
経済産業省は2026年8月31日、事故が急増しているモバイルバッテリーについて、現在の丸形PSE(○PSE)から、登録検査機関による適合性検査を必要とするひし形PSE(◇PSE)へ移行させる方針を示しました。
2026年9月3日時点の注意:確定しているのは審議会で示された「制度改正の方針」です。改正政省令はまだ公布されておらず、対象範囲や経過措置の最終文言は今後の法令改正で決まります。本記事では、確定事項と筆者による見通しを分けて解説します。
- モバイルバッテリーを◇PSEの対象にする政策方針が、2026年8月31日の製品安全小委員会で確認された
- 技術基準の強化、製造工程の品質管理、登録検査機関による第三者適合性検査が導入される見込み
- 施行は2027年3月、経過措置案は1年間と想定
- 現時点ではモバイルバッテリーを独立区分にするのか、法令上の書き方については未確定
- 審議会での経済産業省の回答からは、モバイルバッテリーを切り出して規制する案が有力と想定される
2026年8月31日の委員会で何が決まったのか
2026年8月31日に開催された経済産業省の第26回産業構造審議会 製品安全小委員会で、モバイルバッテリーを「特定電気用品」に指定し、ひし形PSEの対象とする方向性が示されました。

モバイルバッテリーは、これまで電気用品安全法の中の区分として「リチウムイオン蓄電池」に該当し「特定電気用品以外の電気用品」の対象でしたが、今後は製造や輸入販売に関してより厳しい基準が適用されることになります。
審議会資料で示された対策は、大きく分けて次の3点です。
- 技術基準の強化
セル単体だけでなく、充放電制御や保護回路を含めたモバイルバッテリー全体の安全性を確認する。 - 品質管理の義務付け
異物混入の防止、製造工程の管理、検査記録など、設計だけでは防げない製造品質のばらつきにも対応する。 - 第三者による適合性検査
登録検査機関が製品の技術基準適合性に加え、工場の検査設備などを確認する。

現在のモバイルバッテリーは「リチウムイオン蓄電池」として丸型PSEの対象
現時点だとモバイルバッテリーは、電気用品安全法施行令別表第二の「リチウムイオン蓄電池」に該当しています。

モバイルバッテリーを始めとするリチウムイオンバッテリーで給電を行うバッテリーパックは「特定電気用品以外の電気用品」と呼ばれる区分の製品であり、販売に際して丸型のPSEを製品に表示することが義務付けられています。
この丸型PSEを表示するには、製造または輸入を行う事業者が経産省に販売開始の申請を行い、技術基準に適合する証明書を整えた上で自主検査を行えば自主的に表示できます。そのため、基本的に認証や許諾を受けるものではありませんでした。
丸型PSEは「検査をしていない」という意味ではありません。事業者自身が基準適合を確認する制度であり、ひし形PSEになると、登録検査機関による適合性検査が必要になり、より厳しい技術基準や製造検査などが求められるようになります。
今回の改正のひし形PSEになった場合、丸型PSEよりも厳しい登録検査機関による適合性検査や製造工程の管理が必要になります。
| 比較項目 | 現在の○PSE | 移行後の◇PSE案 |
|---|---|---|
| 法令上の区分 | 特定電気用品以外の電気用品 | 特定電気用品 |
| 基準適合の確認 | 製造・輸入事業者 | 製造・輸入事業者 |
| 自主検査 | 必要 | 必要 |
| 登録検査機関の適合性検査 | 不要 | 必要 |
| 製造工程・検査設備の確認 | 事業者の管理が中心 | 第三者確認を含む制度になる見込み |
| 表示 | 丸形のPSE | ひし形のPSE |
規制強化の背景には、近年多発傾向にある発火事故
今回のモバイルバッテリーの規制強化の背景には、近年多発しているモバイルバッテリーの発火事故があります。
経済産業省の資料によると、モバイルバッテリーの事故件数は、2021年の51件から4年後の2025年には約4倍となる192件へ増加しました。

事故原因を特定できないケースも多いものの、NITEは、電極の巻きずれ、製造時の異物混入、充放電制御や保護機能の不足、落下・圧迫などの外力による変形を原因候補として挙げています。

