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2023年8月1日

DeWALT POWERSTACK™ 積層型リチウムイオンバッテリーセル採用の新構造バッテリーを発表

DeWALT POWERSTACK™  積層型リチウムイオンバッテリーセル採用の新構造バッテリーを発表

北米地域を中心に展開する工具ブランドDeWALTは2021年10月に自社ホームページ上で、積層型リチウムイオンバッテリーセルを採用する新構造の電動工具用バッテリー POWERSTACK™のリリースを発表した。20V MAXシリーズ電動工具と互換性を有し、50%のパワー向上・25%の小型化・15%の軽量化を実現する。北米発売日は2021年12月1日。

DeWALT POWERSTACK™ 20V MAXバッテリー

北米地域を中心に展開する工具ブランド DeWALTは積層型リチウムイオンバッテリーセルを採用する新形状の電動工具用バッテリーPOWERSTACK™を発表しました。北米地域発売日は2021年12月1日を予定しています。

POWERSTACKはDeWALTの電動工具シリーズ20V MAXシリーズに対応する電動工具バッテリーで、従来型バッテリーより50%のパワー向上・25%の小型化・15%の軽量化を実現しているのが特徴です。

バッテリーの品名はDCBP034、18V-1.7Ahのバッテリー容量を持ち、重量は約0.7ポンド(0.3kg)です。

POWERSTACKは電動工具バッテリーとして何が新しいのか

POWERSTACKバッテリーは、バッテリー交換式の充電式電動工具として積層型(ラミネート型)のリチウムイオンバッテリーを採用する初の電動工具用バッテリーです。

従来の電動工具用バッテリーは、缶に覆われた円筒型18650セルや21700セルを採用するのが通例であり、バッテリー形状や重量において大きな制限を受けていました。

積層型(ラミネート型)のリチウムイオンバッテリーは小型化が進むデジタル機器に採用されるバッテリーで、軽量・シンプルな構成で形状の自由度が高いので、隙間なくバッテリーセルを充填することが可能な特徴を持ちます。

POWERSTACKバッテリーにおいては積層型(ラミネート型)セル採用により、従来の円筒型セルの欠点だった容量や形状の制限がなくなり、より軽く・より大容量のバッテリーセル設計が可能になりました。

従来型の円筒型18650セルバッテリーよりも小型化している。
円筒型セルで採用されている金属製の缶が不要なので、バッテリー重量も軽くなる。

今回発表したPOWERSTACKバッテリーDCBP034では従来バッテリー比で下記の特徴を持つと発表しています。

  • 50%のパワー向上
  • 25%の省スペース化
  • 15%軽量化

また、このPOWERSTACKバッテリーは、DeWALTの展開する充電式電動工具シリーズ 20V MAXシリーズとの互換性を持ち、従来の20V MAXバッテリーと共に使用することが可能です。

(左)円筒型18650セル(3.6V-3,000mAh)  (右)積層セル (3.6V-1,000mAh)
一般的に電動工具向けには左の18650セルが採用されている。右の積層セルはモバイル機器を中心に採用され、軽量で形状を自由に変えて製造できるメリットがある。

成功すれば、全ての電動工具バッテリーを過去にする

今回DeWALTはPOWERSTACKの発表に際し「this breakthrough innovation will move the industry forward.(この画期的なイノベーションによって業界を大きく前進させる)」と発言しており、積層型セルの採用は、真の意味で電動工具産業を牽引する次世代技術となり得る方式です。

バッテリー技術そのものとしては目新しいものではありませんが、電動工具産業において積層セルを採用した意義は大きく、新たなセルベンダーからの調達ルート開拓や積層セルパックの製造ライン構築など、構造設計以外の面においても競合他社と一線を超えるメーカーであることを証明した例と言えるでしょう。

これに比べてしまえば、HiKOKI マルチボルトマキタ 40Vmaxなどは従来18Vバッテリーからセルの直並列を入れ替えて36V構成に変えただけのバッテリーであり、次世代を謳うにしては欺瞞的と言わざるを得ません。

ただしモバイル機器で十分な実績を持つ積層型バッテリーが、これまで電動工具製品に採用されてこなかったのはそれなりの理由があります。

バッテリー密度が高くなればそれだけバッテリー容量は増えますが、その分冷却効率も下がり、大電流充電・放電への対応が難しくなります。耐久性に関しても、鉄缶に巻かれて収納されている従来セルに対し、ラミネートパックの積層型セルは変形や衝撃に内部短絡が発生しやすく一定のリスクがあります。

筆者はどこかの海外メーカーが積層型のセルを採用することは予期していたものの、放熱性やセル単価等の課題から、全固体LiB実用化後に電動工具メーカーの淘汰が進んでから初めて着手できる技術と考えており、今回のDeWALT POWERSTACKバッテリーの登場は正直驚きを隠せません。

現時点では重量比で従来バッテリーとそこまで大きな違いはなく、このバッテリーが市場投入後に成功を収められるかは、実使用的な出力性能や販売価格、安全性に対しての評価を待たねばならず、さらなる大容量化やFLEXVOLT対応なども必要になるでしょう。

もし、POWERSTACKが一定の成功を収め、一連の関連技術のパテント防衛とセルの独占調達に成功すれば、18650セルや21700セルのパック技術しか持たない電動工具メーカーを全て過去のものにし、先進国電動工具市場においてDeWALT一極の時代が訪れても何ら不思議ではないポテンシャルを持つことになるでしょう。

次世代バッテリーの本命とされる全固体LiB実用化後の展開に関しても、先んじて開発されるセルは積層セル(ラミネートセル)になると予想しており、一連の特許と製造技術を持つSB&Dは将来的にも大きなアドバンテージを持つことになります。

電動工具産業を牽引する要素技術の開発を進める欧米電動工具メーカーと日本の電動工具メーカーの間には、絶対に追いつくことができない大きな壁がある。
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