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movaケータイ SHARP SH506iCの動画データを再生したい
現在のスマートフォンは、専用カメラに迫るほど高画質な動画を撮影でき、撮影したデータもクラウドやUSB経由で簡単にパソコンへ簡単に移せるので手軽に再生や編集ができるようになっています。
しかし、いわゆるガラケーと呼ばれる携帯電話が主流だった2000年代は、写真や動画を転送するだけでもひと苦労な時代でした。ようやくパソコンへ移しても、携帯電話独自の形式で保存されていたことも多く、一般的な動画プレーヤーでは再生できないことも珍しくありませんでした。

筆者が初めて使った携帯電話は、ドコモのmova端末 SHARP SH506iCです。当時、撮影した動画はminiSDカードに保存しており、その後パソコンへデータを移行し、現在まで自宅のファイルサーバで保管してきました。

当時のSHARP製の情報端末で採用していた動画ファイルの拡張子は.noaと呼ばれるファイルであり、Nancyコーデックと呼ばれる独自の動画形式が採用されていました。Nancyは2000年代初頭にZaurusや一部のMotorola端末などで使われていましたが、現在においてはVLCメディアプレーヤーやMPCといった多形式対応のソフトでも対応できない過去の動画コーデックとなっています。

当時は、開発元のオフィスノアがWindows XP向けの専用プレーヤーNancy Clientを無償公開していたのですが、2007年頃に後公式サイトは閉鎖され、2012年にはプレーヤーの配布も終了。パソコンでNancy形式を再生するための手段は、いつの間にか失われてしまいました。

ファイル自体は残っているのに、その中身を見る方法がない。筆者は長年、動画のファイル名だけを眺めながら、いつか再生できないものかと考えていました。
そしてSH506iCを使わなくなって約20年が過ぎた現在、AIの力を借りながらNancy Clientと関連ファイルを解析し、ついにWindows 11上で映像と音声を再生することに成功しました。
本記事は、ガラケー時代に残された独自形式の動画を、AIとの試行錯誤の末に現代のパソコンでよみがえらせるまでの備忘録です。
ChatGPTにWin11環境でNancyコーデックの再生手段がないか聞いてみる
皆さんは、AIを使っているでしょうか。
筆者はGPT-4の頃まで便利ではあるものの、既存の検索やソフトウェアを大きく変えるほどの存在ではなく、特定の用途にだけ少し使っていた程度だったのですが、現在のChatGPT 5で検索・調査からプログラム解析まで対応できるようになり、もはや素直に感心するほかないまでになっています。
そんなある日、自宅のファイルサーバーを整理していると、久しぶりに拡張子「.noa」の動画ファイルを見つけました。そこで、Nancyコーデックを現在の環境で再生する手段と関連する情報がどこかのコミュニティで報告されていないかChatGPTに尋ねてみることにしました。

回答は想定通りの「Windows XP環境とNancy Client for PCを用意し、再生画面をキャプチャする」という内容です。

WindowsXPマシンは少し頑張れば現在でも用意できますが、肝心のNancy Client for PCが手に入らないので、この回答ではどうしようもありません。
しかしながら、今回のGPTの回答を読み進めていると、いつもと異なるものが書かれていました。

「消失した配布ファイルがWayback Machineに保存されており」
これは初耳です。筆者も閉鎖されたオフィスノア社のURLを元にWayback Machineにアクセスし、アーカイブからNancy Client for PCのダウンロードを試みていたのですが、ソフトウェア本体はアーカイブされておらず、現在の環境においてNancy形式の再生は事実上不可能だと諦めていました。
ChatGPTが示した情報をたどると、出典はロシア語圏のMotorola端末フォーラムでした。
そこでは、オフィスノアによる公式配布終了後に第三者が再公開していた形跡があり、その配布ページをWayback Machineが保存していたと記載されています。
経緯としてはあまり良くないものなのですが、公式から入手できなくなったNancy Client for PCのインストーラが入手できたこと大きな進展です。
こうしてNancy Clientを入手し、さっそくWindows 11で起動してみることにしました
Windows11でのNancyClient起動はOK、しかし…
早速、入手したNancyClientをWindows11にインストールして起動してみます。

