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2020年4月17日

電動工具の2010年代を振り返る(3) 長寿命化と高効率を実現する「ブラシレスモーター」

前回まではリチウムイオンバッテリーの発展と電動工具メーカーの関係性について解説した。しかし、充電式電動工具が普及した背景となるブラシレスモーターについても語らないとならないだろう。今回は、ブラシレスモーターの発展と今後の展開について解説しよう。

ブラシレスモーターが日本の電動工具市場で初めて登場したのは、2007年の日立工機 インパクトドライバWH14DBLとなる。その後の展開はドライバドリルに留まったが、2010年代には再びブラシレスモーターの展開が進み、グラインダ・丸ノコ・ハンマなど高負荷な電動工具へのブラシレスモーター搭載が進んだ。

充電式電動工具、普及の立役者となったブラシレスモーター

日本の電動工具市場に初めてブラシレスモーター搭載電動工具が登場したのは、2007年11月に販売された日立工機のインパクトドライバWH14DBLだ。その後、ブラシレスモーターはドライバドリルにも展開されるようになったが、そこで2000年代のブラシレスモーターの発展は一端停滞する事となる。

ブラシレスモーターの採用によりバッテリーを搭載しても重心が中央に来る良好なバランス性と、クラス最小のコンパクト性を実現した
参考:日立コードレス丸のこC14DBLカタログ

2010年代に再びブラシレスモーターが再び大きく躍進するのは、2010年代前半のブラシレスモーター充電式丸ノコからになる。その後はグラインダー・ハンマなどへ展開が進み、プロ向けの充電式工具については全ての製品がブラシレスモーター搭載されるまでになった。

ブラシレスモーターは従来のブラシモーターと比べて軽量・高性能・省エネ性などが実現されており、充電式電動工具に求められる性能とマッチして、様々な電動工具に搭載されるようになった。2010年代に大きく発展したブラシレスモーターは、リチウムイオンバッテリーの性能向上とも合わせ大きく普及する事となった。

日本市場においては、日立工機のブラシレスモーター搭載電動工具が常に先行しており、ほとんどのブラシレスモーター電動工具は日立工機が牽引していたといっても良い。まさに、この10年は日立工機=ブラシレスモーターと言ってもあながち間違いではなかった時代と言えるだろう。

HiKOKI(日立工機)の165mm丸ノコの比較。ブラシレスモーターの採用によって切断スピードは大きく向上し、リチウムイオンバッテリーの性能向上も合わせて作業量も大きく向上した。
ブラシレスモーターによって電動工具の小型化と軽量化が進み、ワンハンドと呼ばれるサイズまで小さくなった製品まで展開されるようになった。

ブラシレスモーターは何が凄いのか

参考:マキタTD133Dカタログ

ブラシレスモーターは従来のブラシモーターと比べると、軽量化・長寿命化・高いモーター効率を持ち、充電式の電動工具が必要とする機能を全て備えたモーターとなっている。しかし、その分希土類磁石と制御回路を必要とするモーターでもあるため、製品開発費は高コストとなる。

ブラシレスモーターは従来のブラシモーターと比較して1充電当たりの使用時間が延び、モーター出力も上げやすくなったため充電式電動工具の性能の限界を大きく引き上げる技術となった。特に、インパクトドライバ・ドライバドリルなどの締結工具はAC電源の電動工具を完全に置き換える程の性能向上を実現した。

特に2010年代のブラシレスモーターの発展は凄まじく、手持ちサイズ電動工具を全て充電式への置き換えが可能な水準まで進化したと言っても良い。165mmの丸ノコの最新モデルでは、従来のユニバーサルモーターを採用したAC電源の電動工具と比較しても遜色ないレベルの製品へと発展し、ハンマドリルなどに至ってはバッテリーの連続作業量を除けばAC品と同等の性能を誇るまでとなっている。

