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マキタとHiKOKI(日立工機)の違い【第二版】

マキタとHiKOKI(日立工機)の違い【第二版】

国内の大手電動工具メーカにはマキタとHiKOKIがありますが、この違いについて販売店の意見やネットの総評、私的見解も含めて考えてみました。

本記事は2016年7月公開の記事に最新情報や改定を加えた第二版です。

  • 修理体制・販売ルート・製品展開力など営業力で強いマキタ
  • 性能・機能などの技術面で強いHiKOKI(日立工機)
  • マキタは製品数の多さ・販売店の多さ・アフタサポートで選ばれている

国内の大手電動工具メーカはマキタとHiKOKI(日立工機)

世界にはさまざまな電動工具メーカーがあります。日本国内メーカーではマキタ・工機HD・京セラ・パナソニック・マックスの5社が台頭しており、世界市場ではSTANLEY Black&Decker・ボッシュ・ヒルティ・TTIなど欧米メーカーを加えた電動工具メーカー世界的シェアを握っています。

日本国内の電動工具市場は、愛知県の電動工具メーカー マキタと米KKR傘下の工機ホールディングス(旧日立工機)の2社が大きなシェアを持っています。

電動工具といえば一般的にはホームセンター中心の販売を行っているイメージがありますが、プロ向け販路では地元密着型の金物屋やプロ向け工具店などで強力な販路を持ち、街でマキタやHiKOKIの看板を上げた金物屋を見かけたことがある方も多いと思います。

当記事では、日本国内における「マキタと工機HD(HiKOKI)の違いは何か」について解説していきます。

優れた販路構造と製品展開力に強みを持つマキタ

マキタは日本国内の電動工具市場において強力な営業網を持ち、充電式製品の多種多様なラインナップとアフターサポートに強みを持つ企業です。

マキタ営業の歴史は昭和31年7月の大阪進出を皮切りに全国各地へアフターサービスや情報収集を効率よく行える直接納入の営業拠点設立を進め、土建会社・建築現場・木工場などの需要家に直接呼びかける宣伝による拡販努力によって根強い販路基盤を構築してきました。

2022年の現在では国内126ヵ所の営業所を基盤とする日本トップの販売網を持ち、新製品の早期市場投入や情報収取・アフターサポート体制の確立など、プロユーザーの要求に対応できる営業基盤を持つ電動工具メーカーとして国内市場に君臨するトップメーカーです。

充電式製品のラインナップ数は国内トップ

マキタ主力の18Vシリーズは400モデルを超える多彩な製品ラインナップを揃え、プロユーザーの現場作業から園芸・造園ユーザー・清掃・アウトドア用途まで対応しています。

マキタ18Vシリーズは2005年の登場から製品拡充が進み、325+60モデルと国内トップの製品数を誇り現場作業以外にも清掃産業やアウトドア製品としても人気が高い。
参考;マキタ総合カタログ2021

マキタの18Vシリーズは18Vバッテリーを2本装着して36V動作に対応する18V×2本シリーズも展開しており、高出力用途での充電式製品もカバーしているため、マキタの18Vバッテリーを2本持っていれば「現場作業で困る事はまず無い」と言えるほどの魅力的な製品群を揃えています。

さらに、2019年から新たに展開が始まった18Vバッテリーシリーズの後継規格40Vmaxバッテリーシリーズは高いバッテリー性能と防水規格への適合が特徴で、エンジン式をも超える高出力シリーズ80Vmaxへの拡張にも対応するなど、マキタ製品展開力の強みを生かした魅力的な製品投入を行っています。

こちらは次世代バッテリーの40Vmaxシリーズ。36V動作の製品ラインナップの数だけで単純比較すれば、先行するHiKOKI マルチボルトシリーズよりも対応製品数は多く、マキタの製品展開力の強さが光る。
参考;マキタ総合カタログ2021

充電式製品の園芸農業分野へ事業を拡大

マキタが新事業として進めているのが充電式園芸用機器(以下OPE)の研究開発・製品開発です。

2013年に草刈正雄主演の刈払機CMを始めてから、マキタは刈払機を初めとする園芸工具のラインナップを充実させてきました。マキタはエンジン式が主流の園芸工具に充電式園芸工具を認知させ、売り上げを伸ばしてきています。

これまでの園芸工具と言えばエンジン式が主流でしたが、エンジン工具独特の取り扱いの不便さや昨今の環境問題によるニーズを受けてエンジン工具の電動化を進めています。OPE製品は充電式への大転換期に差し掛かってきているとも言えます。

