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2020年4月17日

電動工具の2010年代を振り返る(1) 全ての始まり「リチウムイオン」が中心に動く時代(前半)

電動工具業界を振り返ると、2010年代はまさに発展と波乱の10年だったと言えるだろう。

リチウムイオンバッテリーとブラシレスモーターの普及、そしてメーカー再編など、製品の技術的な進歩だけではなく業界自体が大きく動く波乱の10年と言える。

そこで本シリーズでは、全個体電池や電動工具のスマート化を控える2020年代を前に、リチウムイオンバッテリーやブラシレスモーターが台頭した2010年代の電動工具業界の動向をコラム交じりに記述していきたい。

電動工具業界を大きく成長させる起爆剤となった「リチウムイオン」

2010年代の電動工具メーカーの全ての基軸となっていたのが「リチウムイオンバッテリー」だ。極端な話、この10年間の大手電動工具メーカーは、リチウムイオンバッテリー製品を作るために経営力の全てを注いだと言っても良い。

当初は半信半疑の目で見られていたリチウムイオン搭載の電動工具も、ふたを開けてみれば業界にとって欠かせないものにまで成長した。それまでおもちゃ同然の扱いだったニッカドの電動工具を市場から一瞬で駆逐し、リチウムイオンは一部の電動工具においてAC電源の電動工具すら置き換えてしまう程の普及を見せる製品となった。

今回は、リチウムイオンバッテリーに翻弄される電動工具メーカーとその動向について解説しよう。

ニッカド12Vバッテリーの後継として展開された14.4Vバッテリーに始まり、3.6Vバッテリーから36Vを超えるバッテリーまで幅広い電圧でバリエーションで展開された。現在の主流のシリーズは18Vリチウムイオンバッテリーだ。

リチウムイオンの「性能向上」が充電式工具を発展させた

2010年代はリチウムイオンの時代と記載しているが、実際に日本市場にリチウムイオンバッテリーの電動工具が登場したのは、マキタのインパクトドライバTD130Dが発売した2005年になる。

2010年代のリチウムイオンバッテリーは「性能向上」が大きなキーワードとなっている。リチウムイオンバッテリーが登場した2000年代はバッテリー容量は3.0Ahしかなかったが、2010年代には体積がそのままに容量が増加することとなり、2013年には4.0Ahバッテリーが販売、2014年には5.0Ahバッテリー、そして2016年には6.0Ahのバッテリーが登場するまで性能向上が進んだ。

この容量増加によってインパクトドライバ以外にも充電式工具への展開が可能となり、ドリル・丸ノコ・グラインダなど様々な製品が充電式電動工具が販売されるようになった。その結果、リチウムイオンの性能向上は電動工具業界そのものの経営戦略にも大きな影響を与えることとなった。

電動工具バッテリーの容量増加ペースの推移。2013年に販売された4.0Ahから一気に容量増加のペースが上がり、電動工具のコードレス化が一気に進む契機となった。

電動工具の主流がAC電源から「リチウムイオンバッテリー」へ

2014年の5.0Ahのバッテリーが販売される頃には、全てのメーカーが「コードレス化」に経営力の全てを注いでいた状態で、ブラシレスモーターの発展も合わせて、AC電源工具と変わらない作業性を持つ充電式工具も登場し始めた。

最も顕著なのが、インパクトドライバはドリルドライバなどの締結・穴あけ系の電動工具で、これらのカテゴリの充電式化によってAC電源のインパクトやドリルなどを市場から消してしまう程の普及を見せた。

3.0Ahから5.0Ahまでロングセラーとなった日立工機のインパクトWH18DDL。新しいバッテリーが販売される度に、新しいバッテリーが付属した仕様が販売された。

また、バッテリーの性能向上は営業戦略的にも大きな意味を持つようになった。新型の電動工具を開発しなくとも、容量の大きいバッテリーを求めるユーザーがバッテリー欲しさに本体セット販売の電動工具を買い増しする傾向も見られた。

同時に、インパクトドライバなどはフラッグシップモデルとして新バッテリーと同時に開発が進められ、電動工具を売るためにコードレス化するのではなく、新しいバッテリーを売るための電動工具を開発する傾向もみられた。

HiKOKI(日立工機)の165mm丸ノコの製品展開を例に解説。2009年に販売されたC18DSLは切断スピードも悪くモーター性能も低かったため深切りにも対応できなかったが、2015年のC18DBALでは前モデルから2倍近い性能が上昇し、製品仕様としてはAC工具と同等となった。なお、切断スピードがAC100Vと同等になるのは36V世代から。

電動工具以外への製品展開も進む

リチウムイオンバッテリーの普及によって、各電動工具メーカーは電動工具以外の製品の展開も始めるようになった。現場でも使えるような家電品を中心に開発が行われ、扇風機やクリーナーなど現場で重宝される製品も充電式化が進み、マキタのターボなどは業務用ながら手軽なハンディクリーナとして一般ユーザーにも受け入れられるような製品が注目を集めた。

2010年代末になると、Bluetoothスピーカーやテレビなど電動工具メーカーの専門外の製品も展開されるようになり、電動工具メーカーはある種の総合家電メーカーのような状態になりつつあった。

メーカー毎のスペックに差異が無い「横並び」の時代

この時代の電動工具は各社同じ電圧のバッテリーを採用していた点もあり、電動工具の性能そのものに大きな違いがないと言っても良い。カタログスペック上では各社間で微妙な競争を繰り広げていたが、根本的にバッテリー電圧が同じだったために極端な性能差は生まれようがなかったのだ。ユーザーはブランドイメージやフィーリングの僅かな違いで工具を選択していたとも言える。

極端な話、この時代の電動工具メーカーにとって、性能を向上させるならバッテリーの性能向上だけを待てば良い時代だった。電動工具のコンセプトそのもの自体をどうこうさせようと言う発想そのものが薄かったのだろう。

電動工具のシェア獲得は、性能よりも販路やアフターサポート、バッテリー対応数などを含めた「ブランド力」や「製品展開力」が大きな力を持った。そのため、実際の結果と言えば電動工具メーカーの売り上げを伸ばした要素は、販売戦略に大きく左右される事となり、新市場への開拓や企業買収などが大きな要因となったと考えられる。

例えば、国内シェア1位のマキタは、迅速なリチウムイオン展開と製品ラインナップの拡充に努め、リチウムイオンを活用した通販サイトやホームセンターで売れる商材の展開で知名度を伸ばして国内売り上げを大きく飛躍させた。また、世界シェア1位のStanley Black&Deckerは膨大な資金力で各工具ブランドの買収する事で今もなお成長を続けている。

電動工具業界にとっては「蜜月」とも「安寧」とも言える程リチウムイオンバッテリーに依存した2010年代だったのだが、2010年代末になるとその状況は大きく変わることとなる。

(次回に続く)

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