Windows XP世代のソフトウェアですが、Windows11であっても特に問題なくインストールでき、ソフトウェアの起動も問題ありませんでした。このあたり、Windowsの後方互換性は良い意味で本当に頭がおかしいなと思っています。
さて、念願のNancyClientが手に入ったので、そのままnoaファイルが再生できるかと思いファイルを開いてみたのですが

音声は正常に流れる一方で映像部分は真っ暗なまま。再生時間は進んでいるものの、画面には何も表示されません。
とは言え、音声が再生できている以上、NOAファイル自体が壊れているわけではなさそうです。
これに関しては、WindowsVistaから報告されている不具合であり、WindowsXPマシンで再生しなければ映像が描写されないプレーヤー仕様となっているもののようです。
そんなわけで、NancyClientが手に入ったので、本来ならWindowsXP実機か仮想環境を用意し、動画をキャプチャして終わりにするところなのですが、AIの可能性を信じてもう一働きしてもらうことにしてみます。
GPTにバイナリを食わせて解析させる
少し前、Xのタイムライン上で「Windowsでしか動かないハードウェアでも、ドライバをLLMに渡せばMac/Linuxでも動くドライバができる」という趣旨の投稿を見かけました。
なんのこっちゃという方も多いと思いますが、ちょっとソフトがわかる方にざっくりと説明すると
「ソースコードが無い実行ファイルであっても、AIに渡して調べさせれば、リバースエンジニアリングの専門知識が無くてもソフトウェアの解析・改造できるような時代になった」という感じです。
これを今回の件に適用すれば、NancyClientをGPTに渡すことでWindows11環境でも動くソフトウェアに調整してくれる可能性があるということにもなります。
このあたりは著作権法やソフトウェアライセンス的にかなり微妙な領域なのですが、筆者が保有する動画を個人環境で再生することだけを目的としているので、GPTにNancyClientの実行ファイルを渡して、WIndows11で動画が表示できるようにできないか調べてもらうことにしました

NancyClientをGPTに見せた結果、以下のような原因で動画が表示されないらしいことが分かりました。
- Windows11では推奨されていないDirectDrawで描写処理が行われている
- デコードと描写を行っているのは実行ファイルではなく、nc.nextと呼ばれるモジュール
- 現行のGPUがYUVフレームを正しく処理できない
これもなんのこっちゃ、という感じですが、嚙み砕いて説明すると「Windows XP時代の映像描写処理が、Windows 11では正しく動いていない」のが根本的な要因なようです。
動画が表示されない原因もわかり、再生トラブルも解決
そんなわけで、GPTの指示を元に、Nancyコーデックのデコーダーと描写を行っているnc.nextファイルをWindowsのシステムフォルダから引っ張り出してAIに渡してさらに解析を行わせました。

この辺りでは、nc.nextと呼ばれるファイルもアップロードするよう求められていたのですが、該当のファイルが見つからなかったのでNancyClientのインストーラファイルごとアップロードして解析するよう指示したのですが、その解析は上手くいきませんでした。
回答を見てみるとアップロードしたファイルと解析結果のファイルサイズが合わなかったため。何らかの制限に引っかかったのかトークンの上限に引っかかってしまったのかもしれません。
結局、GPTから「nc.nextはWindowsシステムフォルダに入ってるはずだからそこから探してこい」のようなことを言われたので、nc.nextファイルを見つけて追加でアップロードしています。