マキタ以外の電動工具各社でも園芸工具の取り扱いはありますが、マキタは充電式OPE製品の拡充に最も力を入れており、ホームユースからプロ向け使用まで幅広い製品展開を行っており、高出力用途の80Vmaxシリーズも加えてエンジン式と遜色のない充電式OPE製品を取り扱う国内唯一のメーカーとして、全国各地で製品実演会も積極的に行っているため、充電式園芸工具の分野におけるリーディングカンパニーと言える企業です。

マキタの園芸用製品の売り上げ割合は年々増加しており、2021年時点で全体の1/4を占める。今後も脱エンジン化の流れは進み、堅実な成長事業として売上拡大が期待される。

着実に営業基盤を拡大してきたマキタの強み

マキタはサポートや修理対応が速いと評判です。販売店からの評判も比較的良好であり、電動工具を取り扱う販売店でマキタ製品を置いていない店舗はほとんどありません。マキタ営業所は電動工具メーカーのなかで最も営業拠点が多く全国126カ所に配置されたきめ細かいサービス活動を展開しています。

例えば、電動工具が壊れた場合は購入した販売店へ修理を依頼するのが一般的ですが、マキタの場合は直接営業所に持ち込む修理対応にも対応しており、マキタ営業マンの店舗受け取りが無い分少しだけ修理期間を短くすることがdけいます。

マキタの電動工具は修理代金が比較的安く修理期間も短い特徴があり、仕事に使う道具として、高いアフターサービス体制を敷いているマキタはマキタブランドに高い付加価値を与えています。

性能と低価格戦略で攻める工機ホールディングス

工機ホールディングスは電動工具ブランド HiKOKIを展開する電動工具メーカーです。国内2位のシェアを持ち、マルチボルトシリーズを筆頭とする充電式製品やACブラシレスシリーズなどの独特な製品シリーズを揃えているのが特徴です。

HiKOKI電動工具は性能で優れた製品を投入する傾向が強く、他社が販売した製品のカタログスペックや欠点を改善した製品を販売する傾向が強いメーカーです。

製品仕様の性能向上に対しては最も貪欲なメーカーであり、ブラシレスモータ採用のインパクトドライバを国内市場で真っ先に投入したり、6.0Ahバッテリーを電動工具メーカーの中で最も早く販売するなど、性能向上に対しては並々ならぬ熱情を注いで製品開発を行っています。

最近は、競合メーカーとのシェア争いで優位に立つために価格改定やキャンペーン販売も行っており、他社と同スペックの製品であっても2~3割安い価格設定で販売している事も珍しくなく、セール販売時では4割近い値下げが行われているケースもあります。プロ向け電動工具ブランドとしては2022年現在で最もコストパフォーマンスに優れているメーカーです。

18Vと36Vに両対応するマルチボルトシリーズに強み

HiKOKIの持つ最大の強みこそ、18Vシリーズと36V電動工具を共通で使えるマルチボルトシリーズです。

マルチボルトバッテリーは18Vバッテリーを1つのパックに2つ内蔵した構成が特徴で、バッテリー電源の取り出し方を変えることにより18Vと36Vを兼ね備えたバッテリーです。

36V電動工具に使うバッテリーながらも、従来18Vの電動工具や充電器と使いまわせるバッテリーなので、昔ながらの18V日立工機ユーザーの方でも気兼ねなく36Vマルチボルトシリーズへ移行できます。

日立工機と工機HDの関係性について

日立工機は2017年1月13日に日立製作所から離れ、米国の投資ファンドKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)の傘下に加わり、日立グループから独立路線を歩むようになりました。

日立グループから離れた影響によって日立の名を冠するブランドが使用できなくなったため、2018年10月に社名を日立工機から工機ホールディングス(略称 工機HD)へと変更することになり、それまで販売していた日立工機ブランドもHiKOKI(ハイコーキ)へと変更しました。

工機HDは日立工機の事業を全て継承した企業で日立工機時代から販売製品・サービス等で大きな違いはないものの、旧製品の廃盤やライフサイエンス事業の売却などによって経営の効率化を進めています。

現在の工機HDの親会社に当たるKKRは、買収した企業の企業価値を高めて売却するプライベートエクイティ(PE)と呼ばれる形態のファンドであり、そう遠くないうちに再度他企業へ売却される可能性もあります。

マキタとHiKOKIどちらが性能で優れているのか

電動工具を選ぶ時に最も気になる要因として「どのメーカーの電動工具が優れているのか」だと思います。

この疑問に答えるのは難しく、何をもって優れているとするのかを考えるだけでも答えに難儀してしまうのですが、単純な性能比較であればマキタ電動工具もHiKOKI電動工具もほとんど違いがありません

