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2024年2月24日

USB PDの規格(仕様)違反とは何か?問題点などを解説

USB PDの規格(仕様)違反とは何か?問題点などを解説

よくあるUSB PD規格違反例

USB PD最初の規格となるUSB PD Rev:1.0は2012年に発表されました。USB PDは、USB 3.1やUSB Type-Cコネクタへの対応などの大きな変更を何度も受け、現在のUSB PD Rev:3.0に至るまでにも混乱がありました。

その影響でUSB PD仕様が曖昧なまま開発が進められた製品も多く、その結果、故意または過失両方のケースで規格に適合しないUSB PDデバイスが流通することになりました。

USB PDとそれに関連する細かな違反例全てに言及するとキリがないので、今回は代表的なUSB PD規格違反例を紹介します。

よくある違反事例① USB PDが定めるパワールールを守っていない

USB PDの規格違反例として最も多いのが、USB PDで定められているパワールールが守られていない違反です。

USB PD供給機器は、複数の電圧出力仕様に対応するため、最大出力に応じた出力電圧/電流値についての仕様が定められいます。具体的には、下記の表・図に従った出力仕様に対応しなければいけません。

出力\電圧5V9V15V20V
15W以下(出力電圧÷5)A
15Wを超え27W以下3A(出力電圧÷9)A
27Wを超え45W以下3A3A(出力電圧÷15)A
45Wを超え100W以下3A3A3A(出力電圧÷20)A
Universal Serial Bus Power Delivery Specification R3.0,V2.0+ECNs[画像参考]

例えば、最大出力18Wの充電器であれば「5V/3Aと9V/2A」の2出力を備えた動作仕様に対応しなければいけませんし、45Wであれば「5V/3Aと9V/3Aと15V/3A」の3仕様の出力に対応しなければ、USB PDで定めるパワールールを満たしたことにはなりません。

この違反例で代表的な例としては、15Wを超えるUSB PD充電器でありながら、5V出力が2.4Aまでしか対応していない例です。ほかの有名どころでは、Switch付属のACアダプタもUSB PDの規約違反に当たります。

任天堂switchに付属する純正ACアダプタ(39W)。このACアダプタはUSB Type-Cプラグを搭載しUSB PDのプロトコルに準じた給電仕様を備えるが、この出力仕様のUSB PD充電器の場合、5V/3A, 9V/3Aの出力にも対応しなければならない。

本来、このルールがあれば、ユーザーはパワールールによる電圧や電流の存在を意識しなくても、USB PD充電器の出力電力値を見るだけで適切な機器を選べるメリットがあるはずです。しかし、このルールが守られていないと電圧や電流出力仕様まで確認しなければならなくなります。

例えば、スマホの充電時の最大受電力が15Wなら、15W以上出力できるUSB PD充電器を選べばよいことになります。

この場合、USB PDで15W受電を行うには2通りの手段があり、5V-3.0Aと9V-1.66Aのどちらかが選ばれることになります。

5V-3.0Aで15W受電するスマホの例を考えてみましょう。USB PD充電器の出力仕様が5V-2.4Aの場合、スマホ側は15W充電ができず充電速度が遅くなるなどのトラブルが発生します。

よくある違反事例② スペック表記とPDOの内容が異なる

本体に刻印されているスペックとPDOが異なる問題です。

従来のACアダプタは、ハード的な最大出力仕様や保護停止の製品仕様値をラベルに記載するのが一般的でした。

USB PDの場合、最大出力の仕様はハードウェア側ではなく、ネゴシエーション後のPDOによってソフトウェア的に出力状態を選択する仕様になっています。そのためソフトウェア仕様上のPDOを製品ラベルに記載する必要があります。

よくある違反事例③ Type-CコネクタでUSB PD以外の急速充電規格に対応している

USB Type-Cは、USB-IFが定める方法以外で供給電圧を変動させることを禁止しています。簡単に言えば、USB Type-CコネクタはUSB PD以外で電圧を変動させることを認めていないと考えれば良いでしょう。

5Vより高い電圧を加える独自規格としては、Qualcomm QuickChargeやHUAWEI Smart Charge Protocol、Samsung AFCなどが該当します。これらの独自規格に同時対応するAnker PowerIQなどの給電技術もこの違反に該当します。

とあるUSB PD充電器の急速充電対応リスト。USB PD18W対応のほか、QuickCharge2.0/3.0に対応している。

USB PD以外の独自充電規格で充電を行うと、100W対応USB PDケーブルなどに搭載されているeMakerチップを破壊する可能性があります。

eMaker内蔵のケーブルでQuickChargeなどの電圧を変動させる独自規格急速充電を行うとケーブルを破壊する可能性がある。

この問題点の詳細に関しては、Nathan K氏のレポートやhanpen氏による追証で言及されています。

よくある違反事例④ 形状だけType-Cコネクタを採用

厳密にはUSB PDではなくUSB Type-Cの運用違反に当たりますが、USB PDに関連する違反例としては最も冒涜的な規格違反です。

USB Type-CはUSB PD以外の給電電圧変更を認めていませんが、下記写真のACアダプタは従来の丸型プラグをType-C形状に置き換えただけのACアダプタや、充電制御のための通信や保護を一切入れていない製品です。