ただし、電動工具特有の変動が大きい高トルクモーターと言う特殊性こそあったが、ブラシレスモーターそのものの技術開発傾向はFETやIGBTなどのパワートランジスタの性能に左右されることとなり、傾向的にはエレクトロニクス市場の技術動向に大きく左右されるようになった。この点に関しても前回のバッテリー業界に左右されるようになった点と同じく、電動工具の性能向上はパワートランジスタの性能に大きく依存するようになってしまったと言える。

ブラシレスモーターによる、電動工具の高付加価値化

ブラシレスモーターはほぼ全ての電動工具各社が採用してしまった技術であり、ブラシレスモーターそのものとして大きなアピールポイントとはならなくなった。しかし、ブラシレスモーターの搭載はそれ自体と別の方面で差別化を発揮していくこととなる。それこそがソフトウェアによる高度な「モード機能」の実現だ。

ブラシレスモーターの搭載はマイコンによるモーター制御が必須となるため、ソフトウェア的な付加価値も搭載できるようになった。例えば、インパクトに搭載されているテクスネジ用の「テクスモード」やマキタインパクトに搭載されている「楽々モード」などがその一例となる。更にはBluetoothによる集じん機連動もマイコンなしには成立しない技術である。今後電動工具業界のソフト開発の重要性は大きく増すこととなるだろう。

当初こそパワーの切替とテクスモードしか搭載していなかったモード切替だが、今後はモード切替の他にも、IoTを活用したインターネット接続による管理機能の搭載や、情報収集などが強化され、ブラシレスモーターの付属物扱いだったマイコンの性能が、今後の主力となるような製品展開も進む可能性も考えられる。

ブラシレスモーターの正統進化「ベクトル制御」

参考:モータ駆動用ベクトル制御技術(1/4): TOSHIBA Semiconductor & Storage Products | YouTube

少し話がそれてしまったが、ブラシレスモーターの話に戻そう。EVや産機系のモーター技術動向全体を見ると、電動工具のブラシレスモーターはもう1段階だけ進歩する余地がある。それこそが「ベクトル制御」と呼ばれる機能と搭載したブラシレスモーターだ。

電動工具が搭載している多くのブラシレスモーターは「120度通電制御」と呼ばれる方式を採用しており、ブラシレスモーターの中でも最も作りやすいモーターとなっている。それを「ベクトル制御」に変える事で、回転が静かでスムーズになりモーター効率も更に向上する。

モーターの発展技術には様々な方法があるが、現時点ではベクトル制御が最も実用的かつ明確な性能向上が見込めため、今後はベクトル制御を搭載したモーターが一般的になると予想される。しかし、ベクトル制御の搭載は、より高性能なマイコン採用と制御ソフトウェアの開発が必要となるため、電動工具へ適応させる難易度とコスト的な観点から2010年代においてはあまり採用されなかった方式でもある。

参考:マックス エアコンプレッサシリーズの新商品AK-1270E2シリーズ|MAX株式会社

現在、この分野で最も先行しているのが以外にも「MAX」と「Panasonic」だ。

MAXはコンプレッサーにベクトル制御モーターを搭載した製品を実用化させており、Panasonicでは2019年9月から発売を開始したSmartBLを冠した製品にベクトル制御モーターを搭載している。

参考:EZ76A1 充電インパクトドライバー 14.4V/18V|Panasonic株式会社

この国内電動工具メーカーの動向は非常に興味深い。マキタとHiKOKIはバッテリー売上を重視したために36V化による安易でわかりやすい技術展開を行ったが、MAXとPanasonicは電動工具の本質的な部品であるモーターの基礎的な技術向上を愚直に実現した形となっている。電動工具市場において大きなシェアを持たないMAXやPanasonicが、マキタHiKOKIの大手メーカーをも上回るモーター技術を所有している事実があるのだ。

この、両社のバッテリーとモーターの技術開発の方針の違いは、今後の2020年代の電動工具開発にどのような結果として現れるのか今後注目すべき点となるだろう。

(次回に続く)

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