前提として、電動工具は共通化の進んでいる産業製品であり、バッテリーや電子部品を他企業から調達している点も相まって極端なスペックの違いが出ることはありません。例えば、同じクラスの製品を使用した時に「マキタの電動工具じゃ作業が進まなかったけどHiKOKIなら作業ができる」のような致命的な程のスペック差は基本的に起こり得るものではありません。

実際の所、電動工具のメーカーの違いを分ける要素は、性能よりも工具本体のデザインや実際に使った時のフィーリングの好み、バッテリーシリーズのラインナップ数のような性能以外の点であることが多く、性能差によるメーカー間の違いはほとんどないと考えるのが良いでしょう。

マキタとHiKOKIの価格の違いについて

2022年現在においては、HiKOKIが低価格化路線を進めており、同クラスのマキタ製品よりも1~3割程度安いプロ向け電動工具が販売されている場合もあります。

HiKOKIはマルチボルトシリーズの展開以降、シェアの拡大を目的とした低価格戦略とキャンペーン戦略を推進しており、過去類を見ない程の低価格設定の新製品マルチボルトバッテリーの配布キャンペーンなど積極的な拡販戦略で実質的な低価格販売を行っています。

ここ最近はAmazonによるネット通販での低価格販売も推進していますが、一般的なHiKOKI取扱店よりも安い価格設定に対して疑問を投げかける販売店もあり、地域販売店への低価格販売フォローなども行われているようです。

マキタとHiKOKIの営業力(アフターサポート)の違いについて

現在の電動工具は、防じん防水適合のIP56やAPTなどと謳われていますが、集積回路を搭載した電子回路はホコリや水・静電気・衝撃などに弱い製品であり、使い方が荒ければ簡単に故障してしまいます。実際のところ、電動工具は製品は車よりも遥かに過酷な環境下で使われている工業製品の一つと考えられます。

国内電動工具市場のシェアの多くはマキタが獲得しています。マキタが持つ強みは営業力や修理体制、周囲の口コミ評判であり、電動工具ユーザーがマキタを選ぶ理由は製品そのもののスペックよりも、ユーザー間による口コミやアフターサポートによるものが大きいと考えられます。

故障してしまう事は仕方ないとしても、電動工具を使って稼いでいる職人さんにとって、仕事道具が使えなくなるのは困るものです。そのためバッテリーを周囲と使いまわせて、尚且つサポートの強いマキタが市場で選ばれているのは当然の事と言えるでしょう。

マキタとHiKOKIの製品展開の違いについて

マキタとHiKOKIは同じプロ向け充電式電動工具を主力に販売するメーカーですが、製品展開の戦略については若干の違いがあります。

マキタはあらゆる製品の充電式化を掲げており、電動工具以外の製品開発も進めており、ここ最近は園芸機器や清掃機器など従来の電動工具市場の枠を超えた新市場の開拓によってシェア拡大を進めています。

HiKOKIに関しては、基本的な製品開発傾向はプロ向け電動工具に絞られており、その製品についても競合他社が開拓した市場に性能で優れた製品の投入によってシェアを拡大する戦略を取ることが多く、ほとんどの場合でマキタ製品のベンチマークを元に性能優位な製品を売り出すことで優位に立とうとしています。

基本的な流れとしては、マキタはDeWALT・Milwaukee・BOSCHなどの他社で話題になった製品があればマキタは参考にした製品を販売し、HiKOKIはそのマキタ製品を元に性能を改善した新製品を販売する、のような流れで新製品が販売されています。

2020年の動向としては、プロ向け電動工具に集中したHiKOKIは新製品開発のネタ切れとなり、付属品の仕様を変えたり旧製品のマイナーチェンジによってお茶を濁していました。一方のマキタに関しては40Vmax化の手玉の多さと、園芸機器・清掃機器の展開によって製品ラインナップ数の驚異的な拡充を達成しています。

ちなみにIoTを含むIT技術や新技術を含む先端技術を活用した製品・サービスの提供に関してはマキタHiKOKI両社共に手を出しておらず、この点は良くも悪くも採算性を重視する企業文化として国内電動工具メーカーの弱みとなっています。

世界3社の電動工具ブランドはIoTを推進しているが、マキタHiKOKIはこの分野に弱い。

マキタとHiKOKIの知名度について

マキタとHiKOKIの世間一般知名度の差は大きく、日本国内における知名度差は約10倍、海外での知名度差は約40倍に達しています。世界的な評価としてマキタは「電動工具メーカー」と高い知名度があるものの、HiKOKIに関しては「低価格な電動工具メーカー(または日立ブランドを受け継ぐ空気工具メーカー)」と認識されています。