画像引用:CHUWI MiniBookのUSB PD周りをレビュー。N4100版は最大24W充電可、ただし12Vのみ対応|AndroPlus

実質的にこのACアダプタは従来と同じ丸型のACアダプタと同等の製品なのですが、形状はUSB Type-Cなので、スマホやタブレットなどにも接続できてしまいます。誤って接続すると機器を破損します。

これはなかなか根の深い問題です。USB PDはあくまでも設計指針の扱いなので法的拘束力は無く、この手のUSB PDに適合しないACアダプタを流通させたとしても罰則もありません。

本来、規格違反の責任は「勝手なACアダプタを作ったメーカー」や「確認しなかったユーザー」側にありますが、このような製品がある程度まで普及してしまうと「普及品に対して、機器メーカーが対策を行わなかったことが原因」として責任の矛先が変わってしまう場合があります。

この場合、業界の暗黙として対応策を組み込むことになりますが、事情を知らない新規参入メーカーによる製品事故の再発や、規格化や法規制の適応が遅れる原因にも繋がり、結果的に製品事故の多発や人身災害、コストアップのような形でユーザーが不利益を受けることになります。

USB PDコントローラICの普及により、先述までのUSB PD違反例は少なくなってくると予想されますが、この「形状だけType-C」問題の背景は開発側による「USB PDの意義を根本的に理解していない」や「採算重視の故意的な仕様」を原因としているため、最も根の深い問題と認識しています。

よくある違反事例⑤ USB PD充電器でデバイスが動かない・充電できない

これはUSB PDではなくUSB Type-Cの運用の違反に当たり、Type-Cのシンク(デバイス)側の規格違反です。

USB PD充電器はコールドソケットと呼ばれる動作を備えており、機器が接続されていない時には出力を停止する仕様になっています。そのためUSB PD充電器においては単純にコネクタを接続しただけだと給電は開始されません。

Type-Cコネクタを搭載するデバイスは、PDプロトコルまたはCCプルダウン抵抗によって接続されたことを充電器に通知する回路を備える必要があります。しかし、一部のType-C搭載デバイスはこの機能が省かれており、USB PD充電器が接続を検知することができない仕様になっています。

この規格違反デバイスはType-A充電器をCコネクタに変換するケーブルであれば使用できるものの、USB PD充電器でC to Cのケーブルを使用した時には使用できなくなる特徴があります。

2021年現在でもこの規約違反に該当するUSBデバイスは少ないものではなく、有名メーカーの製品であってもこの規格違反を内包しています。

USB充電規格の混沌の果てに生まれたUSB PD

USB PD以前の給電規格はメーカー毎の独自給電規格が乱立し、極めて複雑な状態でした。

USBは本来パソコンの通信規格として策定された規格ですが、広く普及したこととその汎用性によって、万能の5V電源として転用されることも多くなりました。その結果、USB給電規格は全貌が把握できない程複雑化しました。

USBの電源としての成り立ちは、1996年のUSBの立ち上げの時まで遡ります。

当時はパソコンの通信規格として策定された規格であり、バスパワーとして到底される機器はマウス・キーボード等の周辺機器に限られ給電能力は5V-500mA(2.5W)しか対応してませんでした。

その後、USBが広く普及すると想定されていた給電能力では不足することになり、メーカーが独自の方式でUSB給電能力の拡張が始まってしまいます

現在の主要な急速充電規格だけでもApple2.4A(Apple 12W)・Samsung2Aなどさまざまな独自規格が乱立しており、Qualcomm QuickChargeのような給電電圧そのものを変更する規格まで登場しているため、USB給電方式の全貌は複雑化しています。

microBの時代では複数のメーカーによる急速充電規格が乱立したが、Type-CではUSB PDによる一本化が期待されている。

給電規格として普及が進んでいるコネクタでありながら、メーカーが勝手に充電規格を乱立してしまったため、乱立する充電規格や製品事故回避への対応がコストになり、USB端子を給電コネクタとして使用すること自体避けられるようになりました。

ただし、最近は機器メーカー側も開き直りの傾向があり、ネゴシエーションも行わないままVBUS端子から直接5Vを取る仕様にし、過電流検知や定電流制御も入れないままにするなど、機器側の状態も混沌としています。

このような中、USB充電規格の統一と汎用的な給電規格として期待されているのが、次世代給電規格のUSB PDです。

USB PDの登場によって、各社複雑化した急速充電規格の統一による利便性の向上と丸型プラグに代表される独自ACアダプタの撤廃など、価格・環境面などで大きな革新が起きると期待されています。

参考文献

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