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充電式保冷温庫の発展の系譜、今後の電動工具保冷温庫はどうなっていくか【電動工具コラム】

充電式保冷温庫の発展の系譜、今後の電動工具保冷温庫はどうなっていくか【電動工具コラム】

夏場の現場作業に欠かせなくなった充電式保冷温庫

夏場の現場作業において、飲み物や冷却ベスト用の保冷剤を冷やすための充電式保冷温庫は無くてはならないものになりました。

現場用の充電式保冷温庫はバッテリーによる動作だけではなく、「-18度まで冷やせる保冷機能」「2部屋分割で2つの温度に対応可能」などに対応していることもあり、アウトドアや災害用途まで幅広い用途で使用できるアイテムとなっています。

そんな普及が進んだ充電式保冷温庫ですが、市場への初めての登場から記事公開時点の最新モデル CW006Gの登場に至るまでさまざまな製品が登場しました。

今回の記事では、電動工具メーカーの充電式保冷温庫で転換点とも言えるモデルをピックアップして紹介しつつ、当時の雰囲気や製品の特長などを解説していきます。

2017年 日立工機 UL18DSL:充電式保冷温庫の前史モデル

記念すべきバッテリー動作の保冷温庫としては、日立工機 (現HiKOKI)のUL18DSLが該当します。

このモデルは、冷却にペルチェ素子を採用した保冷温庫であり、25Lサイズながらも比較的コンパクトサイズに収まっているのが特徴です。

しかしながら、ペルチェ素子は部品としての特性上、庫内温度は外気温に対して-20度までしか冷やせないので屋外の炎天下ではほとんど機能しない上、消費電力が大きく使用時間が短いのに冷却能力もコンプレッサに比べて大きく劣る欠点があります。

それでも2017年の登場時には、市場に先例のない製品として概ね好意的に受け止められた製品であり、ちょっと余裕のあるプロユーザーの方に対してそれなりに売れていた印象があります。

翌年の2018年にはペルチェ素子をパワーアップして性能を向上しバッテリー装着本数を2本にしたUL18DAを発売しましたが、UL18DAを区切りとしてHiKOKIは充電式保冷温庫の展開を一旦止めてしまいます。

ちなみに、このペルチェ方式の保冷温庫に使われているペルチェ素子は劣化によって性能が低下する部品であり、中古で購入する場合には注意が必要です。使用頻度にもよりますが、既に発売から8~9年経過している製品であるため、2026年の現在で中古品として購入する場合には性能が劣化している可能性があるので、実際の動作を見てから購入した方が良いと思います。

ペルチェ素子時代から充電関連の機能を意識していた日立工機

2026年現在、バッテリーで動作する充電式保冷温庫を販売している電動工具メーカーはマキタと工機HDですが、バッテリーへの充電機能を搭載しているのは工機HDの保冷温庫だけとなっています。

実は、工機HDはペルチェ方式の保冷温庫を展開した時から、保冷温庫にバッテリー充電機能を搭載するための特許を出願しており、筆者はこれを要因として、マキタが充電機能の搭載を敬遠する一つの要因ではないかと想定しています。

例えば、特開2017-122521の特許は、電動工具用バッテリーを着脱可能な保冷温庫という製品カテゴリにおいて、工機HDが早期から電池接続部や電源まわりの構造を押さえおり、後続メーカーが製品設計時に意識する特許群の一つとなる可能性になったと考えられます。

特開2017-122521

さらに、保冷温庫へ充電機能を明示した特許としては、後続の特開2023-129181が出願されています。これは2026年現在でも審議中となっていますが、マキタに対する牽制材料になっている可能性は十分にあり得ます。

特開2023-129181

とは言え、マキタが充電機能を搭載していない背景として、工機HDの特許群を意識した設計判断があった可能性は否定できないものの、特許が主因だったと断定することはできず、安全設計・コスト・バッテリ充電機能に対する技術的な懸念といった要因も併せて考える必要がある点に留意が必要です。

特に、工機HDによる特許は、充電機能そのものを包括的に押さえるものというより、その機能を実現するための具体的な構造や制御方法に関するものと見られます。そのため、保冷温庫におけるバッテリー充電機能自体が特許によって完全に制限されているわけではなく、マキタが本格的に充電機能の搭載を検討していたのであれば、特許を回避する設計によって実現する余地もあったと考えられます。

2020年 マキタ CW180D:充電式保冷温庫の市場を作った立役者

話は少し逸れましたが、日立工機の沈黙から少し経った後、マキタが2020年に発売したのがCW180Dです。

CW180Dはそれまでペルチェ方式が主流だった保冷温庫に電動工具メーカーとして初のコンプレッサ方式を採用した充電式保冷温庫です。冷却温度は最大-18℃まで冷やせるようになり、稼働時間も大幅に伸びたことで現場作業に対して本当の意味で耐えうる充電式保冷温庫として鮮烈なデビューを飾りました。

ちなみに、今では考えられないことですが、マキタがCW180Dを発売した時は「充電式保冷温庫発売記念キャンペーン」として冷却ベストと保冷剤をセットにしたキャンペーンを行っており、マキタ自身も当時は売れるかどうか確信が無く、発売初手から販売のテコ入れを行っていた印象があります。

その後、CW180Dは話題が話題を呼び飛ぶように売れ、発売したその年は入手が難しい状態にまでなり、発売した年の8月にはネットモールで新品価格10万円を超え、プレミア価格で一時16万円になるほどの電動工具市場としては過去類を見ない製品になりました。