日本国内における一般層への知名度については、広報活動そのものよりも商材の違いによる影響が大きく、ターニングポイントとなった通販生活マキタクリーナーや充電式園芸機器のような一般家庭にも受け入れられる商材の有無が大きな明暗を分けたと考えています。

Googleワード検索数の違い。日本市場においては約10倍近い一般知名度の差がある。
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こちらは全世界での検索ワード数の比較。世界規模では圧倒的な知名度の違いがある。
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これは英語圏のとある電動工具フォーラムのスレッド数。やはり先進国市場ではDeWALTとMilwaukeeが強い
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ただし、マキタの知名度が高いと言っても一般ユーザーへの知名度はそこまで高いものでは無く、パナソニックのような総合家電メーカーと比べてしまえば、まだまだ「知る人ぞ知る謎のメーカー」です。

マキタと工機HDの企業規模について

マキタと工機HDの企業規模の差については、全ての面において倍以上の差でマキタが圧勝している状態であり、今後の企業成長も含めて評価すればマキタと工機HDの間には比較にもならない程の差が存在します。

どちらのメーカーもユーザーから多くの支持を受けており、マキタ派かHiKOKI派かでユーザーの意見が割れるほどの有力メーカーです。しかし、それはプロ向け電動工具の国内ユーザーシェアに限った話であり、この2社を世界的なシェアや売上額や企業規模など多角的な視点で比較すると両社には決定的な差があります。

リチウムイオンバッテリーを搭載の充電式電動工具発売以降、売上高の差は広がり続け、2021年時点で概ね2~3倍の企業規模の差がついている状態です。

2021年時点でのマキタと工機HDの企業規模の比較。この画像には記載してないが、年間特許出願数に関しても約3倍の差がある。

マキタと工機HD間の企業間的なシェア競争については、2017~2020年の間にHiKOKIによるマルチボルトシリーズの投入でマキタのシェアをお奪おうとする動きもありましたが、シェアを覆す決定的な要因とならなかったことで一旦勝敗が決したものと評価しており「工機HDがマキタに追いつくことは当面無い」と断言できる状態と言えます。

工機HDの成長戦略の根幹については、マルチボルトシリーズの投入とKKRによる経営リソース投入が頼みの綱でしたが、2022年の現時点まで有効な経営戦略を投入できたかは難しいと評価しています。今後、親会社のファンドKKRがどのように出口戦略をとるのか、また再度売却される場合、新たな親会社の元で経営方針がどのように変わるのかが注目されます。

マキタとHiKOKIの経営的な今後について

中長期的に考えれば、現在の電動工具市場の成長分野は、脱エンジン化のニーズやバッテリー多様化による新市場創出であり、その分野に上手く経営リソースを投入できたマキタは今後の成長性において及第点に達していると評価できる企業です。

技術的な点においては、世界市場で先行するSB&D・TTI・BOSCHに一歩遅れる点があるものの、マキタが最も強みを持つ営業力を活かし、これまでも継続的に売上を伸ばしてきた実績からマキタは今後も安定した成長を続けることでしょう。

工機HDに関しては、上場企業ではないので経営の実態について断定する事はできませんが、あまり芳しいものではないと観測しています。

一時期の工機HDは月1の頻度で経営陣の役職を変更していたり、資本金を134億から1億円まで減資したりと不穏な動きが目に付き、ここ最近の低価格販売も合わせてキャッシュ確保に走っているのではないか?捉えてしまう動きもみられます。親会社のKKRとしてはどうにかして日立工機買収の成果を出さなければならない立場にいるため、2022~2024年の内には工機HDの再上場または売却に関する発表が行われると推察しています。

電動工具市場は職人気質のユーザーが多く、ユーザーや販売店からの口コミによる影響が強いと聞きます。電動工具販売店はマキタ寄りの店舗が圧倒的に多く、ユーザーはマキタを選びやすい傾向にあります。また電動工具は壊れてしまう製品ですので、アフターサポートが手厚いマキタが好まれる傾向があります。

個人的な所感を含んだ総評としては、製品的な質感の良さやフィーリングとしてはHiKOKIが若干優勢、製品の調達性・修理対応や営業マンとの製品相談等に関してはマキタが圧倒的に優れていると評価しています。

マキタとHiKOKIの連結売上高の30年比較。マキタはリチウムイオンバッテリー製品の投入以降、売上拡大に成功しているが、工機HDはこの30年売上成長を達成できていない。
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