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2021年10月1日

日立工機が社名変更した理由、新ブランドHiKOKI誕生の背景

日立工機が社名変更した理由、新ブランドHiKOKI誕生の背景

日立工機は2017年に日立製作所からKKRグループへと移り、2018年6月に正式に社名とブランドの変更が行われ、電動工具に冠するブランド名は「HiKOKI」と代わりました。日立工機は長年慣れ親しまれた工具ブランドを、なぜHiKOKIに変更したのか、日立製作所との資本関係はどうなるのかについて解説します。

日立工機の社名変更、理由は「日立再編」の影響

日立製作所ロゴ

現在の電動工具ブランドHiKOKIは、日立工機の事業を継承した”工機ホールディングス“が使用している電動工具ブランドです。

日立工機は、日立製作所の連結子会社として日立グループ内で電動工具の開発・販売を行っていました。そんな長年続いた日立製作所との関係が大きく変わる切っ掛けになったのが、日立製作所が経営改革で進めている「日立再編」です。

日立製作所は、製造業中心の「総合電機メーカー」から、Lumadaなどの「デジタルソリューション」を代表とした情報インフラ企業へ経営改革を進めています。この日立再編によって新しい日立製作所と関わりの薄い旧事業や機械系事業を含む日立子会社はグループから離脱し、数多く日立の子会社の売却が進められています。

日立再編の流れの中では、日立工機以外にも、日立金属、日立国際電気、クラリオン、日立建機、日立化成、日立オートモティブシステムズ、日立物流など名だたる日立子会社が売却されています。

この「日立再編」の流れはいくつかの段階を経て進められており、日立工機の売却は投資家市場で「第二次日立再編」と呼ばれる2017年1月に日立グループからの脱退を表明しました。

日立製作所からの売却後は、米投資ファンドの「KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)」の完全子会社になり、工機ホールディングスと社名を変えて経営を続けています。

日立工機社名変更スケジュール

新生・工機ホールディングスが目指す自立・自律路線

日立工機の株式は2017年3月に公開買い付け(TOB)が行われ、米国の投資会社「KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)」の傘下になりました。その後の2018年6月に「工機ホールディングス」へ社名を変更しています。

日立工機の買収に入札した企業はいくつかありましたが、その中で最終的な合意に至ったKKRは、企業価値を高めた後に売却して利益を上げるプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)と呼ばれる投資会社です。

工機ホールディングスは、KKR売却直後から売却・買収ではなく”離脱“や”自立“などのフレーズを多用しています。

日立工機の立場は、日立製作所から売却されたのではなく、自ら進んで日立傘下から脱退し、独立経営路線を歩みやすいKKRを経営パートナーに選んだものと推測されます。

社名変更後の工機ホールディングス

日立工機からHIKOKIへ

日立グループを離脱したことで、これまで使用していた「日立」ブランド及び「日立工機」ブランドは使用できなくなりました。日立グループ離脱によって新たに策定されたのが「HiKOKI」ブランドです。

日立グループの離脱による影響はブランドに留まらず、主要な販売ルートである日立特約店も影響を受ける事になりました。

一般ユーザーは日立ブランドからHiKOKIブランドに変わった影響を受けておらず、かつての日立工機ブランドが無くなっただけでバッテリーの互換性などは全く同じです。修理サポートなども日立工機の時代と変わらず受ける事ができます

HiTACHIからHIKOKIへ

新ブランド名の「HiKOKI」については、日立時代を表す”HI”と日立工機の”KOKI”を組み合わせたブランド名であり、これ以外の名前の候補についてはほぼ無かったものと思いますが、ユーザーからは「日立工機とは思わなかった」「HIOKIと見間違える」など、元の日立工機の社名を考えれば無難なブランド名でありながら比較的不評な意見が見られるのは残念な点と言えるでしょう。

HITACHIからmetaboHPTへ

米国市場ではHiKOKIではなく「Metabo HPT」ブランドを採用しています。

DIY愛好ユーザーからは欧州市場の「Metabo」ブランドと混同してしまう点を指摘されており、metaboブランドとmetaboHPTでバッテリーの互換性がない点も含め否定的な意見が目立ちます。