解析した結果、nc.nextにはDirectDrawとGDI (StretchDIBits)の描写処理が組み込まれており、DirectDrawを使わずGDIで描写を行うことで描写できるだろうとの結論に至りました。
と言う訳で、nc.nextをGDIだけで動かすようにするバイナリを書き換えも提示してもらいましたが、せっかくなのでGPTにnc.nextを書き換えてもらい、Windows11で動作するNancyClientを生成してもらいました。

そんなわけで、改良版のNancyClientを起動してnoaファイルを再生してみます

動画は描写させるようになりましたが、3重にノイズが走っていて水平方向に反転しています。
やはり、AIに任せるのは無理なのかと半ばあきらめつつも「表示は三重にぼやけた状態になっており、水平方向に反転していました。表示を修正することは可能でしょうか。」と聞いてみます

普通に直してきました。有能すぎて怖いです。とは言え初めからGDI-24bit RGBで出してくれても良かったのに、とも思ってしまいますが。
どうやら、DirectDrawではYUY2形式で出力し、GDIでは24bit RGBを使う処理となっていたものをGDIでYUY2形式となってしまったことが原因だったようです。
と言うことで、GPTに出力を全てGDI – 24bit RGBで処理するように変えた改良版を作ってもらって再生してみます。

ついに、20年の時を超えてNancyコーデックのnoaファイルを現代のWindows11マシンで表示することができました。
20年ぶりの動画再生に嬉しさは感じつつも、AIによる解析やアップロードには注意
正直、Nancyコーデックの再生は諦めており、このまま思い出のまま未練がましくnoaファイルだけを延々とサーバに残していくつもりだったのですが、20年ぶりの動画データを見れたのと、失われたnoa動画ファイルを見る方法を確立できたことで、どこか肩の荷が下りたようにも感じます。
ネット上でNancyコーデックについて検索すると、筆者のようにnoaファイルの再生方法について調べている方もいるのですが、後述の通り記事内の方法はライセンス的に微妙な手段であるため、Nancy Client配布は行いませんが「現在のWindows環境でもnoaファイルを再生する手段は存在する」を知ってもらえればと思います。
さて、今回の流れだけを見ると、AIがNancy ClientをWindows 11向けに作り直したようにも見えるのですが、実際に行ったのは、Nancy Clientの動作的な分岐の調整です。
Nancy Clientには、古いDirectDrawを使う表示方法とは別にGDIを使って映像を表示する処理がもともと備わっており、Windows 11と相性の悪い古い表示経路を避け、既存のGDI描画を使うように調整したのが今回の修正内容となります。
一応、リバースエンジニアリングと言えばそれに該当するのですが、NancyデコーダーそのものがWindows11で動作しなかったり、NancyClient未入手でnoa動画ファイルだけしかなかった場合であれば、さすがに現在のAIでも対応は出来なかったかと思います。
さて、今回の記事では既存のファイルをAIに渡して解析させているのですが、これは色々とグレーまたはブラックな行為となります。
この辺りは色々な捉え方があるのですが、著作権法的には技術調査としての解析は認められるものの、ソフトウェアライセンス的には個別の要件によるところがあります。
実際、Nancy Clientに同梱されていたライセンス文書ではリバースエンジニアリング・改変・第三者への譲渡を禁止する明確な構文があり、今回のようなAIへのアップロードや改変はライセンス的には違反となります。
この辺りのライセンスは、権利者が現在におけるサポートや代替手段が存在しておらず、個人として自己所有の動画の再生のための最低限の修正、のような言い訳はあるのですが、開発元の公式サイトや配布環境が失われていたとしても、著作権やライセンス上の権利まで消滅したと判断できるわけではありません。
本記事は、Nancy Clientを用い自己所有のnoaファイルを再生する目的で行ったものです。デコーダの改変や実行環境の変更を目的としたものではなく、元々備わっていた機能に対してWindows 11と互換性のない映像描画処理のみを調査・修正しています。また著作権上の理由から、Nancy Client本体や改変済みモジュールの配布は行いません。