従来の丸型PSEであっても技術基準への適合が求められているものの、製造品質や検査能力の確認は事業者の自己確認に委ねられており、その仕組みでは事業者ごとの管理水準に差が生じてしまいます。
そこで、第三者検査と品質管理要件を組み合わせ、安価なセルの組み立てや保護回路の不備、工場の工程管理を行うようにすることで事故を減らすことが今回の改正方針になっています。
ひし形PSEによってモバイルバッテリーはどう変わるか
ひし形PSEの対象になると、登録検査機関による検査を受け適合証明書を取得する工程が加わります。
これまでの丸型PSEは、技術基準によって定められた製品試験を行うことでPSE適合と表示できましたが、ひし形PSEでは工場の検査設備や品質管理体制などの製造領域に対する第三者確認が必要になります。
例えば、ひし形PSEの対象となったモバイルバッテリーでは、新たに下記のような工程が必要になります。
- 製品型式ごとの試験・申請費
- 登録検査機関による審査と適合証明書の保管
- 工場側の検査設備、校正、工程管理
- 部品やセルの変更時における再評価
- 製造ロットや部材仕入先を追跡できる記録管理
これらの要因から、「海外サイトで見つけた製品を少量輸入し、低価格で短期間販売する」のようなビジネスは今後は難しくなると考えられます。
これらは安全性を高める上では重要な要素ですが、販売台数にかかわらず発生するコストにもなります。
例えば、大手メーカーや長期間販売する定番製品では吸収も可能ですが、小規模事業者や少量多品種の事業者にとっては重い負担になる可能性があります
低価格で無名メーカーのモバイルバッテリーは減り共通化が進む可能性も
規制強化後は、極端に低価格なモバイルバッテリーや、販売者・製造工場が頻繁に入れ替わる製品が減る可能性があります。検査費用や品質管理費用を商品価格へ転嫁すれば、平均価格が現在より高くなると考えられるためです。
ただし、「◇PSEになれば、すべての製品が一律に大幅値上げする」とまで断定できる訳ではありません。例えば、USB充電器などはひし形PSEの製品ですが、比較的手ごろな価格で購入が可能な製品になっています。
市場で起こりやすいのは、単純な全面値上げよりも、メーカー数と型式数の整理の方向になるかもしれません。短命で極端な低価格製品は減り、同じ筐体やセル構成の製品を長期間販売する方向へ変化する可能性があります。
最大の注目点:モバイルバッテリーが独立して、ひし形PSEになる
製品安全小委員会の動画では、委員から、モバイルファン、掃除機、電動アシスト自転車、電動車いす、ポータブル電源など、リチウムイオン蓄電池を搭載する全ての製品についても、ひし形PSEに変える対策が必要ではないかという趣旨の意見が出ていました。
これに対し経済産業省は、1時間29分30秒から、「モバイルバッテリーを挙げた背景は事故件数の急増にある」と説明しており。本改正は、あくまでも「モバイルバッテリー」のみを対象すると想定されます。
ちなみに、現行の電気用品安全法の制度では、モバイルバッテリーという独立した名称はなく、「リチウムイオン蓄電池」の中にモバイルバッテリーを含む形となっています。そのため、改正によって新たに「モバイルバッテリー」と呼ばれる区分が作られることになると考えられます。
電動工具や自転車、掃除機などの着脱式バッテリーなどは今回の改正法には含まれず、これらは「リチウムイオン蓄電池」のまま丸型PSEの扱いになると想定されますが、動画内1時間30分12秒では、その他の製品も事故状況を見ながら必要な対策を検討する方針を示唆しています。
特に、2022年には実質的にマキタ互換電動工具バッテリーの規制強化を目的とした技術基準の改正などは行われたものの、現在でも電動工具互換バッテリーによる発火事故は発生傾向にあり、今後、事故がさらに増加傾向になれば、今回のモバイルバッテリーのように個別にひし形PSEへ移行したり、技術基準や品質管理要件が強化されたりする展開も十分に考えられます。
今回の改正で予定されている今後のスケジュール(案)
経済産業省の資料では、次のスケジュール案が示されています。
- 2026年9月~11月:技術基準と品質管理要求事項を検討
- 2026年12月:小委員会で改正案を審議
- 2027年2月まで:関係政省令を公布する予定
- 2027年3月:施行、登録検査機関による適合性検査を開始する案
- 施行後1年間:経過措置を設ける案