このCW180Dを起点に、マキタと後述のHiKOKIは毎年充電式保冷温庫の新製品を展開する過去類を見ない保冷温庫ブームが始まることになります。

2021年 HiKOKI UL18DB:2部屋モード+充電機能の完成形

マキタCW180Dの翌年に競合のHiKOKIが発売したのがUL18DBです。

このUL18DBは、コンプレッサ方式の登場から2年目の製品でありながら「バッテリー充電機能」「2部屋モード」の現在まで続く充電式保冷温庫に求められる機能を完璧に搭載した製品であり、ある意味で充電式保冷温庫のコンセプトの完成形とも言える製品に仕上がっていました。

同年、マキタはCW180Dの後継モデルとなるCW001Gを発表しましたが、UL18DBの前に霞んでしまい話題性を完全に持っていかれた印象があります。

個人的な所感ですが、電動工具メーカーが販売する充電式保冷温庫の開発のコンセプトはHiKOKI UL18DBの登場によってほぼ完成の域にまで至ってしまい、その後の製品展開はサイズ展開くらいしか無くなってしまったのではないかと思っています。

UL18DB以降はマキタ・HiKOKIともに精力的な製品展開を行っていましたが、2023年を最後に新製品の登場はまた一区切りとなってしまいます。

発売年月メーカー製品名容量特徴
2021年6月HiKOKIUL18DB25L2部屋モデル
2021年6月マキタCW001G20L40Vmax対応
2022年4月マキタCW003G7L
2022年6月HiKOKIUL18DC18
2022年7月マキタCW002G50L
2023年2月HiKOKIUL18DBA20L
2024年4月マキタCW004G29L両開閉
2部屋モデル
2023年6月HiKOKIUL18DE36L
2023年6月HiKOKIUL18DD10.5L

ちなみに、UB18DBを発売した頃のHiKOKIはまだ財布の紐が緩かったころであり、Twitterのフォロワー獲得戦略として抽選1名にUL18DB本体が当たるキャンペーンも行う景気の良さを見せていました。

2026年 マキタ CW006G:真空断熱パネルの高級高機能路線へ

2023年からマキタ・HiKOKIともに新製品開発がなくなってしまった充電式保冷温庫ですが、3年経過した2026年、遂に新型モデル マキタ CW006Gが発売しました。

基本的な製品仕様は従来モデルのCW004Gと同じですが、CW006Gは電動工具メーカーの充電式保冷温庫としては初となる真空断熱パネルを採用したモデルであり、保冷性能・冷却時間共に大幅に向上しているのが特徴です。

真空断熱パネルは断熱性能に優れており、釣り具メーカーが最上位モデルのクーラーボックスに採用されていますが、その分、重くて高価な材料であり、CW006Gの販売価格も従来モデルよりも高くなっています。

それでもマキタが真空断熱パネルの採用に踏み切れたのは、国内電動工具市場のマーケットリーダーとしての立場やマキタブランドの強さを価格に反映できる強みがあってからこそと考えています。

今後、真空断熱パネルの採用モデルが市場に浸透するかは未知数と言えますが、サイズ違いの製品展開や、価格と市場の反応が可視化されたことによる、競合HiKOKIの再びの参入も十分に考えられ、数年間は充電式保冷温庫の新製品展開が期待できる状態になりそうです。

今後の充電式保冷温庫はどのような方向で発展するか

マキタ CW006Gにおける真空断熱パネルの採用によって、充電式保冷温庫には新しいバリエーションの可能性が開けました。今後しばらくは、真空断熱パネルを採用したモデル展開にも期待できそうですが、その先、充電式保冷温庫はどのように発展していくのでしょうか。

おそらく早くても5〜6年ほど先になるとは思いますが、可能性の一つとして考えられるのが、ACアダプタ入力のUSB Type-C化です。

USB Type-Cの給電規格であるUSB PDは100W級の給電に対応しており、拡張規格であるEPRでは140Wや240Wといった大電力給電にも対応できます。仮に充電式保冷温庫の外部電源入力がUSB Type-C化されれば、USB充電器やモバイルバッテリーでの動作も可能になり、さらにマキタが充放電に対応したUSB PDアダプタを開発すれば、冷温庫本体に充電器を内蔵せずとも、疑似的に充電機能付きの保冷温庫に近い使い方ができるかもしれません。

とはいえ、USB PDへの対応には電力制御や安全性、対応機器との組み合わせなど複雑な要素も多く、実際に採用されるかは未知数です。

また、別の方向性としては、10年ほど前にクラウドファンディングで話題になった “Coolest Cooler” のような路線も考えられます。

2014年頃にKickstarterでクラファンが行われたパーティ向けのクーラーボックス “Coolest Cooler”

Coolest Coolerは、Bluetoothスピーカーやミキサー、LEDライトなどを搭載した、アウトドア・パーティ用途に特化したクーラーボックスです。いわば“全部入りガジェットクーラーボックス”のような存在で、その振り切ったコンセプトによって大きな注目を集めました。

このあたり、電動工具のプロユーザー需要をある程度満たした後で、アウトドア用途や災害用途など一般ユーザー層への広がりがいまひとつパッとしない充電式保冷温庫においては、これくらい思い切った方向の販路開拓も必要なのではないかと思ったりもします。

一応、マキタにはケトルや電子レンジ、電動アシスト自転車まであります。ここまで来たら、今さらパーティ向けの少しはっちゃけた保冷温庫を出しても、案外「まあマキタならあり得るか」と受け入れられるのではないでしょうか。

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