HiKOKIになっても日立工機時代と大きな違いはなし

日立工機からHiKOKIにブランド変化して約2年が経過し、さまざまな視点から動向を観察していましたが、良くも悪くもブランド変更後の工機HDに目立った変化はありません。

良い点を挙げるなら、ブランド変更や流通販路の変更などで困難があったはずですが、販売店やユーザーの視点で見る限り、取扱中止や在庫切れなど目立ったトラブルに見舞われる事はありませんでした。プロ向け産業製品でありながらコンシューマ的な流通販路を持つ商材で、ユーザーの購買に大きな影響を与えることなくブランド変更を完了させたのは驚くべき事だと思います。

悪い点では、HiKOKIになっても製品展開や経緯戦略そのものに日立工機時代からの違いがなく、「18V電動工具のマルチボルト化」と「他社追随」を踏襲する従来通りの開発が続けられています。期待されていた新製品開発や、新分野への製品投入方針などに大きな変化はなく、HiKOKIブランドの知名度押し上げに至らない商材不足が続いています。

2020年などは、新製品の投入よりも過去製品のマイナーチェンジの展開に力を入れており、製品ラインナップ数で先行するマキタとの差は大きくなる一方の状態が続いています。

HiKOKIブランド移行時に発表された拡充予定製品。既存18V製品のマルチボルト36V化は順調に進んでいるが、新製品開発や新分野への製品投入は停滞している。

HiKOKIデビューイベント時には「開発や生産による日立の制約がなくなった動画内1:33:15~)」のような発言していましたが、日立製作所グループ時代でもテレビ(UR18DSML)やクリーナー(R18DA)のような家電方面の製品展開は行行っており、むしろHiKOKIになってから園芸・清掃・家電分野の製品開発に対して消極的になっています。

広報活動等の細かな点では数多くの新しい戦略が見られ、今まで行われなかった各種SNSの広報が活発に行われるようになり、マッチングアプリ 助太刀への出資、中国への直販店展開なども進められており、新たな販促活動が進められています。

HiKOKIの知名度は、ブランド転換から2年かけてようやくかつての日立工機とほぼ同等の知名度に達しました。

ただし、これは時間経過や日立工機ブランドの製品の流通が終了した影響が大きく、工具になじみの薄いDIYライト層では社名を変更したことを知らないユーザーも多く見受けられます。

先行き不透明な工機ホールディングス

2018年の10月1日に華々しいデビューを飾った工機ホールディングスと新ブランドHiKOKIですが、その後の経営は順調とは言えません。

日立グループ離脱に伴い非上場化したため詳細な業績は開示されていませんが、僅かに公表されている情報を確認すると売上減及び事業撤退に関する動向が続いています。

2017年度(96期) 2018年度(97期) 2019年度(98期) 2020年度(99期) 2021年度(100期)
単体売上高 830億 763億円 693億円 689億円
連結売上高 1,912億円 1,891億円1 1,900億円2
非開示
単体営業利益 15億 ▲44億 ▲4億円 4億円
単体純利益 9億4700万円 ▲42億5100万円 ▲76億円 180億円
資本金 180億 180億 134億3 51億4 1億
従業員数 連結 6,446名
単体 1,370人
(2018年3月31日時点)
連結 6,839名
単体 -名
(2019年3月31日時点)
連結 6,254名
単体 1,446名
(2019年12月31日時点)
連結 6,215名
単体 1,427名
(2020年3月31日時点)
連結:6,790人
単独:1,330人
その他動向 東証1部上場廃止 エンジン機器の生産終了・工場閉鎖5 遠心分離機事業を独エッペンドルフ社へ売却6 HiKOKIロシアのMetabo移管
工機ホールディングスジャパンを設立
資本金減資により中小企業者に

