が進み、建築現場作業にまでその領域が及んだ場合、電動工具の需要が減少する未来は十分あり得ると考えられます。その時には電動工具産業の再編が起こることになるだろうと予想しています。

そんなロボット時代の電動工具メーカーは、運さえ良ければ作業ロボットのモジュール開発事業へ転身しているかもしれません。

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