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2020年6月19日

なぜ、日立工機は社名変更したのか。新ブランド「HiKOKI」との違い

なぜ、日立工機は社名変更したのか。新ブランド「HiKOKI」との違い

日立工機は2017年に日立製作所からKKRグループへと移り、2018年6月に正式に社名とブランドの変更が行われ、電動工具に冠するブランド名は「HiKOKI」と代わりました。日立工機は長年慣れ親しまれた工具ブランドを、なぜHiKOKIに変更したのか、日立製作所との資本関係はどうなるのかについて解説します。

日立工機の社名変更、大きな切っ掛けは「日立再編」

現在の電動工具ブランドHiKOKIは、日立工機の事業を継承した”工機ホールディングス”が使用している電動工具ブランドです。

日立工機は、日立製作所の連結子会社として、日立グループ内で電動工具の開発・販売を行っていました。

この日立との関係が大きく変わる切っ掛けとなったのが、親会社である日立製作所が2015年前後から進めていた「日立再編」です。

日立製作所は、製造業中心の「総合電機メーカー」から、Lumadaなどの「IoTソリューション」を代表とした情報産業へ事業をシフトしています。この日立再編の流れによって製造部門を持つ本社事業や日立子会社はグループからの離脱が進み、日立工機を含む数多く日立の子会社が売却される事となりました。

この「日立再編」の流れはいくつかの段階を経て発生しています。日立工機は投資家市場で「第二次日立再編」と呼ばれてる時期の2017年1月に日立グループからの脱退を表明し、米投資会社の「KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)」の傘下となりました。

日立再編は現在でも続いており、日立建機や日立金属などの名門子会社なども売却検討に入ったと報道されています。

新生 工機ホールディングスが目指す独立路線

HiKOKI logo

2017年3月には日立工機の株式の公開買い付けが行われ、日立工機は米国の投資会社「KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)」の100%子会社になり非上場化しました。その後、2018年6月には「工機ホールディングス」へ社名変更を行っています。

日立工機の買収に入札した企業はいくつかありましたが、その中で最終的な合意に至ったのは企業価値を高めた後に売却して利益を上げるプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)と呼ばれる投資会社です。

工機ホールディングスは、KKR売却直後から売却・買収ではなく”離脱“や”自立“などのフレーズを多用しています。日立工機は日立製作所から売却されたのではなく、自ら進んで日立資本から脱退し、マキタのような独立した企業になるために今後の独立経営路線を歩みやすいKKRを経営パートナーに選んだものと推測されます。

日立ブランドを使えなくなった影響

日立グループを離脱したことで、これまで使用していた「日立」ブランド及び「日立工機」ブランドは使用できなくなりました。日立グループ離脱によって新たに策定されたのが「HiKOKI」ブランドです。

日立グループの離脱による影響はブランドに留まらず、主要な販売ルートである日立特約店も影響を受ける事になりました。

一般ユーザーはこの問題を認知する事はなく、ブランド変更についても、かつての日立工機ブランドが使用できなくなっただけであり、バッテリーの互換性などは全く同じで修理サポートなども日立工機の時代と変わらず受ける事ができます

新ブランド名の「HiKOKI」については、日立時代を表す”HI”と日立工機の”KOKI”を組み合わせたブランド名であり、これ以外の名前の候補についてはほぼ無かったものと思いますが、ユーザーからは「日立工機とは思わなかった」「HIOKIと見間違える」など、無難なブランド名でありながら比較的不評な意見が見られるのは非常に残念な点と言えます。

また、米国市場では「Metabo HPT」ブランドを採用していますが、DIY愛好ユーザーからは欧州市場の「Metabo」ブランドと混同してしまう点を指摘されており、metaboブランドとmetaboHPTでバッテリーの互換性がない点も含め否定的な意見が目立ちます。