2017年の日立離脱時に「2020年3月期には連結売上高1.5倍の3,000億を目指す」と強気の発言と共に事業構造改革をスタートさせた工機HDですが、KKR資本下経営の初年度とも言える2018年(97期)の決算では単体・連結売上額 前年割れ・単体赤字を計上。続く2019年(98期)単体決算でも売上前年割れ資本金の減資100億の特別損失による赤字決算を計上しています。

単体売上では3期連続の売上減を計上しており、連結売上も2017年(96期)以降正式には公表していません。日立離脱時に行われたスポンサー番組7やWeb広報活動のような華やかな動向の裏側には厳しい現状が続いています。

最新の工機HDの会社概要。工機HDは日立製作所離脱以降、売上減・資本金減・従業員減が続いている。(現在は2017年度の連結売上収益の数値に差替え済)
参考:Company Profile | koki-holdingsパソナ採用ページ

現在の工機HDによる経営戦略はシェア拡大を実現すること叶わず、KKR資本下での経営において大きな足かせとなっています。

ブランド変更や広報活動の経費による赤字は99期目において黒字化達成したものの、売上高の前年比割れが続くのは致命的な失態と評価され、工機HDの経営計画に相当な影を落としているものと推測されます。

日立製作所の資本下であったなら経営悪化との評価には至りませんが、現在の工機HDはPEファンドによる、売上増を前提としたLBOスキームで買収8されています。企業価値を減少させる売上高の減少は経営体制に大きな影響を与える可能性があります。

2021年現在の工機HDは、再び組織再編を行っています。経営統合や2017年当時に掲げられた「500億円規模のM&A」に関しても続報報道はなく、KKR資本下経営の折り返し地点に差し掛かった工機HDがどのようにイグジットされるのかが注目されます。

そして2021年9月、報道で工機ホールディングスの売却検討が報道されました9。日立再編から始まった日立工機の独立は叶わず、他企業による子会社化の形で再び落ち着く可能性が濃厚となるようです。

開示情報を元に当サイトが最新情報を追記した工機HDの連結売上高推移グラフ

2024年3月28日にはLBO時に交わされた独metabo社買収借入と上場廃止時の特別配当のために交わされた金銭消費貸借契約の返済期限を迎えます10

参考:日立工機95期 有価証券報告書

日立工機時代の事業売却と再びの再編が進む工機HD

本記事の初稿は2019年10月ですが、その後の工機HDの動きは事業縮小が続き、費貸借契約に対する処理の動きが明らかになってきました。

2020年3月には工機HD(旧 日立工機)は遠心分離機事業「himac」を独エッペンドルフ社に譲渡しています。これにより、日立工機時代から続く事業の1角だった遠心分離機事業が無くなりました。

2021年2月にHiKOKI CIS(旧Hitachi Power Tools RUS L.L.C.)は、事業再編によってMetabo Eurasia LLCに事業移管することを決定しました。2021年4月1日以降、ロシア連邦の領土におけるHiKOKI製品の唯一の公式輸入業者はMetabo Eurasia LLCになりHiKOKIブランドの販売が継承されます。

同月には日本事業の強化と称する新事業会社 工機ホールディングスジャパンを設立しており、国内電動工具販売事業の独立性を高めています。

脚注

  1. Company Profile | koki-holdingsパソナ採用ページ
  2. 求人一覧|工機ホールディングス株式会社採用サイト
  3. 資本金の額の減少公告(2019/5/9)|工機ホールディングス ※現在は削除済
  4. 会社概要|工機ホールディングス株式会社採用サイト
  5. 工機ホールディングスは電動工具および空気工具に注力します|工機ホールディングス
  6. 工機ホールディングスの遠心分離機事業と“himac ”ブランドをエッペンドルフ社へ譲渡に合意|工機ホールディングス
  7. テレビ東京 発想UNLEASH~未来への自由研究~ 全4回(2018年10月5日~26日)
  8. 買収資金を銀行から借り入れ、その借金をM&A対象会社に背負わせるスキーム
  9. KKRが工機ホールディングス売却検討、複数の候補が関心-関係者|Bloomberg
  10. 資金の借入に関するお知らせ|工機HD
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