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USB PDの規格(仕様)違反とは何か?問題点などを解説

USB PDの規格(仕様)違反とは何か?問題点などを解説

USB充電規格の混沌の果てに生まれたUSB PD

現在のUSB給電規格の環境は、メーカー毎の独自給電規格が乱立し極めて複雑な状態になっています。

USBの成り立ちは1996年まで遡ります。当時はパソコンの通信規格として策定された規格で、給電能力は5V/500mA(2.5W)しか対応してませんでした。

その後USBの給電能力は拡張され、主要な急速充電規格だけでもUSB BC・Apple2.4A(Apple 12W)・Samsung2Aなどさまざまな独自規格が乱立しています。

QuickChargeのような給電電圧そのものを変更する規格まで登場しているため、USB給電方式の全貌は複雑化しています。

給電規格として普及が進んでいるコネクタでありながら、メーカーが勝手に充電規格を乱立してしまったため、製品事故の可能性や乱立する充電規格の対応コストがリスクとなり、USB端子を給電コネクタとして使用することは見送られてきました。

最近では、USB機器開発メーカーも開き直っていて、ネゴシエーションも行わないままVBUS端子から直接5Vを取る仕様にして過電流検知も入れてないままのUSB機器を販売するなど、USB機器側の状態も混沌としています。

このような中、USB充電規格の統一と汎用的な給電規格として期待されているのが、次世代給電規格のUSB PDです。

USB PDの登場によって、各社複雑化した急速充電規格の統一による利便性の向上と、丸型プラグに代表される独自ACアダプタの撤廃など、価格・環境面などで大きな革新が起きると期待されています。

よくあるUSB PD規格違反例

USB PD最初のUSB PD Rev:1.0は2012年に発表されました。その後もUSB 3.1やUSB Type-Cコネクタへの対応のような大きな変更が何度もあったため、現在のUSB PD Rev:3.0に至るまでにも混乱がありました。

その影響でUSB PDの仕様が曖昧なまま開発が進められた製品も多く、故意または過失両方のケースで規格に適合しないまま販売されているUSB PD機器も多く流通しています。

USB PDとそれに関連する細かな違反例全てについて言及するとキリがないので、今回は代表的な事例や製品事故高い規格違反例を紹介します。

USB PDが定めるパワールールを守っていない

USB PDの規格違反例として最も多いのが、USB PDで定められているパワールールを守っていない違反です。

USB PD供給機器は、複数の電圧出力仕様に対応するので、最大出力に応じた出力電圧/電流値の仕様が定められいます。具体的には、下記の表・図に従った出力仕様に対応しなければいけません。

出力\電圧5V9V15V20V
15W以下(出力電圧÷5)A
15Wを超え27W以下3A(出力電圧÷9)A
27Wを超え45W以下3A3A(出力電圧÷15)A
45Wを超え100W以下3A3A3A(出力電圧÷20)A
Universal Serial Bus Power Delivery Specification R3.0,V2.0+ECNs[画像参考]

例えば、USB PD対応を謳う最大出力18Wの充電器であれば「5V/3Aと9V/2A」の2仕様の電圧出力に対応しなければならず、45Wであれば「5V/3Aと9V/3Aと15V/3A」の3仕様の出力に対応できなければいけません。

この違反例で代表的な例としては、15Wを超えるUSB PD充電器でありながら、「5V出力が2.4Aまでしか対応していない」例が最も多いケースです。それ以外の有名なケースでは、Switch付属のACアダプタの出力仕様などもルールに違反しています。

任天堂switchに付属する純正ACアダプタ(39W)。このACアダプタはUSB Type-Cプラグを搭載しUSB PDのプロトコルに準じているが、この出力仕様のUSB PD充電器の場合、5V/3A, 9V/3Aの出力に対応しなければならない。

本来、このルールによって、ユーザーはパワールールによる電圧や電流の存在を意識しなくても、USB PD充電器の出力電力値を見るだけで適切な機器を選べる利点がありますが、このルールが守られないことにより、電圧や電流出力仕様まで確認しなければならなくなります。

USB PD15Wで受電する機器ならUSB PD18W充電器を使えば急速充電できるはずが、出力仕様によって急速充電が開始されない場合がある。

スペック表記とPDOの内容が異なる

本体に刻印されているスペックとPDOが異なる問題です。

従来のACアダプタは、ハード的な最大出力仕様や保護停止の値を記載するのが一般的ですが、USB PDの最大出力(入力)はネゴシエーション後のPDOによって出力状態を選択する仕様になっているため、PDO上の情報を基準に記載する必要があります。

USB Type-CでUSB PD以外の急速充電規格に対応している

USB Type-Cは、USB-IFが定める方法以外で供給電圧を変動させることを禁止しています。簡単に言えば、USB Type-Cコネクタは、USB PD以外の給電規格を認めていないと考えれば良いでしょう。

5Vより高い電圧を加える独自規格としては、Qualcomm QuickChargeやHUAWEI Smart Charge Protocol(SCP)、Samsung AFCなどが該当します。また、これらの独自規格に同時対応するAnker PowerIQなどの給電技術もこの違反に該当します。

とあるUSB PD充電器の急速充電対応リスト。USB PD18W対応のほか、QuickCharge2.0/3.0に対応している。

独自充電規格で充電を行うと、100W対応USB PDケーブルなどに搭載されているeMakerチップを破壊する可能性があります。

eMaker内蔵のケーブルでQuickChargeなどの電圧を変動させる独自規格急速充電を行うとケーブルを破壊する可能性がある。

この問題点の詳細に関しては、Nathan K氏のレポートやhanpen氏による追証で言及されています。

形状だけType-Cコネクタを採用

厳密にはUSB PDではなくUSB Type-Cの運用違反に当たりますが、USB PDに関連する違反例としては最も冒涜的な規格違反です。

先述の通り、USB Type-CはUSB PD以外の方式で給電電圧を変更するのは認められていませんが、このACアダプタは、従来の丸型プラグをType-C形状に置き換えただけで、そのほかの充電制御のためのプロトコルや保護が一切入っていない製品になります。

このACアダプタの実態は従来と同じ丸型のACアダプタと同等の製品なのですが、プラグにはUSB Type-Cを搭載しているので、スマホやタブレットなどにも接続できてしまいます。誤って接続すると高い確率で接続した機器を破損させてしまいます。

これはなかなか根の深い問題で、本質的には「勝手なACアダプタを作ったメーカーの責任」や「確認しなかったユーザーの責任」になりますが、このような製品がある程度まで普及してしまうと「普及している製品に対して、機器側メーカーが壊れないように対策しなかったことが原因」として責任の矛先が変わってしまう場合があります。

既成事実的に普及した設計指針や検証手法は、往々にして規格化や法規制の適応が遅れる原因になり、製品事故や人身災害のような形でユーザーが不利益を受けることになります。

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