経過措置期間中は、従来の○PSE製品と新しい◇PSE製品が市場に併存する見込みです。ただし、施行前に製造・輸入された在庫の販売期限や、型式変更時の取り扱いは今後の法令・通達を確認する必要があります。
改正で今後ありそうな疑問
手元の丸型PSEのモバイルバッテリーは使えなくなる?
現時点の資料では、消費者がすでに所有している○PSE製品の使用を禁止する方針は示されていません。規制の中心は、施行後に製造・輸入・販売される製品です。
ひし形PSEなら絶対に安全と言えるのか
絶対的な安全を保証するものではありません。製造時の品質不良を減らす効果は期待できますが、落下・圧迫・高温・劣化・誤使用まで完全に防ぐことはできません。
価格はどのくらい上がってしまうのか
検査費用や具体的な基準については未発表となるため、現時点では具体的な金額は予測できないものとなります。ただし、少量販売の製品や小規模事業者ほど影響を受けやすく、大量生産になるほど1台当たりの負担を抑えられると考えられます。
電動工具や自転車の着脱式バッテリーも改正の対象になるのか
現時点では詳細な改正文は開示されておらず、対象や範囲も未定となります。今後の施行令別表第一・別表第二の改正文が判断材料になります。ただし、委員会の答弁の中では、モバイルバッテリーのみが対象になる可能性が高いと想定されます。
まとめ
筆者は、業務上の都合から発火したリチウムイオン搭載製品の解析調査に立ち会うこともあるのですが、その関連で話を聞くと、発火するほとんどの製品が出自不明の中国ブランドのリチウムイオンバッテリーセルを採用している製品なのだそうです。
モバイルバッテリーを丸型PSEからひし形PSEへ移行する今回の改正は、安全性を製造・輸入事業者による自己確認だけに委ねず、登録検査機関による確認と製造工程の品質管理を加える大きな制度変更になります。
モバイルバッテリーのような小さなリチウムイオン蓄電池は、海外工場によって製造がおこなわれており、事実上ほぼすべてのモバイルバッテリーが輸入販売事業者によって国内流通している状態です。
モバイルバッテリーは海外から比較的手軽に輸入販売できる商材であり、リチウムイオンバッテリーに対する技術的な知見不足や工場監査を実施できない輸入事業者も増え、さらにUSB PDによる大電流充放電化などの影響も受けて、一気に製品事故のリスクが上がった製品になったと言える状態になってしまったのかもしれません。
規制強化は発火事故の抑制に寄与する可能性が高い一方、検査・品質管理コストによって、極端に安い製品や少量多品種の製品が減ることも予想されます。市場は「安さと製品数」を競う状態から、「継続的な品質管理と追跡可能性」を競う方向へ変化するかもしれません。
今回の改正はモバイルバッテリーに限定される可能性が高いものの、経済産業省は他のリチウムイオン蓄電池製品についても事故状況を見ながら検討するとしています。
今後の方針次第では、電動工具や電動アシスト自転車、掃除機、カメラなど、幅広いバッテリーがひし形PSEとなる可能性も0ではないのかもしれません。
参考資料
- 経済産業省:第26回 産業構造審議会 製品安全小委員会
- 経済産業省:リチウムイオン蓄電池の事故状況及び今後の対応について(PDF)
- 第26回 製品安全小委員会 配信動画
- ケータイ Watch:モバイルバッテリーのPSE規制強化に関する報道
- e-Gov法令検索:電気用品安全法施行令
- NITE:非純正バッテリーによる事故への注意喚起
※本記事は2026年9月3日時点で公表されている資料を基に作成しています。改正政省令の公布後、対象範囲、施行日、経過措置、技術基準の確定内容に合わせて内容を更新いたします。