HiKOKIになって、日立工機時代から変化した点

日立工機からHiKOKIにブランド変化して約1年が経過し、様々な視点から動向を観察していましたが、ブランド変更後の工機HDに、良くも悪くも大きく変化した点はありませんでした。

良い点を挙げるなら、ブランド変更や流通販路の変更など様々な困難があったはずですが、販売店やユーザーの視点で見る限り、取扱中止や在庫切れなど目立ったトラブルに見舞われる事はありませんでした。

プロ向け産業製品でありながらコンシューマ的な流通販路を持つ電動工具が、ユーザーの購買に大きな影響を与えることなくブランド変更を完了させたのは驚くべき事だと思います。

ただし、HiKOKIになってからの製品展開は日立工機時代から変わっておらず、「18V電動工具のマルチボルト化」と「他社追随」を踏襲する従来通りの開発が続けられています。期待されていた積極的な新製品開発や、新分野への製品投入などに大きな変化はありません。

HiKOKIデビューイベント時には「開発や生産に日立による制約がなくなった」とも発言していましたが、日立工機時代からテレビやクリーナーのような家電方面の製品展開自体は行われており、むしろHiKOKIになってからそのような製品展開が縮小してしまっている実態に今回の日立離脱と製品戦略への疑問が残ります。

広報活動等の細かな点では数多くの新しい戦略が見られ、各種SNSでの広報が行われるようになり、マッチングアプリ「助太刀」への出資、中国への直販店展開などが進められており新しい戦略は着実に進められているようです。

先行き不透明なファンド経営下の工機ホールディングス

2018年の10月1日に華々しいデビューを飾った工機ホールディングスと新ブランドHiKOKIですが、その後の経営の足取りは順調と言えないようです。

非上場企業のため詳細な業績は開示されていませんが、売上減・事業撤退に関する情報が続いています。

  • 工機HDへ社名変更以降の企業動向(2020年6月追記)
    • 2018年度単体売上高 763億円(前年比 -8%) 
    • 2018年度連結売上高 1,891億円(前年比 -1%
    • 営業利益 43億9200万円赤字転換
    • 資本金減少 -45億5166万3891円1
    • エンジン機器の生産終了2
    • 遠心分離機事業を独エッペンドルフ社へ売却3
工機HP上では未開示だが、海外採用サイトでは2018年度決算と現在の工機HDの経営状態が開示されている。
参考:Company Profile | koki-holdings

2017年の日立離脱時には「2020年3月期には連結売上高1.5倍の3,000億を目指す」と強気の発言を繰り返していた工機HDですが、KKR資本初年度と言える2019年3月期の連結決算では、売上高の前年割れ・赤字転換となりました。

当初見通していた経営成長計画に対し、工機HDは売上目標を達成できない経営戦略の実態が露になり、経営改革上の大きな問題に直面しています。

ブランド変更や広報戦略の経費によって赤字転換となったのは差し置いても、PEファンド経営下で売上高の前年比割れは異常事態とも言える致命的な失態であり、当初予定としていた「500億円規模のM&A」が実施されないなど、工機HDの経営計画に相当な影を落としたものと推測されます。

工機HDそのものの経営は大きく悪化している訳ではありませんが、「PEファンド資本下の経営」「上場廃止時の資金借り入れの処理4」など、工機HDを取り巻く経営環境は日立製作所時代よりも悪化していると予想されます。

KKRの出口戦略の方針や2024年3月に返済期限を迎える貸借契約の処理方針によっては、工機HDはこの2~3年のうちに再び大きく動かざるを得なくなるかもしれません。

脚注

  1. 2019年5月9日 電子公告[ページ削除]
  2. 工機ホールディングスは電動工具および空気工具に注力します|工機ホールディングス
  3. 工機ホールディングスの遠心分離機事業と“himac ”ブランドをエッペンドルフ社へ譲渡に合意|工機ホールディングス
  4. 資金の借入に関するお知らせ|工機HD
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